肝損傷 その5

2012年03月03日 20:26

手術室の室温は30度以上に加温されていた。
出血性ショックの死の三徴<低体温、凝固障害、アシドーシス>が出ると助からない。
体温を下げない工夫が必要。
術者の快適さは無視する。
室温はバリ島並み。

野田頭部長がイソジンを体に塗る。
外傷手術は、開胸に備え鎖骨まで消毒する。
骨盤手術や血管手術を考え、大腿まで消毒する。

緊急手術でも必ず行うこと、
メスを入れるまえに、全員の手を止めること。
タイムアウトと言う。
「タイムアウト」
全員が注目する。、
「腹部出血予想2L,骨盤追加手術は術中決めます、
死の三徴の前に手術を終えます。
心臓を止めるな、輸血はどんどん行く
肝臓なら、手術後血管造影室へ移動する」私は宣言した。
麻酔の心電図モニターが私の方にわずかに傾けられた。
バイタルサインを見て手術のスピードを調節する。

「メス」私は直接介助の看護師に右手を出した。
メスをみぞおちから恥骨上まで一気に走らせる。
2回目のメスは臍の上部分だけ長さ5cmくらい白い筋膜が見えるところまで、
3回目は、白い筋膜を2cmくらい切る。
その下の黄色い脂の腹膜が見えればメスを置く。
2本のコッヘルカンシで、筋膜を両側から捕まえる。
3本目のコッヘルカンシを持ち、先端を腹膜に突き刺す。
これで開腹成功。
腹部ガンの普通の手術とは開腹までのスピードが違う。
創から血液が吹き出る。
どんどん出る。
あっという間に、青い紙布は赤色に染まり、
そして、床に血が溢れる。

クーパー鋏で、筋膜を切開し、腹膜も切り開く。
左指をその穴に入れて、中央を鋏で下方に切りながらすすめる。
そして吸引管を膀胱近くに入れる。
次に、上側に鋏を進める。
吸引管は膀胱側に入れっぱなしで吸引させておく。
ジョリジョリと音を感じながらハサミを進める。
皮膚出血は気にしない。
内臓は大出血しているのだから。
最後に、みぞおちから恥骨近くまで開腹出来た。
trauma incisionと言う。

まず、予想出血部に
タオルを入れる。
このときは、助手が手で腹壁を持ち上げる。
今回は、左側からの外力を考えたので、
左にある脾臓周囲に1枚目タオル。
出血は吸引せず、一気にタオルを入れる。
血液は、創外へあふれる。
次に、右の肝臓の裏へ入れる。
そして、両側大腸の外側。

バイタルサインを確認した。
血圧はOK。
持ち直した。
私は背中に自分の汗をようやく感じた。
(続く)


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