ホントにやった医師がいた!

2009年05月28日 23:50

コードブルー新春特番で、山Pが急性硬膜外血腫(いわゆるエピドラ)を、
現場のドリルで手術していました。
これをなんと、実際にやった医師がいたようです!

家庭用ドリルで頭蓋骨に穴、医師らが少年の命救う オーストラリア

命を救うため、あらゆる手段や方法を駆使して立ち向かう姿には脱帽です。
が、これが助かったから美談だというなら違和感があります。

残念ながら、日本では同じことをやっても結果が悪ければ非難ごうごうかも知れません。
例えば、「日本の保険診療では認めてくれないが有効な治療」は幾つもあります。
採算度外視で実行する医師もいますが、医療の常として、必ず良い結果を生むとは限りません。

オーストラリアの医師が少年を救えなくとも、その勇気は称えられる価値があるように、
制限された状況下でベストを尽くす姿勢を、結果を理由に責めないでほしいものですね。
これは何も、医療に限った話ではありませんが....

症例その3-3:現場活動 山P編

2009年05月11日 23:24

ずいぶん久しぶりのコードブルー症例検討,その3です.
いよいよ列車事故の現場に入ってゆきます.

ここからはチームに別れて活動です.
今回は山Pと三井先生の2人に注目してみましょう.


2人は現場救急隊の要請に従って,安全が確認された3両目に入りました.
消防が動ける人を誘導済みなので,残った人はみなケガをしています.
中に入るとケガ人はまだ沢山いて,誰から治療を始めるのか順番が問題です.
つまり,またトリアージが必要なのです.これが2次トリアージです.

2人は次々に声をかけ,意識や歩行などを確認してゆきます.
そんな中で山Pが親子を見つけました.

母親は下半身が挟まれ,アドレナリンが出ているのか興奮状態で多弁です.
ハヤト君を心配するあまり感情的にも不安定で涙もろくなっていますが,
最大の問題はやはり,クラッシュ症候群が心配されることです.

一方のハヤト君.
最初は体重を自分で言えるほど意識がしっかりしていましたが,
じきに応答がなくなってしまいました.ハヤト君には何が起こったのでしょう?

実は以前のブログ記事にも書いてありますが,急性硬膜外血腫だったのです.
頭蓋骨のすぐ下に出血して,脳が圧迫されてしまうケガです.
ケガの直後は衝撃による脳震盪で意識を失いますが,その後で回復します.
このとき出血は始まっていますが,出血が圧迫症状を起こすまでは元気にみえます.
でも意識が悪くなりだすと,急速に進行して亡くなってしまいます.

山Pは冷静でした.
ハヤト君の意識が悪いことに気付くや対光反射を確認しています.
脳の圧迫が進むと瞳孔の大きさが左右で違ってくるのです.ハヤト君もそうでした.

急性硬膜外血腫の治療は緊急手術で血を抜くことです.
特に,意識状態が悪くなってからは一刻の猶予もありません.
レスキュー隊のドリルを開頭に使ったらバイキンが脳に入ってしまいそうですが,
バイキンは後で治療する方法も残されています.
この状況では,あれくらいしか方法はなかったでしょう.

ただ,いくら現場手術とは言えマスクなしは気になって仕方ありません.
それと細かいことですが,イソジンでの消毒は塗らしただけじゃダメです.
塗ってからせめて1分は待たないと,殺菌効果は出ないのです...
ただでさえドリルが清潔じゃないんだし,気を遣ってほしいところでした.

症例その3-2:災害医療の基本その2

2009年04月20日 22:15

◆災害医療の基本を,ドラマ「コードブルー」で学ぶシリーズその2です.

魔法の呪文,CSCATTTの解説を続けましょう.

■3つ目のCはCommunication,つまり通信手段を確保することです.
前にも書いたように,災害現場では情報伝達が常に大きな問題です.情報を届ける手段は制限され,届いた情報を確かめる方法もなく誤解やデマが混じることもあり,かえって疑問や不安が増幅されたりします.

ここで,もし災害の発生現場に居合わせたら,どんな情報を伝えれば良いのでしょう?これにはMETHANEという有名な語呂合わせがあります.項目の頭文字を並べたものですが,例えば...
  Major incident大事故災害:「姉さん,事件です!!」
  Exact location正確な場所:「○×△町近くの交差点で」
  Type of incident災害の種類「大型トラックがビルに突っ込んだ!」
  Hazard危険「現場にガス漏れや火災などの危険はなく」
  Access到達経路「交差点東側は通行不可,西側から現場に入れます」
  Number of casualties負傷者数「怪我人がビル内にまだ数人いるようです」
  Emergency services緊急サービス「救急車が4台は必要です!」
という感じで情報を伝えます.
METHANEは発災直後の情報提供ですが,この他の場面でも
  現場に入った直後に指揮官から情報提供を受けたり,
  最前線に入る者と後方支援をする者との通信を確保したり,
  あるいは危険情報や被災状況などを逐次確認したり,
情報伝達は活動期間を通してきわめて重要な命綱と言えるでしょう.

