工場で墜落事故 最終

2017年02月16日 18:56

いま、手術室でレントゲンイメージを使い血管造影するのなら、
すぐにでも可能だ。
血管造影室での血管内治療より、
ここ、手術室での血管内治療のほうが、
早くできる。
早くできれば、
輸血量を減らせる。
凝固機能も早く戻る。
昆医師に電話を掛けた。
「はい、それなら、手術室で血管造影します」

大腿の止血手術が終わったころ、
続けて、手術室の骨折牽引手術台で昆医師と田中医師による
血管造影が始まった。
出血部はすぐに分かった。
深大腿動脈だ。
血管内塞栓術もうまくいった。

藤田医師が手術室に戻ってきた。
「入院患者さんが、
心筋梗塞になりました。
心臓カテーテル室へ移動前に、
心肺停止になりました。
難治性VFに対して
PCPSを導入しました」
「重症外傷の手術と
PCPSを同時並行でやっていたんだ」私
「はい」明るい返事だった。

我々は輸血を継続しながら、
男性を手術台からベッドに移した。
血管造影と止血術で止血は完了した。
午前0時を過ぎたころ、
ようやく、男性は
救命救急センターに入院した。

隣のベッドには、
胸腔ドレーンがつながっている患者が寝ていた。
「あれ、この患者は何?」私
「工場墜落外傷のすぐ後で、
屋根から墜落した外傷にドクターヘリが出ています。
木村医師が運んできた、
もう一人の重症外傷です。
気胸、背骨の破裂骨折、骨盤骨折です。」近藤医師

年末のERには、重症患者は重なって運ばれてくる。

国民が、通常の医療者が休息している時期に、
救命救急センターは大活躍する。

「今年は、元日が日曜日で損した気持ちですね」研修医
「なに言っているの、
日曜日が元日だと、
年末年始の連休が6日で終わる。
ほっとします。
いつだったか、9連休の時は、
激しい終わりのない救急診療で苦しかったです。
今年は、6日で終わるので
よかった」伊藤香葉医師が笑って言う。



工場で墜落事故 完

工場で墜落事故 そ の7

2017年02月15日 18:55

総輸血量は、ERと手術室で20単位を超えた。
凝固障害も出ている。
ますます、止血ができない。

私は、ガウンを着て手術野に入った。
止血術を開始する。
お手上げ状態の大腿出血を収束させるために。

筋肉内から、出血が沸いてくる。
筋肉内出血に対して、穴掘り型の止血操作は成功しない。
比較的大きく切開して
確実に止血するべきだ。
骨折骨髄からの出血は、
凝固機能が戻るのを待つしかない。
それには、凍結血漿輸血だ。
筋肉を開く、そして出血部の見当をつけた。
止血タオル2枚を出血部位近くに押し込んだ。
圧迫してみる。
すると出血が減った。
出血部はタオル近くにある。
圧迫してとまるなら、
さらに圧迫を続ければいい。
凍結血漿輸血で凝固機能が戻るまで、
圧迫を続ければいい。

そして、切開したばかりの皮膚に、太い絹糸をかけて、
創を縮小し、止血タオルを上か押さえる。
内腔吸引用に18Fサンプチューブ入れる。
プラスチックバッグを創の表面にあてがい、
周囲を太い糸で十数か所縫合固定する。
プラスチックバッグの上をフィルムドレープでカバーした。
150回を超えていた脈拍は90台に戻った。
止血術はうまくいっている。
タオルによる圧迫と
創内吸引による、創内陰圧により、
筋肉が密着し、タオル圧迫効果が強くなり出血の勢いが止まった。

私は、血管造影室の準備をお願いした。
それに、呼応して
藤田医師が放射技師に電話した。
続けて、昆医師に電話した。

男性の大腿の出血の勢いは治まったが、
完全ではない。
血管造影で塞栓術が確実だ。

誰かのPHSが鳴った。
私は、手術に集中していたので、
その内容は知らない。
少しして藤田医師が手術室にいないのに気付いた。

男性の止血手術を終えれば
血管造影室へ移動開始の準備を始める。
しかし、
骨折手術用の牽引手術台に男性は固定されていた。
頭側には、おびただし静脈ラインや加温装置がある。
これらを整理して、血管造影室に到着させるには、
短く見ても30分は要する。
(続く)
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劇的救命ポスター名古屋

