泥沼からの劇的救命 その4

2018年05月11日 19:08

事故発生に会社の同僚は気付いていない。
同僚は、沼に沈んでいるバックホーを発見し119通報している。
運転していた男性が、その中にいるか、
すでに脱出済みかはわからなかったという。
運転していた男性の姿は付近にない。
きっと、重機の中に閉じ込められて沼にそのまま沈んで、
おそらく、溺れてしまっている。

濁りの沼に、スクーバ装備の潜水隊が潜る。
潜り始めてすぐに、
沼は濁りを増した。
だが、潜水隊は訓練を受けている、
潜水隊は、訓練通りに活動した。
重機の運転席の窓ガラスを水中で破壊し、
水中で運転席内に侵入する。
そして運転席でさかさまに水没していた男性を引っ張り出した。
まもなく沼の水面に、潜水隊に抱えられた男性が顔を出した。

その頃には、
ナースと医師の靴に着いた泥は半分乾いていた。

12時56分救助成功。
ここで男性が生きていれば、
潜水隊は大きく○を手で描いただろうに。
感動的場面になるはずだった。
しかし、潜水隊からサインはなかった。

岸から見えたその男性の有様は、
救命不能に近い絶望的な外観だった。
陸地に引き上げられた泥まみれの男性に近藤医師は接触した。
心肺停止だ。
触った感じは、肌がすごく冷たい。
ひょっとしたら体温は20度くらいか。
いやそれ以下か。
痛み刺激に反応なし。
同時に
救急隊長は頸動脈の確認をしている。
脈なし。
体温が著しく低下すれば、
呼吸数の著しい低下と浅い呼吸パターンとなり、
徐脈でさらに不整を認めるようになる。
(続く)

泥沼からの劇的救命 その3

2018年05月10日 18:06

機長は判断した。
「ドクターヘリが長時間駐機するには
地面が柔らかいです。
これより離陸し、
ランデブーポイントへ移動します」
「了解」CS
近藤医師と沼宮内ナースはさらに前進した。
12時30分近藤医師は現場の沼に到着した。
まだ、重機は沼の水にエンジンルームを上にして埋まっていた。
運転席は完全に沼の水に埋もれている。
消防力で沼の水抜き作業が行われていた。
同時に、潜水レスキュー隊が潜水準備をしているところだった。
まだまだ、救出まで時間がかかりそうだった。

潜水隊がスクーバダイビングで沼に潜る。
ドライスーツを着込んだ二人の潜水隊員。
着ているドライスーツは
ZERO社製の新型のドライスーツだ。
ラジアルコートで保温力と防水性をアップしている。
厚さ5mmのスーツは、少々の低温にも耐えられる。
ゆったりサイズなので、スーツの中に防寒服を着ることができる。
フロントファスナーなので、
緊急時に、一人で着込むことができる。
通常のドライスーツは背中にファスナーがついているので、
自分でファスナーを閉めることができない。
頭には白い潜水ヘルメットをかぶっていた。
背中には、スクーバ潜水用の空気タンクを背負う。
スクーバ潜水用の空気タンクは、酸素ボンベではない。
空気(21%酸素)が10から12L入ったタンクだ。
開け閉めするバルブが隊員の右肩に着く。
消防士が火事に突入するとき背負う、
空気タンクは開け閉めするバルブは、右腰に来る。
消防が使う同じ空気タンクでも、
背負い方が逆だ。

沼の透明度はゼロに近い。
潜水隊員は注意深く沼に入った。

この状況では、
周りの会社同僚も絶望的を感じていたはずだ。
会社の同僚の証言では、
事故発見の2時間くらい前から男性はバックホーを運提し作業していた。
沼の近くで、地面は柔らかく緩いかった。
大型の重機の重みで、地面が沈み、
重機が傾いたのかもしれない。
(続く)

泥沼からの劇的救命 その2

2018年05月09日 18:59

わたしは、この事案に、ドクターカーV3を出動させるか否か迷った。
ドクターヘリが着陸し、
ロスタイムなく溺水患者をERに運べるならそれもいい。
ドクターカーV3が出動し、
現場で緊急PCPSを回すのはさらにいい。
しかし、救助時間が短く、
ドクターカーV3が現場到着前に、
救助され、
ドクターヘリでERへ運ばれたときに、
ドクターカーV3は無駄に終る。
それだけではない。
MEが2名無駄に終る。
PCPSの器材が無駄に終る。
救急医が3名無駄に終る。
ERは手薄状態になる。
手薄なERに患者はドクターヘリで運ばれる。
PCPSの予備はあるのか、
ERで残り野MEが対応できるか。
等を考えた。
結果、私はドクターカーV3を出動させなかった。

