七戸悪天候 最終回

2010年12月31日 14:50

(いよいよ八戸 ER に辿り着いた多発外傷の患者へ、救命スタッフが総力戦を挑む)

まず、胸にチューブを入れる。
人工呼吸は継続。
それから骨盤を金属フレームで固定する。創外固定だ。
さらに腹腔内に細い管を入れ、出血の勢いや腸損傷から流れる腸液を見抜く DPL。
生理食塩水1リットルで腹の中を洗い、その洗浄液の性状から腹膜炎を見抜く手技だ。
通常は臍[ヘソ]の下に2cmの切開を入れて行うが、骨盤骨折で臍近くまで出血が盛り上がっていれば臍の上に切開を加える。

術者は吉岡隆文医師、私は前に立って助手。
10ブレードメスで臍上を縦切開。脂肪をよけ、筋肉の膜を尖刃メスで5mm 切開。
皮膚と脂肪を両側からできるだけ持ち上げる。

「胃の減圧チューブ、膀胱の管、ともに効いているね」二つの管がこの操作には必須。
二つの管がないと、副損傷を作ってしまう。
細いチューブを腹膜下に挿し込み、膀胱の背中方向へ進める。

すると瞬き一回したあとで、黒い血液がドクドク外へ流れ出した。
吉岡医師の顔がひきつる。
「大丈夫でしょうか」
「予定通り。出血量は、事前に超音波で推測できている。その範囲内だ、落ち着け」
予想通り、出血の流れは止まった。
「出血での開腹はしないよ」

ある程度まで血液を吸引したあとで、その血液を検査に出す。
最初に確認するのは白血球数と赤血球数。
(白血球数)が(赤血球数/150)より多ければ陽性。
つまり小腸損傷を考える、そうなれば手術だ。

これらを行いながら、輸血も同時に平行して続ける。
麻酔の安部医師は、冷えた患者の体を温めるため加温装置を作動させている。

「骨盤骨折のショクは治まった。血管造影が必要かどうかは、CT で判断しよう」

室温をバリ島のように上げた手術室では、血圧を含めすべての生理学的なデーターが正常化してきた。
治療がうまく行っている証拠。
尿の流出も良くなっている。冷汗は消えていた。

患者は、救命救急センターに入院となった。
熟練した救急ナースが、この後を引き受ける。
家族に、吉報を説明する。
家族もうれしいが、われわれもうれしい。

「なんとか、引っ張り上げました。
 骨折の手術は数日後必要ですが、命の保証はできます。
 これからも一生懸命治療します。お任せください」

パソコンで計算された予測救命率は26%。
(医療従事者はhttp://www.trauma.org/archive/scores/triss.html)
予測救命率が50%未満の重症外傷は、なかなか助からない。
私が前任地川口市でまとめた研究結果です。
今明秀重症外傷救命率今明秀重症外傷救命率


この様な重症外傷を助けることをunexpected survivorsと呼ぶ。
その邦訳が、劇的救命。

安部医師の院内用 PHS が鳴る。ダイレクトブルーではない。
安部医師は休憩もないまま、深夜でも真昼のように明るい ER へ再び向かっていった。
救急医アベ


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