中心性頸髄損傷

2010年03月16日 22:48

いよいよ飛行機の墜落事故でクライマックスを迎えた本編ドラマですが,今回は先週の放送から,練習中に立木に激突したプロスキーヤーのケガについて.

現場での外傷診療や緋山先生の事故は別の機会にして,今回はその後のことです.
病院で全身の詳細な診察を行い,ひとまず骨折はナシとされたものの,右手のシビレを訴え出しました.
MRIで撮影した頸髄を見たガッキーと緋山先生は,中心性頸髄損傷と診断しました.ガッキーは結果を患者さんに伝え,競技スキーは危険だと告げるのでした.…

全身の組織や内臓には,脳からの神経がつながっています.これらの神経の多くは,脳細胞から出て脊髄となって全身の目的地へと配線されています.
つまり脊髄は,神経の束なのです.神経には筋肉を動かす運動神経や,痛みや熱を感じる感覚神経などの種類がありますが,脊髄では神経の種類ごとに束ねられる場所が決まっています.触覚は体の前側,運動神経は中心部から外側にかけて,などといった具合です.図がないと分かりにくいでしょうが・・・

この神経の束は,背骨[せぼね]の中にある脊柱管という場所にあります.
背骨は脊椎[せきつい]と言い,椎骨[ついこつ]という骨が積み重なって出来ています.椎骨は,ダルマ落としのような椎体[ついたい]に,半分に切ったリングが付いた形をしています.このリングを椎弓[ついきゅう]と言い,これが重なって出来た縦穴が脊柱管です.そして,椎体と椎体の間に挟まっているクッションが椎間板です.
クッションである椎間板が潰れて,脊柱管の中に飛び出したのが椎間板ヘルニアです.

このように立派な骨に守られている脊髄ですが,もちろん脊椎にダメージがあれば道連れに損傷を受けるわけです.
ここで,脊椎にヒビやズレがないのに脊髄のダメージが出ることがあります.レントゲンでは骨しか映らないので,レントゲンを撮影しても異常が見つかりません.これをSCIWORA [Spinal Cord Injury WithOut Radiographic Abnormalities, レントゲン異常を伴わない脊髄損傷]と呼びます.【サイウォーラ】と発音するので,講習会では笑ったサイの絵を見せたりします.

このSCIWORAでは,多くが中心性脊髄損傷です.脊髄を輪切りにした真ん中辺り,つまり芯の部分にダメージが出るから中心性と呼びます.
これによって,運動障害と感覚障害の両方が出ます.足より手の症状が強い特徴があり,患者さんが歩けるので見逃されたりします.

SCIWORAは,脊柱管が狭いと起こりやすいようです.日本ではもともと脊柱管が狭い人が多いためか,成人や高齢者にも多く起こります.


今回の患者さんも,もともと脊柱管が狭い人だったようです.
そのため,事故のインパクトで頸が不自然に曲がって中心性頸髄損傷を起こしたのでしょう.もっとも,MRI画像では狭窄があるものの脊髄に異常信号はなかったようですが,,,

中心性脊髄損傷は治らないのでしょうか?
治ります.手術などは必要なく,時間をかけて安静を保てば徐々に麻痺は消えます.

では,どうしてガッキーは患者さんにスキーを諦めさせたのでしょう??
ハッキリとは分かりません.
頚部の脊柱管狭窄が振動などで悪化する可能性や,競技を続けることで再び頸髄損傷を起こす危険性があることなどを考えたのかも知れません.ただ,アルペンスキーの競技や練習自体が,頸髄そのものに影響を与える可能性は低いと思います.

でも,こうしたことに正解はありません.
今回も,結果的に患者さんは新しい人生へ踏み出すことに納得されました.もし競技を続けて第二の人生に移るタイミングが遅れたら,奥さんが耐え切れなくなるなど,彼と家族に何か不利益が起きたかも知れません.
病気やケガのときは,完全に平等な条件で進路を決められることなど殆どなありませんから,自分の頭で考え決断できただけでも,良しとするべきかも知れません.


コメント

  1. k.f.d | URL | E6kBkVdo

    やはり・・・

    医療側からの立場、患者側からの立場・・・
    それぞれの葛藤がありますね・・・
    本当に、こういったドラマを見ていますと、
    お医者さんの日々のご苦労が、なみたいてい
    なものではないことが、伺われます。
    治療に対しての決断の重要性・・・
    しかも、それは、常にスピードを要求されます。
    トリアージについても、同様ですね・・・
    「コード・ブルー2」は、いよいよ来週最終回
    ですが、このブログは、とても参考・勉強にな
    ります。
    これからのコメントも、とても期待しております
    ので、頑張っていただきたいと思います。

  2. しん | URL | -

    以前に

     いつもコードブルーの解説楽しみに読ませていただいています。
     先日、指の切断の患者様の搬送時の記述の際、「氷水に指が」とありました。私の勤務している病棟でも指の再接着の患者様が県内から来られます。
     切断の指を氷水で冷やしてしまうと組織が凍傷状態になって再接着の率が落ちてしまうと整形外科医から指導を受けたことがあります。その医師から「昔は、氷水に着けて運ばれることがよくあった。あれは、良くないんだよ。冷やさないように消防隊にも言いたい」と言っていたのを思い出しました。
     いろんな見解があるとは思いますが、何かのお役に立てれば幸いです。

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