冬の川に落ちた女性の劇的救命

2017年03月01日 18:52

女性は朝8時前には、
いつも通りに朝ご飯食べた。
少しして、家族は仕事に出かけた。

13時過ぎに家族は仕事から帰り、
女性の部屋を見に行った。
見あたらなかった。
不審に思った家族は
家の周りを探した。

認知症で迷子になっているのではないだろうか?
探す範囲を少しずつ離れた場所まで広げた。
13時45分くらいに家の裏の川(水位10~20cmくらい)の中で、
側臥位で倒れているところで発見。
運がいい。
冬の川は水かさが少なかった。
溺れるほどは水がなく、
でも、体の半部くらいは水につかっていた。
冬の川の水温は零度近い。
着衣はジャンバー2枚くらい着ていたが裸足だった。
冬の北国の川であり、
体温低下は簡単に予想できた。

救急隊接触時は、
血圧sBP60台、心拍数60台、shockだ。
開眼していたが視線は定まらず、
声かけしても反応なかった。
ただ、手は動かしていた。
意識障害あり。
救急車はドクターヘリとのランデブーポイントに向かった。

患者の発生場所の上空は雪雲の影響でヘリコプターはそこまで進入不能だった。
替わって、そこより南の街十和田市にランデブーポイントを設定しなおした。
低気圧の影響で、
視界がわるく、
ドクターヘリは十和田市より北には進めなかったのだ。
結局ドクターヘリは、発生場所より南の十和田市に着陸した。
そこから、十和田市の消防本部の協力を得て、
赤車で前進する。
その距離緊急走行で15分くらい。
(続く)

理想の医師に近づく光

2017年02月28日 18:43


八戸救命卒業生の
木川 英医師の文章が雑誌に載りました。
転載します。
木川英めからうろこ

「理想の医師に近づく光」
川越救急クリニック 副院長 木川 英
Doctors magazin2017年3月号

かつて自分が患者だった頃、
技術を持った心温かい、
優しい医師にかかりたいと思うもかなわず、
それだったら自分がそうなるしかないと夢見ていた少年時代。
その後、医師になって駆け出しの時期、
3日に1回の当直や休日出勤するたびに、
他の人が休んでいる時に何でこんな苦労してまで働いているのだろうか。
自分が心から望んでなれた職業はこんなにつらいものなのか。
などと、弱音を吐くことも多く、
自分を見失っていた時に、
「生きることの最大の障害は期待を持つということであるが、
それは明日に依存して 今日を失うことである」(セネカ)
という古代ローマの偉人の言葉に救われた。
今を懸命に生きることが明日につながることを信じて、
日々を生きてきた。
そして自分の医師という職業に対する熱意を回顧して、
医療の原点である救急の分野に進む決意をした。

現在は、破天荒な夜間救急専門クリニックで診療をしているが、
救急医療の原点を教えてくれたのはかつてこのコラムで
「太平洋漂流溺水心停止」をPCPSで劇的救命した今明秀先生である
(このコラムにちらっと私が登場していた) 。
今でこそ、
八戸救急は一つのブランドになっているが、
最初からそうだったわけではない。
院内、行政、さまざまな壁にぶつかりながら、
その都度突破して、
夢を実現してきたのを目の当たりにしてきた。
一次から三次まで全ての救急患者を診察し、
さまざまな夢を持つ仲間たちと過ごした日々は、
本当に「劇的」な筋書きのないドラマだった。
北国青森県で経験した全ての出来事は今の私の血となり肉となっており、
そのスキルを発揮するためにここにいる。

しかし、この数年ですっかり医療業界の人間になっており、
変な自信が付いてしまい、
体中にウロコが付いてしまったことを自覚していなかった。

その北国で非医療者である妻と結婚し、
子供にも恵まれた。
勤務時間が不規則な上、
帰宅すると睡眠に陥ってしまうので、
会話の中で仕事の愚痴っぽいことを言う機会は少ないのだが、
そのような中で医療者としては常識でも、
一般的には常識でないことがある。

木川「いやー、真夜中にちょっとした発熱くらいで救急車を呼ぶかねー。
そのまま寝かせていればいいのに」
妻「あなたが医者だから、この子は病院に行かずに済んでいるけど、
普通の人なら心配に思うでしょ」
木川「ノドの辺りから変な音がして苦しそうって連れてきたんだけど、
あれは明らかにしゃっくりだから、
わざわざ病院に来る必要はないんじゃなかったかなー」
妻「あなたはしゃっくりってすぐに分かるかも知れないけど、
普通は呼吸がおかしいと思うでしょ」
木川「アナフィラキシーならもちろん緊急事態だけど、
はちにちょこっと刺されたくらいで病院に来るのかなあ。
痛みがひどいとかかゆいならまだ分かるけど」
妻「はちに刺されたら、病院に行くでしょ。
何が起きるか分からないもん」
子「おなかいたい」
木川「どれどれ、パパが診てあげるよ」
圧痛なし、その他の所見も異常なし。
その後、普通に走り回っている。
木川「本当に痛いのかなあ。メンタル的なものか」
妻「あなたはいやなことがあって、
お腹が痛くなったことがないんでしょうけど、
本当に痛いんだよ!適当なこと言わないで!」

