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トラクター転落事故 最終

2018年09月18日 18:56

そんな時は、ヘリコプターがカラで離陸し、
安全に患者を収容できる平坦な場所まで飛んで行き、
患者と医師看護師が乗る救急車を待ち受ける。
「患者死亡のため、ヘリコプターに収容しません。
我々は撤収します」ナース

私は、救急隊長に不明なことがあれば警察協力医へ情報提供できることを伝えた。
草地を歩きながら携帯電話に話す。
「ダイレクトブルーですか。
十和田市にドクターヘリ事案は
患者死亡のためカラで病院へもどります」

後席に、3名が乗り込みシートベルトを締めた。
エンジンスタートし、
まもなく土からスキッドは離陸した。
まず右スキッドが離れ、次に左スキッドが離れた。
斜めに高度を上げてゆく。

強い日差しの中をEC135は病院へ向かった。
患者用のストレッチャーは無人だった。


トラクター転落事故 完

トラクター転落事故 その4

2018年09月17日 18:54

ドクターヘリの胴体の下についている2本のスキッドは、
草地の土をしっかりと噛んだ。
機長が着陸時間を宣言した。
整備長が「先に右ドアを開けます」と言って左前でドアから外に出た。
私は、森医師とナースに
「現場でレスキュー隊の救助活動が始まるかもしれない。
その場合は狭い場所に進入して救命処置をすることもある。
ヘルメットをかぶって現場に向かうよ」と伝えた。
メインローターが回る下を森医師、私、ナースの順で外へ出た。
草地の土は割と硬かったが、
2トン近い重量のEC135が着陸すると、
約5zmくらいは沈む。
私は安全靴の編み上げ紐を上まで締めておいた。
ダウンウオッシュで揺れる草地を我々は走った。
20m先で消防隊が手招きする。
草地から右下方向に高さ2mくらいの斜面を降りる。
すると、林の中にトラクターが見えた。
車体はひっくり返っていた。
先着した隊長が
「CPAです」とこちらに叫んだ。
ヘルメットを被ったままで、私は男性に接触した。
頸動脈の脈拍は触れず、呼吸の胸の上がりはなし、痛み刺激に反応せず、
眼球は乾燥している。顎は硬くて開かない。
体温は気温が高いせいか冷たくない。
「蘇生不能です」私は隊長に強く伝えた。
森医者は超音波検査をする。
「心静止、心嚢液なし、腹腔内出血なし、血胸なし」
心停止の原因は胸部外傷ではない。
よく観察すると、骨盤にトラクターの中心が乗っていた。
私は隊長に伝えた
「おそらく死因は骨盤骨折でしょう。警察協力医に後は任せます。
ドクターヘリは撤収します」
ナースが機長に携帯電話する。
機長と整備長はヘリコプター近くで待機している。
二人は着陸したヘリコプターから離れない。
空のプロの二人は患者をヘリコプターへ収容する場所がこの草地なのか、
それとも2kmくらい進んだ空き地にするかの決定を待っている。
草地の不整地が、患者を乗せたストレッチャーが進行できないことがある。
土や雪の柔らかさで、患者を乗せたストレッチャーが沈み立ち往生することがある。
(続く)

トラクター転落事故 その3

2018年09月16日 18:53

ドクターヘリはその上空でホバリングする。
もしここが現場なら、着陸地点はどうするか
機長は思案する。
整備長が現場に隣接する空き地を見つけた。
機長と相談する。
救急車と軽トラックがその崖近くの農道で停車した。
停車した道の左側には車が止められる空き地があった。
赤車が救急車の後ろに停車した。
白車から青い予防服の救急隊員が2名降りて、崖側に走って行った。
隊長と隊員だろう。
そして木の陰になり姿が見えなくなった。
地上の救急隊は携帯無線を持っている。
「十和田救急1携帯より八戸ドクターヘリ11どうぞ」
姿は見えないが無線が上空400mに届く。
「現場は真下です」
整備長が答える。
「現場南の空き地にドクターヘリは着陸します。
地上の障害物の確認をお願いします」
始めに想定したランデブーポイントは現場より3km以上離れている。
現場着陸ができるのならその方が手っ取り早い。
隊員の走る姿が林を抜けて見えてきた。
草地に向かう。
「十和田救急1携帯より八戸ドクターヘリ11、障害物なし、風は無風」救急隊
「それではこれから着陸します。救急隊は離れて下さい」整備長
EC135はエンジン音を低くうならせ一旦草地から離れた。
着陸するために、斜めに草地に進入する飛行ルートをとる。
高度を下す。
高回転では感じなかった振動がエンジンの回転数が落ちるとブルブルと伝わる。
機長は整備長に声をかける。
「このまま降ろすよ」
「はいよ、いいよ、いいよ」
草地に着陸する高度な技術だ。
空のプロの二人は、たがいに声を掛け合い、
着陸地点へ安全に金属物体を導く。
ダウンウオッシュが草地にぶつかる。
低く茂っている広葉樹の林の葉が揺れる。
二つのジェットエンジンから吐き出される轟音が静寂な畑の周囲に響く。
(続く)

