サンダーバード作戦南部町 その4

2017年02月02日 18:30

乳頭の下に緩やかな孤を描くように
8cm、
10番丸刃メスを入れた。
皮膚と脂肪はそのまま一気に切る。
下の赤い筋肉を2回目のメスさばきで切る。
3回目は、注意深く一部分のみにメスをこすり黒い胸膜を破る。
指をこじ入れ、
開胸の穴を広げる。
メスを静かに左右に注意深く進めて、
左右に開胸創を広げた。
この間
ハサミも鉗子も使わない。
現場開胸ではスピードが大事だ。
道具が用意できる時間を待たない。
両手で第5と第4肋骨を持ち、
間を広げた。
その間に、右手を差し込み、
患者の心臓をつかむ。
止まっていれば、
親指と残り4本の指で、
優しく、深く心臓を押しつぶしたり、
離したりする。
開胸心マッサージだ。
これを2分行い、次に
下半身の血流を止めて、
脳に血液を集中させるために、
大動脈を、横隔膜の上で閉鎖する。
わたしは、ここで初めてナースに指示する。
1回目の指示は「メス」だった。
2回目は「サテンスキー大動脈鉗子」と
背骨の左端にくっついている大動脈を肺の裏で触った。
右親指と右示指でピンチを作って、
弾力性のある胸膜にわずかに穴をあける。
大きく開けると、
肋間動脈を傷つける。
傷つけるとそのあと止血が大変だ。
大動脈をピンチに中につかむ。
滅菌袋に一個だけ入れているサテンスキー動脈鉗子を、
滅菌袋の端を切り開き。
袋の先から
鉗子がわずかに出るようにして。
ナースは袋の外側を持ち、
私は袋の中に手を入れて
鉗子を取り出す手順。
「サテンスキー」そう静かに言った私に、
ナースは予定通り鉗子を渡してくれた。

大動脈を鉗子で閉鎖し、
心臓マッサージをする。
心臓は動いているが、
脈波遅い。
経験が少ないと食道と大動脈を間違える。
拍動が停止している大動脈は食道に触った感じが似る。
わたしは、しっかりと大動脈周囲にサテンスキー鉗子を入れた。
(続く)

サンダーバード作戦南部町 その3

2017年02月01日 18:25

1名は、第一救急車で八戸市立市民病院救命救急センターへ向うつもりだということは
後で知る。
これから接触するのは、
高齢男性CPA.
挟まれ現場から救出されたばかり。
さらに一人は、まだ挟まれている。
こちらも、ドクターヘリ隊が接触予定だ。

私たちは、
救急車内のCPAに接触する。
PEAだった。
胸部が動揺しているCPAだった。
蘇生可能なら、
3人で緊急処置する。
救命不能なら、
早めに梅谷医師を
3人目の挟まれ外傷未救出に向ける。

CPA男性に対して気管挿管は梅谷医師が決めた。
左胸が変形し、
左呼吸音が弱い。
この胸の外傷は気胸、
血胸、
心タンポナーデ、
を疑う。
経験からそう思った。
国内の外傷外科で第一線で仕事をしている医師では
私が最高齢に近い。
国内では最多経験者かもしれない。
患者にには
腹部膨隆もある。
腹部骨盤出血も予想された。

救急車内で左開胸手術を開始した。
左腕を挙上し、
左肋間を広げる。
「メス、テンブレード」私は工藤ナースに指示した。
メスには丸刃と尖った刃がある。
開胸手術には丸い刃を使う。
偶数番号が丸刃、
奇数番号が、尖った刃。
テンブレードは10番刃のこと。
NHKのERでもよく出る単語。
「テンブレード」
(続く)

サンダーバード作戦南部町 その2

2017年01月31日 18:20

国道から青い防御服の救急隊員が走ってくる。

EC135は芝地にピタリと着地した。
機体の重量で次にわずかに、芝にスキッドが食い込む。
機体は水平に安定した。

右後ろドアが整備長により開けられた。
梅谷医師、私、工藤ナースの順に降りた。
まだ、メインローターが天井で回っている。
それぞれ救急バッグを持ち、
低い姿勢で危険域を出る。
現場までの400mを走った。