現場到着した消防隊から重機バックホーの車体番号がCSに電話で送られてきた。
CSは、インターネットで検索した。
すると、キャタピラーが大きく、運転席はガラス張りで屋根がある。
運転席の後方に大きなエンジンルームがある。
前方に突き出た長い頑丈な3関節で動くアームと、
その先に土などを掘る大きなシャベルがついている。
CSは、大きな車体にちょっと驚いた。
沼に転落した重機だから、
小さなものを想像していたのだった。

12時25分ドクターヘリは現場近くの畑に着陸した。
そこの地面は黒土だった。
小型ヘリEC135だからできる
現場の畑着陸だ。
小型のEC135でもスキッドが土に埋まる。
機長は医師、看護師を下した。
2名は、メインローターの下を頭を低くして走り抜ける。
向こうに赤い消防車が見えた。
安全靴は、下腿の半分近くまである半長靴だ。
靴が土に埋まる。
黒土のところはまだよかった。
その先に進むと、今度は湿地のぬかるみだった。
雪解けの影響もあり、
泥と土の混ざった地面だった。
二人は走るのをやめて、
注意深く、
ぬかるみを歩いた。
ぬかるみはそう長くはなかった。
しかし、安全靴はくるぶし(内果、外果)の高さまで泥で埋まっていた。
(続く)

泥沼からの劇的救命 その1

2018年05月08日 18:58

11時58分重機バックホーが沼に転落しているという119通報だった。
中部上北消防指令センターは直近の救急隊、
ポンプ隊、潜水レスキュー隊を現場に出動させた。
重機バックホーの中に人がいるのか、無人か?
情報がないままに、
消防は救助体制を立ち上げる。
同時に八戸ドクターヘリの出動相談の電話がドクターヘリ通信指令室に入った。
「救助完了後に要請するか、
その前か、
無人の可能性もあるし」
中部上北消防指令センターはドクターヘリ出動要請を決断しにくいという。
「救助完了後に離陸したのでは、
要請を受けてから着陸まで15分近くかかります。
途中キャンセルでもいいので、
いま、出動要請をしていただいて、
離陸したほうが、
本当に、ドクターヘリが必要な時に効果を発揮できます」CS
さすが、ドクターヘリのCSは
そのへんのところをよく知っている。

12時4分ドクターヘリ要請
12時9分ドクターヘリ離陸
その前の事案で、八戸ドクターヘリは
むつ市に出動していた。
近藤医師、佐々木医師が出動していた。
むつ市で脳卒中の患者をドクターヘリに収容し、
家族を乗せて近藤医師と沼宮内ナースで離陸した。
佐々木医師は、
定員オーバーで乗れなかった。
佐々木医師はJRで病院へ自力で戻ることになった。
JR大湊線は1時間に1本くらいのローカル線。
佐々木医師は、病院帰院は夕方を覚悟していた。

というわけで、重機転落現場へは、
近藤医師1名、ナース1名で出動した。

12時16分救急隊、ポンプ隊が現場到着。
(続く)

低体温症にドクターヘリ出動 最終

2018年04月11日 18:25

ナースがモニターを付けて、
機長はエンジンスタートした。
ヘリコプターには、室内ヒーターはあるが、
全てのドアを開けた後なので、
機内の温度は外気温とおなじく、
零下だ。

機長は室内暖房を最高にしてくれた。
天井の吹き出し口から二つのジェットエンジンで温められた
風が吹いてきた。
数分するとEC135の室内は温まった。
10時26分
ドクターヘリは八戸ERに着陸した。
そのヘリポートは劇的救命チームの待つERへ続く。
直腸温は25度を示す。

ERでは治療が進む。
愛護的に処置が進む。
乱暴にすると心室細動になってしまうから。

体温が徐々に戻っていった。
12時半女性は開眼し、しゃべりだした。

劇的救命!

低体温症にドクターヘリ出動 完