名古屋で開催されている
日本集団災害医学会学術集会で
劇的救命ポスターが張られました。
2017年11月10,11日に八戸で開催される
日本航空医療学会の宣伝です。

工場で墜落事故 その6

2017年02月14日 22:54

手術室の準備ができたところで
整形外科医師と一緒に手術室へ移動した。
2名の整形外科医師と
救急医合計6名だ。
年末の救急医療体制は重装備だ。
年末に手薄になる市内の医療を、
救命救急センターが穴埋めする。
通常の日曜より、重量配分している。
年末だからこそ、
出勤医師を増やす。
われわれには、
その代わりの代休はない。

ERでは、その間も3名の救急医と、5名の研修医が働いている。
1年目の研修医から最近苦情が出ている。
1年目の研修医が年末の日中に8時間ERで働いても、
日当は6000円だけ。
ローソンより安いという。
市民が抱く医師の高級月給とは違う。
高級月給は、
よその病院の話だ。
八戸救命とは縁が遠い。

手術室で両側大腿骨折、動脈損傷の手術が始まった。
麻酔係は、
梅谷医師と伊藤香葉医師。

大腿動脈と大腿骨折からの出血が止まらない。
骨折と筋肉損傷、動脈損傷で、
筋肉内圧が急上昇しているのだ。
コンパートメント圧は80mmHgと高い。
血圧からコンパートメント圧を引いた数字が、
筋肉に届く血流量となる。
今は、引き算するとゼロに近い。
これでは、筋肉と神経が壊死する。
筋肉の圧力を減らすために、
皮膚切開と筋膜切開を入れた。
これによりコンパートメント圧は低下した。
しかし、次の瞬間、解放した筋肉より、
動脈色の出血が吹き出した。

血圧低下、脈拍上昇、アシドーシス、
無尿状態に陥る。
輸血は急速に入れている。
輸血担当は、藤田医師だ。
藤田医師は日中のドクターカー当番。
夕方からドクターカー当番は
今野部長に替わっている。
手術はすでに夕方にかかっていた。
(続く)

ERアップデート

2017年02月13日 22:12

先日、大阪で全国の研修140名に救急セミナーを開催しました。
講師は、
私と
寺澤秀一教授
箕輪良行教授
山中克郎教授
徳田安春教授
林寛之教授
小淵岳恒教授

その写真が掲載されました。

日本救急医医学会のホームページに
http://qqka-senmoni.com/3283

FACEBOOKでの告知も行われています。
https://www.facebook.com/qqka.senmoni/

0205_全体会_今先生_講義_1

0205_全体会_今先生_講義_3

0205_ワークショップ_今先生_スキル_19

0205_ワークショップ_今先生_スキル_24

0205_ワークショップ_今先生_スキル_14

工場で墜落事故 その5

2017年02月13日 18:53

橈骨動脈の脈拍が触れない。
胸部の大動脈でバルーン(風船)を膨らまし、
大動脈の血流を下腹部から下に行かないようにした。

橈骨脈拍が触れるようになった。
木村医師が入れた動脈圧で血圧が測定できた。
血圧100.
輸血は続けられた。
大量輸血を予想したので、
凍結血漿の輸血も開始した。

ドクターカー医師の藤田医師は、
頭側に立っている。
意識が落ちてきている。
患者は目を閉じている。
「気管挿管します。
筋弛緩薬使います」

今野部長は頸椎を固定しているカラーを外し、
両手で頸部を固定する。
気管挿管で頸椎が進展すると、
仮に頚髄損傷があるとした場合に、
症状が悪化するから。
藤田医師が、
ビデオ喉頭鏡(エアウェイスコープ)を口に入れた。
そして気管挿管した。
上手い。
一発で成功だ。

血圧の安定、
呼吸の安定を待って、
患者はCT室へ移動した。

私は、患者の母親に病状を説明する。
まだ40歳台くらいの母親は、
私の説明を聞くと、震えだした。
私は彼女の肩を支える。
(続く)