史上最大のサンダーバード作戦 その6

2011年02月25日 23:19

(サンダーバード作戦で先着したドクターヘリ隊が、救出前の患者に処置を始める)

ヘルメットを装着した最上医師が、左後部ドアから患者に接触する。
撓骨動脈は触れない。外傷で脈が触れないショックを見たら、90%は出血だ。
呼吸は速いが胸の動きはいい。意識もある。

ハサミで袖を切り、駆血帯で血管を浮かせたときに気付いた。右上腕が折れている。
しかし、患者は痛がらない。麻薬が効いたのか、足の痛みが強すぎるのか。

右後部ドアから進入した私は、胸を押してみた。痛みや動揺はない。
ただ、挟まれてから1時間近く零下の環境に晒されたせいで、体温を喪失している。
左の撓骨動脈は触知できない。血圧が低下している証拠だ。

「こっちの方がいいよ」私は左腕に駆血帯を巻きながら言った。
骨折側からの輸液は控える。骨折から出血が増すから。

「どうか、一発で成功しますように」折れていない左腕に針を刺した。
朝のドクターカーでは失敗した。今度は本当に祈った。
静脈留置針の内針に血液の逆流が見えた。「しめた、あとはゆっくり針を進めれば良い」

現場で刺す注射針は簡単な手技だが、難しい治療も実は簡単な処置の積み重ね。
これから病院で行う難しい治療の第一段階が、今ここで行う緊急処置。始めが肝心だ。
「よし。そしたら麻薬を0.2mg注射しよう」看護師が用意した麻薬を受取って静注する。
「輸液速度は全開で。」私が言う前に、最上医師はクレンメを開放にしていた。

「緊急処置終了です。作業続けて下さい」私は、メガホンの隊長に向かって言った。
私と最上医師は事故車から離れ、代わって救急隊と消防隊が車に突っ込んでゆく。

DSC08058.png

男たちは、叫びながら作業を進める。
メリメリと金属を曲げる音が広がる。
「指を挟むな!」という声も。確かに危険な作業だ。

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しばらくして、「よし、膝が出た」と声がした。
「ケッド用意」誰かが叫ぶ。
後方ドアから入った救急隊が、KED を患者の背中にくくりつける。
KED とは、赤、黄色、緑のベルトがついた頸椎固定救出用具。
もともとは F1などモータースポーツのドライバー救出用に開発された器具らしい。



15時13分「足が出た。救出完了、バックボードを持て」
KED を装着された患者は車から引き出され、オレンジ色のバックボードに載せられた。
救急隊長は、意識、呼吸、脈拍を確認すると毛布で体をくるみ、落下防止ベルトを毛布の上から巻いて締めた。

15時14分「車内収容」
救急隊長の声で、患者を乗せたストレッチャーが救急車内に収容される。

DSC08062.png

私は一足先に車内に入り、心電図モニターの電極シールを用意して待っていた。
1時間以内の挟圧外傷なら、再還流障害はないだろう。重炭酸メイロンは必要ない。
ただし、病院へ行ってからはクラッシュ症候群の否定に注意が必要だ。

「できるだけ早くドクタ-ヘリとランデブーしたい。
 準備でき次第、ゆっくり発進させて下さい。」と隊長に頼んだ。
15時19分、救急車はドクターヘリが待つ2km 北のグラウンドへ出発した。

揺れを気にしながらグラウンドに着いて後ろのドアが開くと、整備士が顔を出した。
「天候が悪化しているので、すぐ離陸します。患者をヘリに乗せる余裕はありません。
 それどころか、離陸後に八戸に飛べるかどうかも分かりません。」

(続く)


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