出血性ショックにドクターヘリ効果 その3 ~最終回~

2011年08月28日 21:16

(腹腔内出血に対して緊急手術を開始、しかし術中に血圧が低下)

「いったん処置をやめる」

私はガーゼで出血点近くを圧迫した。
門脈や静脈は血圧が10mmHgくらいしかないので、
損傷部位を上手に圧迫すれば、一時的にはぴたりと止血できる。

血圧が戻るまで、手術は中断。
吉村医師は、輸血をパンピングし始めた。
もちろん、患者は低体温になっているので、加温装置をつけるのは常識。
内科病棟の輸血とは違う。

「このあとも出るよ」と吉村医師に予測を伝える。
「血圧が戻るまで、待って下さい」
「もちろん待つよ」

そして5分後。
「いいですよ、血圧上がりました」吉村医師から許可が下りた。
「じゃ始めよう。その前にツッペル2つ、サテンスキー大動脈鉗子[かんし]、アリス鉗子[かんし]、プロリン[血管を縫う糸]5-0,4-0を用意。
これからは血管の手術だよ」

出血は門脈損傷、これだけなら止血できる。
門脈止血は定型的手順が決まっている。門脈損傷するときは、ふだん陰に隠れているこの門脈が表面に現れていることが多い。

門脈の上下を、大きめのツッペルで上から押さえた。
これで出血の勢いが減る。
次に、出血点をアリス鉗子で挟んで持ち上げる。
ツッペルを外して、サテンスキー鉗子で門脈を大きく挟む。
それからアリス鉗子を外し、損傷部を確認してプロリン血管縫合糸で止血縫合。
最後にサテンスキーカンシを外して、針穴からの出血を止血綿で圧迫する。
うまくいった。

しかし、怪我はこれだけではなかった。
さらに難しい損傷が見つかった。
すぐ近くに十二指腸損傷。縦に大きく8cm裂けている。

大きな十二指腸損傷は、普通の小腸と違って特別扱い。
修復のほかに補強が必要。
減圧が必要。
腸液の流れを変える操作が必要。

野田頭医師のうまい助手で危機を乗り越えた。
こちらも、うまく修復できた。

続いて骨折の手術。
こちらは整形外科医師に引継いだ。


患者が救命救急センターに戻ったのは、23時を超えていた。

全輸血量赤血球14単位。
現場の予測救命率は67%だった。

ドクターヘリでERへ運んだとき、予測救命率は74.5%に改善していた。
もし現場から1時間かけて三次救急施設へ陸路で運んでいたら、
予測救命率は67%以下まで、さらに下がっていただろう。

現場にドクターヘリが出ることで、治療開始が早まる。
そのことで、ER到着時には予測救命率が改善する。
結果として、安全に手術ができた。
これこそが、ドクターヘリ効果。


ちなみに日本外傷学会のtrauma registry参加施設は、青森県に八戸だけ。
外傷症例を正確に記録していなければ、上のような評価すらできない。
他院と比較できる明確な評価指標がないと、具体的な改善も覚束ない。

我々が口にするドクターヘリ効果は大言壮語じゃなく、科学的事実。
日本病院評価機構の平成21年度病院機能評価で救急部門全国1位になったのも、
このような取り組みが評価されてのこと。


コメント

  1. ymaxey | URL | -

    父が八戸市民病院の救命救急に助けてもらってから、このブログの存在を知りいつも欠かさず拝読させて頂いています。回診に来られる医師の医務服に『ドクターヘリ』のロゴを見つけた4歳の甥っ子が興奮していたのもよく覚えてます。こんなに凄いドクターチームが地元で活躍されていることが誇りです。ドクターヘリ、増やして欲しいのはもっともなのですが、八戸市民病院のようなそれをバックアップできる人材+能力があってこそ、ドクターヘリは生きるものだとも思っています。これからも頑張ってください。

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