整備長は、芝のぬかるみを確認する。
この10数分あと、患者を乗せたストレッチャーが
ヘリコプターに近づくことになる。
そのときに、地面が大丈夫かどうか。
もし、ぬかるみが深ければ
予定しているランデブーポイントへ飛んで移動する。

我々が、現場に近づいたとき、
現場指揮隊長は、
トラックの運転手が挟まれているところから
救出するのを指揮していた。
マラソンで鍛えた梅谷医師は、
400mくらいの駆け足では
呼吸は乱れない。
わたしはというと、
年齢よりは、頑丈であるが、
呼吸数は30回を上回っていた。
ナースはもっと呼吸が早かった。

「隊長、ドクターヘリつきました。
どこに接触すればいいですか」
「救急車内のCPAを優先してください」
現場で活動している消防隊には、
指揮隊長がいる。
まずは、指揮隊長に指示を仰ぐ。
(続く)

サンダーバード作戦南部町

2017年01月30日 18:25

国道で交通事故。
大型車とワンボックスカーの正面衝突。
傷病者複数。

救急車が3台
消防車3台、
に加えて
八戸ドクターヘリ
八戸ドクターカー1号同時出動の
サンダーバード作戦がかかった。
八戸消防指令課が決定している。
現場に赤車、白車、ヘリ・カーが集結する。

ドクターヘリのランデブーポイントは
南部町医療センターヘリポートに決定した。
そこにも、誘導のために赤車がむかう。

上空から見えた国道は事故渋滞していた。
その国道は、
日本橋から青森県庁まで繋がる一桁国道。

高度300mから、
衝突したトラックの前が大きく壊れているのが見えた。
そこにワンボックスカーがめり込んでいた。
機長と整備長は、南部町医療センターヘリポートより近い場所に
着陸場所の候補地があるか
上空から探す。

あった。
事故現場より北400mに公園があった。
地面は芝地だ。
周りに、飛び散るようなものはない。
ゆっくりと高度を落とす。
近づいて突起物はないことをさらに目視する。

整備長は、
事故現場で活動中の救急車に無線を入れた。
「安全確認お願いしたい。
この下に着陸する」

機長は高度を保つ。
救急隊動きを空から見極める。
救急隊が動きだした。
機長は高度を下す。
エンジン音が太い音に替わり、
振動が大きくなった。
地面の芝の一本一本が見える。
ダウンウォッシュで芝が流れる。
(続く)

頸部外傷サンダーバード作戦 最終

2016年10月24日 18:19

ERでは、ショックに対して、
気管挿管を行う。
輸血を行う。
手術室の準備はできていた。
野田頭副所長は、手術室へ男性を移動させた。

眩しい光と、柔らかい室温。
手術台に男性は寝かせられた。
手術が始まった。

頚動脈が切れている。
現場でのペアン鉗子は上手に頸動脈を止血していた。

脳動脈の半分が血流が止まっている。
早く、再会させないと、
後遺症が残るかもしれない。
脳梗塞が起こる。

野田頭副所長は
手術室で、頸動脈をつなぐ手術を行った。
ガラスで切れた頸動脈であったが、
ガラスは更に奥にも突き刺さっていた。
神経にも。

・・・・・・
そして、
一か月後
患者は退院した。
声がかすれる、
飲み込みがうまくない、
疲れやすい。
後遺症はわずかに残った。
だが、頸動脈が切れたことによる、
脳梗塞の症状は全くなかった。
幸運だ。

野田隊長が現場で接触した
バイタルサインから計算した予測救命率は
85%。

八戸ERに入室したバイタルサインからの計算では
98%

助かって当然だが、
救急救命医士がショックの輸液をできない時代だったら、
ドクターヘリがなかった時代だったら、
輸血が事情が悪い地域だったら、
そんな、逆境だったら、
遠隔地で発生した子の事故、
男性の命は危ない。

劇的救命の判定にはならないけど、
機能障害は抑えられた。

救急救命士の判断と処置とスピードが、
光っていた。

頸部外傷サンダーバード作戦 完
・・・・・・・
救急活動のあらましは概ね正確ですが、
会話の言い回しは、推測です。
お許しください。