■4つめはAssessmentのA,評価という意味です.
ここまでのCSCまでを正しく踏まえたうえで集まった情報を基に,おおまかな事故状況を把握し自分たちが担当する業務を決定します.あるいは指揮官からの指示を待ちます.目の前のことに惑わされると,効率が悪いだけでなく,周囲へ悪影響があったり危険が迫ったりするのが災害現場です.

 翔北チームは,ここでも確実なステップを踏んでいます.
 三井先生と山Pは,現場指揮者から安全情報を含む事故概況についてブリーフィングを受け,最終的に自分たちが一番役に立ちそうな現場を選んだうえで活動を開始しています.決して,目に入った患者さんへ片っ端から治療を始めたりはしてませんでした.それは,シロウトのやることです.
 また,現場に入る前にさりげなくトランシーバーを取り出していたのはもちろん,Cの確保ですね.

症例その3-1:災害医療の基本について

2009年04月16日 23:01

■さて,コードブルーの症例検討も3回目,いよいよ列車事故が発生しました.
ここではまず,大規模災害への対応を考えながらドラマを解説してみることにします.
ただ,非常に内容が多くなるため数回の連載になりそうです.

■災害現場の特殊性
災害現場は,単に怪我人がたくさんいるだけではありません.
まず,圧倒的な医療資源(人手,薬剤,機械,その他すべて)不足が問題です.
通常なら豊富な選択肢から最善の治療を選べますが,災害現場では全員分の医療は提供できません.すると,誰にどれだけ医療を提供するのか?がきわめて重要になってくるのです.
また,突然の事態であり混乱していることも災害現場の特殊性です.通常の医療では多くのルールが厳密に守られ,間違いや危険を最小限にする工夫がされています.災害現場はまったく違います.

■魔法の呪文:CSCATTT
災害現場で医療活動するとき忘れてならない魔法の呪文【CSCATTT】について説明しましょう.
これは災害医療の手順や内容すべてを頭文字で網羅したもので,蘇生のABCに匹敵する超重要フレーズです.以下,順に説明してゆきましょう.

◆まずCはCommand & Control を意味します.
  Commandとは指揮,Controlとは統制のこと.
  災害現場には多くの関係者が集まります,警察・消防・医療者・ときには自衛隊も...それぞれの組織内では指揮命令系統が決まっていて,すばやく決定が下され実行に移ります.この縦の連携がCommandです.
  しかし,警察だけや医療者だけで災害には立ち向かえません,他の組織と連絡を取り合い協力して行動しないと混乱が生じたり危険が増えたりします.そこでControl,つまり組織間の連携がスムーズになるよう誰かが現場の最高責任者となり,すべての組織がその指揮下に入ります.この横の連携がControlです.
 
  具体的には,現場に入ったら最高責任者を探し,自ら名乗って指揮下に入り指示を受けます.後から来た者が仕切りはじめると,色んな経緯を把握できないので現場を非常に混乱させます.

◆次のSはSafetyを指します,つまり安全確保です.
  安全は次の3つあるとされ,その順番を守ることが重要です.
         Self     自分自身
         Scene   現場
         Survivor  生存者
  安全確保が重要なことは言うまでもありませんが,多くのドラマや映画などでは文字通り危険に身をさらして被災者に手を差し伸べるシーンが数多く登場します.
  しかし!医療従事者がこれをやっては絶対にいけません!!患者を増やしてしまいます.
  安全確保はレスキュー隊の仕事です,医者や看護師は身の安全を自分で守る装備も技術もないので,彼らに安全を確保してもらうのです.そうでないとドラマ本編の黒田先生のような2次災害がおきてしまうのです.
  あの場面でも,黒田先生がケガをしなければ山Pたちは他の患者さんを治療できたし,ドクターヘリは他の重症患者さんを運べたし,黒田先生も患者さんの治療を続けられました.ガッキーの軽率な行動が,実は他の患者さんを知らずに見殺しにしていたとすら言えるのです.