トラクター転落事故 その2

2018年09月15日 18:49

太陽に近づいたせいもあり、
室内に注がれる太陽光が強くなる。
ジェットエンジンで回されるエアコンからは
快適な冷風が室内を循環する。

右に見えた太平洋から徐々に遠ざかる。
進路は北西だ。
いつの間にか八甲田山が前方に見えた。

整備長は上十三消防指令センターと無線交信する。
「救急隊、消防隊とも現場へ向かっている」と
現場は畑で関係者が救急要請してきたという。
携帯電話から割り出したGPSで、消防は現場を特定する。

ドクターヘリは現場畑上空と思われる場所に到着した。
南に白車が走っていた。その道幅は狭く畑の中の道だ。
すると、救急車が停車した。
上空からは、その近くトラクターはない。
????
今度は救急車がバックする。
狭い道なので方向転換はできない。
バックしてY字路で、別な道に入った。
広い畑で、目印もなく、救急隊が現場特定できていないようだ。
Y字路の手前には赤車が停車していた。
不用意に赤車が狭い道に進入すると道をふさぎ立ち往生するから。
ドクターヘリはその間上空を旋回する。
上空から偵察を始める。
横転しているトラクターを空から探す。

だが見つからない。
白車の進む狭い農道の200m先に
軽トラックが止まっていた。。
ひょっとして、トラクター事故の関係者電話番号はないだろうか。
そう思いながら、救急車の動きを上空から観察する。

白車はゆっくりと狭い道を進んだ。
地上の白車からはまだ軽トラックは見えないはす。
狭い道なのでスピードは出せない。
左カーブの先で、白車と軽トラックが近づいた。
白車から救急隊員が下りて軽トラックの運転手と何か話をしたように見えた。
そこから、軽トラックが先導する形でそのあとを白車、
その50m後ろを赤車が進んだ。
きっとこの道の先が現場だ。
ドクターヘリは先回りして道の先を偵察する。
すると、畑の端が崖のようになって落ち込んでいる場所があった。
その崖には広葉樹のは小さな林。
枝の間から人工物の塗装したようなものが見えた。
トラクターの一部に違いない。
トラクターの全景は見えない。
(続く)

トラクター転落事故 その1

2018年09月14日 18:48

西日本では熱波が続く。
北日本でも昨日から最高気温が30℃を超える。

午後の強い日差しの下にEC135が格納庫から引っ張り出された。
機種は東を向く。
上十三消防指令センターからのドクターヘリ要請だった。
「トラクターの下敷きの男性」

私と森医師、後村ナースがERからヘリポートへ走った。
精神科病棟前にパトライトが黄色の点滅と電子音で
ドクターヘリ離陸と、フライトスタッフが駆け抜けることを首位に告げていた。

鉄の扉を外へ開けると、
室内の冷房室温24℃との差を感じた。
今日の気温は30℃。
格納庫から出されたばかりのEC135の曲面ガラスに夏の太陽の光が反射している。
風は太平洋からわずかに吹いていた。
ヘリパッドのコンクリートの周囲は緑に芝が生えそろっている。
北側にそびえる7階建ての病棟の建物の窓ガラスに太陽が映りこむ。

ヘリコプターに乗り込み、シートベルトを締めると、
機長はエンジンスタートさせた。
エンジンの回転数と同期して天井のメインローターが回転し始めた。
最初はゆっくりと回る。
整備長は、機体の外側から
離陸前最終チェックをする。
そして、左後ろドアを外から閉めてくれた。
前左ドアを開けて、整備長が左前席に座った。
室内通話で機長が
「まもなく離陸します。
もう一度シートベルトを確認してください」

EC135は気温30度のぬるい空気をメインローターでかき回し、
2トンの重量のEC135を地上から浮かせた。
最初は右側のスキッドが離れた。
直ぐに左スキッドが離陸した。
両側スキッドが離陸できると、
上昇スピードが速くなる。
病棟6階の高さで水平飛行に移る。
(続く)