クラッシュ症候群と出血性ショック その5

2018年02月20日 18:42

輸液を前医から合計3L入れて、血圧は上がってきた、
だが心拍数は早いまま。
出血は腹部が中心。
超音波検査では、腹腔内出血推定1L。
血圧148/85。
CT室へ行く余裕がある。

意識障害と出血性ショック、アシドーシス、血尿。
9時40分。輸血の準備を済ませてCT室へ移動した。
いつでも輸血はできる。

CTでは、脳挫傷がひどい、
脾臓と肝臓がやられていた。
腎臓はOK.
それじゃ、血尿は?

患者はERへ戻る。
わずかに出ていた尿で、薬物検査をした。
問題なし。中毒ではない。

両足に、打撲痕、腹部にも打撲痕、大腿が腫れている。
2回目の血液ガス分析では、アシドーシス改善なし。
カリウムが7と上昇。

「クラッシュ症候群だ。救出時間30分に惑わされた。
それよりかなり前に、事故で挟まれていたんだ。
事故は朝じゃない。おそらく夜!クラッシュ症候群」私
「えっつ、それじゃ、尿のアルカリ化」高田医師
「輸液路3ルートに追加し、
全ルート生食500mlに、メイロン40ml入れて、全開で落として、
同時に、メイロン250mlも落として」私
「腹は手術ですか」高田医師
「これからバイタル狂うよ。
腹部外傷とクラッシュ症候群さらに、頚髄損傷の合わせ技。
これでは、ショックヒッパツ。
輸血を入れよう。」
血管造影TAEか手術か、私は悩んだ。
(続く)

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クラッシュ症候群と出血性ショック その4

2018年02月19日 18:39

町田医師が、肛門に指を入れて、前立腺の位置を見る。
重症外傷、とりわけ骨盤骨折では、尿道損傷を合併しやすい。
尿道損傷があると、前立腺の位置が頭側へ移動するから。
尿道に管を入れ前に、肛門から前立腺を診察する。

「前立腺の位置はよい。
ただし、肛門括約筋がゆるい。」町田医師
陰茎・亀頭を天井に向けてひっぱってみる。
意識がなくても、この反射は正常なら残る。
引っ張ると普通なら肛門が締まる。

しかし、反射が無い。
おかしい。
これは脊髄損傷を疑う。
下肢は動かないのは脊髄損傷だろうか。
まずは尿道出血ない、前立腺位置よし、
尿道損傷がないので、
フォリーを入れる。
入れたのは私。
しかし、尿の逆流がない。
なぜ?

尿の逆流がないときに考えるのは3つ。
1膀胱に尿が無い。たとえば高度脱水、たとえば膀胱破裂。
2もう一つは、管が膀胱に到達していないで、尿道の途中でとぐろを巻く。この場合に、管の風船を膨らますと、尿道に傷つく。
だから、尿の逆流がないときは慎重な対応が必要。
3フォーリーに潤滑剤を塗って、尿道に入れるが、その潤滑剤が、管の中に入り込み詰まる。
フォーリーに注射器を就けて、吸引する。3番目ならこれで解決する。

フォーリーに注射器を就けて、吸引した。すると、赤ワイン色の黒赤い尿が3ml出てきた。
「???」
外傷で赤い尿を見たら考えるのは3つ。
1腎臓、尿管、膀胱損傷
2クラッシュ症候群
3以前からの血尿(病気、中毒、覚醒剤)
「尿の逆流あり。
OK,風船を膨らますよ」私
ゆっくりと。
もし抵抗を感じたら、
それは、尿道の途中でとぐろを巻いているのが予想されるから。
「赤い尿の鑑別の一番は腎臓損傷と考えるよ」私
「受傷機転は、オフロード車で路肩を転落、一回転して立ち木に衝突。
挟まれて救出まで時間30分。
救急車で前医に搬送。
ショックでドクターヘリ要請。
受傷時間は午前6時頃。」明石医師
「受傷時間は本当に午前6時か、体温33度まで下がりすぎている。
消防にもう一度問い合わせて」
救急救命士東京研修所を卒業し、
国家試験を合格したばかりの実習中の救急救命士に私は頼んだ。
(続く)

クラッシュ症候群と出血性ショック その3

2018年02月18日 14:37

待ち詫びた医師と男性を乗せた救急車は先着していた。
気管挿管、輸液中だった。
申し送りしてくれた七戸病院医師は、
力強く言う
「あとはお願いします」

8時57分男性をドクターヘリに収容し離陸する。
しかしヘリコプター内では血圧測定不能、
心拍数122、呼吸数24、
体温33.6度、
昏睡状態。意識E1VtM5
状況はよくない。
ドクターヘリから無線が入った。
頭部、腹部、胸部外傷で
ショック、意識障害。
9時10分八戸着陸
そしてER入室となった。