  だから,まずは自分自身の安全確保! もし生存者を発見しても,危険が除去されるまでは接触しないのが鉄則です.ドラマ的には物足りないかも知れませんが,黒田先生の悲劇を忘れてはなりません.
  そして次は現場の安全.これは現場にある様々な危険から身を守ること,野次馬やボランティアをも含めた一般市民の安全を確保すること,など多くが含まれるようです.
  最後でやっと生存者の安全です.しかし,決してこの順番を変えてはなりません.

  ここまで,翔北チームはどうだったでしょう?
  三井先生と山Pは,ちゃんとオレンジ色のレスキュー隊に近付いて自己紹介し,安全情報を確認していました.原則を踏まえた行動ですね!
  ただし,災害現場で自分の安全を確保する装備が不足です.少なくとも長袖の耐火服やヘルメットなどは必須で,これがなければ現場指揮官は活動を許可しないはずです.まぁ,いつもと服装が違うと視聴者が混乱するから同じ格好なのかも知れませんが,,,

やはり,相当な分量になってきました.続きは次回に.

症例その2:感染性心内膜炎

2009年04月10日 18:58

本日の天候:日差し良好だが強風,ヘリ運航は危険

相変わらず,要請なし.
そこで症例検討会の第2弾を始めましょう.
今回は,ICUでガッキー・トッティーがみつけた心内膜炎(の患者さん)です.


この患者さんについて詳細な情報はありません.
心臓外科の患者さんでICUにいるので,きっと術後なのでしょう.
年齢が若いので,おそらく心臓の弁に問題がある先天性心疾患でしょうか?

ガッキーとトッティーがICUで,体に皮疹(ひしん)がある患者さんを見つけます.
2人はすぐに心内膜炎を疑うのですが,これはどんな病気なんでしょうか?
ちなみに皮疹とは皮膚に何らかの異常があることを広く意味するだけで,
ドラマの患者さんの皮膚に,どんな異常があったのかは表現されていません.


まず心内膜炎とは,心臓の弁などに細菌がついてしまう病気です.
心臓を血管の一部と考えて,広く血管内の感染症と考えることもあります.

心内膜炎は死亡率も高く非常に怖い病気ですが,
診断がきわめて難しいことが大きな問題のひとつとされています.

何しろ症状がはっきりしません.
たいてい症状は熱だけ,それも微熱くらいで目立たなかったりします.
他には寝汗,関節痛,腰痛など,病気の内容を推測するような症状はありません.

心内膜炎では,細菌が心臓の弁に住み着いて血液の中に漂っているのですが,
ときどき,血液に混じって体中を流れるうち細い血管に引っかかることがあり,
その場所で菌が増えて血管が詰まる場合があります.
それが皮膚の血管なら皮疹ができるし,脳の血管なら脳梗塞となります.
教科書には,手足の爪の下で細い血管が詰まり黒い筋ができると書いてありますが,
しかし実際は爪の下に何にもない患者さんがほとんどです.

手術や血管カテーテルで細菌が血管に入り込み,心内膜炎になることもありますが,
これも医者が警戒して検査をしないと,症状がないため診断が難しいのです.

結局,血液そのものを培養して菌を探す検査をしないと診断できないのです.
細菌が心臓の弁を壊すと心不全を起こしたり,聴診器で雑音が聴こえたりします.

ちなみに診断も大変ですが,治療も大変です.
抗生物質を何週間も点滴しないといけませんし,
手術で人工血管などの人工物があれば,取り除かないといけません.
例えば心臓の弁に問題があって人工弁を取り付ける手術を受けたとしても,
心内膜炎になったら再手術して取り外し,また別の弁を付ける必要があります.


さて,症例に戻りましょう.
2人が心臓外科(+恐らく心臓手術の後)+皮疹+発熱から心内膜炎を疑ったのは,
非常に優秀な証拠と思います.
診断も治療も難しいのですから,可能性があれば疑って検査をすべきです.
トッティーが興奮して,心臓外科のフェローに詰め寄りたくなるのも分かります.

しかし実際のところ,どうでしょう?
離れた場所から分かるほど皮疹が派手に出ている心内膜炎は少ないです.
まして,心臓外科が手術したあとICUで厳重に診ていて見逃すことは考えにくい.
もし数時間で皮疹が全身に出現するような急性の心内膜炎だとすれば,
場合によっては万全の治療をしても数時間で死亡することもあるほど超重症です.

ですから,このような経過はちょっと現実的じゃないと思います.
ドラマとしては恐らく,2人がいかに優秀か示したかったのと,
あとで心臓外科フェローと交錯するための伏線の意味だったのでしょう.
とはいえ,一般の方に病気のことは分かりませんので問題ないのでしょうね.