かつて自分が一番嫌いだった
なりたくなかったような医師になってしまい、
それに気付かぬままここまで来てしまった。
しかし、そんな自分に対して厳しくも適切なコメントをくれた家族に救われた。
もし妻が医療者であったら、
私の文句に同意してしまっていたかもしれない。
患者さん一人ひとりと真剣に向き合って、
患者さんに優しくありたいという医師を目指した原点を教えてくれた
妻と子の言葉や態度で目からウロコが落ちたのである。

救命センター充実度92点

2017年02月27日 18:02

救命救急センターの診療体制の
平成28年度の充実度を厚生労働省が発表しました。
27年度実績です。
八戸市立市民病院救命救急センターは
自己最高タイの92点を獲得しました。
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000148552.pdf
これで4年連続
東北北海道で一位です。
救急車受け入れ数5,943件
重篤患者数2,106人。
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000148270.pdf


全国一位は
神戸市立病院で
なんと101点の満点。

過去の記録を見ると
平成26年度救命救急センターの充実度評価結果では、
八戸市立市民病院救命救急センターは得点92点。
26年度は充実度全国9位でした。
その時は
東北北海道で初めて90点越えです。
その時も
一位は神戸市立病院。

さらにその前、
12年前の八戸市立市民病院救命救急センターは
充実度は全国下から2番目でした。
私が赴任してきた年です。
それと比べると
八戸は
大躍進です。

顔面外傷にサンダーバード作戦 最終

2017年02月26日 18:12

ナースはイソジンを渡してくれた。
左胸のシャツは切り開かれていた。
私は男性の左腕を頭側に挙げた。
これで、肋骨の間が開く。
開くと、手術しやすい。

円靱〈丸いメス〉を使う。
胸骨左から中腋窩戦(広背筋の手前)まで、
左乳頭より4cm下方を弓状に切開した。
メスは3回引く。
皮膚、脂肪、筋肉、
胸膜はペアン鉗子で突き破る。
穴をあけた胸膜にハサミを入れる。
内側、外側の順で胸膜とそれにくっついている筋肉を肋間で切開する。
私は、両手で、肋骨をつかむ、そして、
切開した創を開大した。

創から見えた肺は、出血していた。
血胸はすこしある。
心臓破裂はない。
大動脈損傷は見えない。
横隔膜破損ない。

右手の平で心臓を握った。
大きさは普通。
手のひらサイズだ。
心嚢液はない。

心臓マッサージをしながら、指示を出す。
「佐々木先生、呼吸数は12回。過呼吸は心臓によくない。
静脈還流が減るから。」

「隊長、現場出発してください。
陸路出ERに運びます。
ドクターヘリは帰ってもらってください」
現場滞在時間は4分だった。

開胸術で心拍再開すれば
ドクターヘリ搬送を考えたが、
今回は、心静止状態であったので、
CPRを継続しやすい陸路搬送を選択した。
17分後に救急車はERに到着した。

残念ながら奇跡は起きなかった。

合掌。

(続く)

顔面外傷にサンダーバード作戦 完

顔面外傷にサンダーバード作戦 その3

2017年02月25日 18:11

消防隊の誘導で、
私たちは走った。
約200m。
両方方向の車線は通王止めになっていた。
上空から見た事故現場は近づくと凄惨なものだった。
一体どうすればこのように電柱と車がぶつかるのか。
運転席は大破し、形がない。
これでは、運転手は、重症に違いない。
ひょっとしたら、心臓停止しているかもしれない。

事故車両には、患者はいなかった。
消防隊長が救急車の方を指さした。

我々は、事故現場の南10mに停車していた救急車に近づいた。
ハッチドアをノックしてから開けた。

救急隊長はCPRをしていた。
「通報時は呼吸ありだったようです。
救急隊接触時はCPA.
波形はPEAです」
口腔内から血液が飛び出ていた。
胸骨を押すCPRは、ゆがんだ胸壁に無効に思えた。
男性はまだ若かった。
私は、すこしの間考えた。
鈍的外傷で、現場で心肺停止状態。
救急隊接触時にすでに心肺停止状態。
胸部と顔面外傷。
もしかしたら、頚髄損傷かもしれない。
私は悩んだ。
ここで開胸手術すべきか、否か。
もし、開胸手術しないのなら、
諦めるということだ。
この変形胸壁に通常のCPRは効果ない。
結論を出した。
現場で開胸し心臓を動かそう。
開胸心マッサージをしよう。
そう決めた私は、看護師に告げた。
「ここで左開胸する。
佐々木研修医は、気管挿管して。
気管挿管は難しいよ。
顔面外傷で血だらけだから、
正門が見えないかもしれない。
ガムエラスティックブジーを用意してから挿管して。
救急隊長は、両手で頚椎を保護してください。
両手で耳を持って、首を一直線にしてください。
喉頭鏡で挿管しますが、
負けないように、手で頚椎を固定してください」
「やってみます」佐々木研修医
佐々木研修医にとっては、
始めてのdifficult airwayだ。
「ゆっくりとい準備していいよ。
慎重にチューブを入れて、
最高にいいのは気管挿管成功。
2番目は、挿管できない。
最悪は食道挿管だから。
(続く)