八戸ERで男性の両手は動いていた。
下肢は動かない。
「FAST陽性」町田医師。
胸部レントゲンでは右の肺挫傷。
骨盤レントゲンで、骨盤骨折ない。
股の動脈から採血する。
直ぐに検査。
「pH6.8.アシドーシスひどい。カリウム6」明石医師
「意識障害、アシドーシス、腹腔内出血、・・・。
外傷出血性ショックで、代謝性アシドーシスなら、ものすごい出血量のはず。
受傷3時間で、輸液量2Lで、Hb10台だ。
出血量はそう多くないはず。
アシドーシスは痙攣発作だろうか、それとも、中毒?
どちらにしても輸液負荷を続ける。
第一の鑑別診断は、出血性ショックだ。
外傷ショックの90%は出血のはず。
輸液量の指標に尿道カテーテルで、尿量を見よう」私
(続く)
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クラッシュ症候群と出血性ショック その2

2018年02月17日 13:45

JCS300、下顎呼吸。
重症外傷だ。
先ほどまでで、意識がいいのでちょっと安心というわずかな油断は吹き飛んだ。
重症外傷なら八戸救命まで直接救急車搬送だ。
だが、これでは心肺停止の危険が高い。
八戸救命までの道のり60分は長すぎる。
救急隊長は、あせった。
収容病院は、直近の総合病院に。
しかし総合病院からは断られた。
重症外傷には対応できないと。
次に近いのは、小さな七戸病院。
「収容可能」
7時24分現場出発。
心電図モニターのT波が高い。
これは高カリウムを示す。
心臓が止まるかも知れない。
隊長はAEDを用意した。
7時40分走る救急車の中で、男性の呼吸は無残にも止まった。
そして心停止。
PEA.
CPR開始した。
救急隊の魂を込めたCPRが始まる。
男性の心臓は再び動く。」
7時41分心拍再開。
わずか1分間の心停止だが、
救急隊員3名には長く感じた。

七戸病院到着時、頚動脈拍は触れえるが、呼吸は下顎呼吸。
しかし橈骨動脈は触れない。
痛み刺激に反応なし。
この状況では
心臓停止はもう一度来るかもしれない。

七戸病院の当直医は気管挿管、輸液開始した。
時計を見た。
もうすぐドクターヘリが開始する八時半だ。
そして、七戸病院の救急外来で処置を手伝っていた救急隊は
8時24分ドクターヘリ要請した。

8時26分EC135は八戸を離陸した。
8時40分EC135はランデブーポイント蛇坂車庫駐車場に着陸した。
蛇坂車庫駐車場は、電線が近くにあり、
機長は着陸に気を遣う。
(続く)

クラッシュ症候群と出血性ショック その1

2018年02月16日 22:09

八戸の北40km七戸町がある。
その男性が事故にあった時刻は誰も知らない。
記録にあるのは、偶然通りかかった早起きの住民が道路外に落ちている車を発見した時刻。6時36分発見者が119番通報。
東北町の救急車が現場へ急行した。
現場は消防署から遠い。
ドクターヘリはスタンバイ前。
6時51分救急隊が現場到着。
道路下の林の大きな木に車は天井をぶつけて停止していた。
車道から10mは奥に入る。
森林に飛んで行ったという表現が当てはまるくらい。
ただし、車がなぎ倒した草や木の残骸が残る。
車の屋根はくの字に折れ曲がり、
運転席は大きく変形していた。
男性はシートベルトをしたまま、運転席から助手席方向に上半身を投げ出していた。
エンジンルームは男性の下半身に覆いかぶさり挟み、男性は挟まれていた。
まだ午前7時台。
ドクターヘリは呼べない。

男性は救出前に会話ができていた。
救急隊長は安心した。
重症外傷は予想できたが、
意識はいい。

車に閉じ込められた男性の周りに毛布を入れた。
それから、車の横転を戻した。
そして、救助にかかった。
7時8分大腿の圧迫が解除された。
そして車外に男性を引っ張り出そうとした瞬間。
男性はしゃべらなくなった。
顔色が悪い。
意識低下した。
JCS300.
呼吸が止まった。
隊長はバッグバルブマスクを開始した。
7時18分救出完了。
男性の救出には工作機械を使い20分を要した。
(続く)