fc2ブログ

「84%熱傷に挑戦」

2022年09月06日 17:57

学会では熱傷治療の醍醐味を伝えます。

ドクターヘリ要請が入った。珍しく下北半島のむつ市の病院からの転院搬送だ。
昨夜入院した重症な熱傷。主治医の話では90%の三度。
尿が出ていない。人工呼吸中。血圧も低下と。
朝になりいくつかの病院に転院を断られ主治医は途方に暮れた。
ダメ元で、八戸救命救急センターに電話してきたのだった。
八戸ERの医師が電話を受けた「いいですよ」。
主治医はビックした。
「ドクターヘリで迎えに行きますよ」。さらに、びっくり。

その日のヘリ番は私。5分後には、離陸した。
八戸市立市民病院救命救急センターでは、重症熱傷治療は救急医が行う。
全身管理と手術とリハビリ。
過去の最高記録は80%三度熱傷の救命だった。
死亡率が高い80%三度熱傷の救命のカギは、
自分の皮膚を培養して、植える。
わずかに残っている皮膚からだけでは植皮が足りない。
そこで、皮膚を培養する。

むつ市の病院から依頼を受けた患者は重症だった。
無尿、ショック、90%三度1との情報。
私は飛行しながら「救命無理かな?」と思った。
着陸後に家族と話をした「何とか助けてください」。
希望のドクターヘリは、重症患者を、主治医から受け取り、素早く離陸した。
八戸ERでは、救急医師たちが迎えてくれた。
土曜のERの混雑の中で、ER2ベッドに患者は入室した。
野田頭所長がすぐに呼ばれた。
透析治療を開始する。
正常な皮膚がない。
熱傷部分から、透析用のカテーテルを進める。
気管挿管チューブを集中治療用のカフ上吸引付きに変える。
大量輸液を続ける。
熱傷の三度で硬くなっているところを、野田頭所長は電気メスで減張切開した。

しかしその凄惨な状況に誰もが救命をあきらめかけた。

翌日、
娘さんが泣いて懇願した。
「助けてください」。われわれは、一度あきらめかけた治療だった。
しかし全力を尽くす方針を野田頭所長は宣言した。
皮膚培養の会社と連絡をとる。
救命するには、皮膚培養だ。
前回の80%三度熱傷は、皮膚培養を使った手術を3度行った。
今回は、それ以上になる。救命成功すればできればリハビリを含めて1年近くかけての治療になる。

劇的救命チームは、今回も重症熱傷に挑む。
詳細に熱傷面積を計算した。86%だった。

3週間後、植皮手術の日。
手術には名人技が必要だ。
手術は朝から始まった。
野田頭所長他医師8名が参加する。
私も。
手術室は8番ルーム。末広がりで縁起がいい。
室温を34度のバリ島並みにして、患者の体温低下を防ぐ。
5時間の手術はうまくいった。
私は手術後に、むつ市の病院の元主治医に電話報告した。
「先ほど、一回目の植皮手術を終えました。血圧、尿量、呼吸、意識、すべて良好です。
ただし、感染が心配です」
「えっつ、生きているんですか。それだけでも、感動です」
「頑張っていますよ。重症患者は得意ですから。いつでも受けますよ。ICU30床、救命病棟100床ありますから」

手術を終えた救急医たちは昼食もとらずに、それぞれ自分の受け持ち患者の回診に散っていった。

そして患者は生還した。
劇的救命!
/////////////////
第27回日本熱傷学会東北地方会を八戸で開催します。

会 期:2022年11月12日(土)
会 場:八戸市立市民病院 講堂
会 長:野田頭達也(八戸市立市民病院 救命救急センター所長)

< 演題募集期間 >
2022年7月15日(水)~2022年8月31日(水)正午


コメント

    コメントの投稿

    (コメント編集・削除に必要)
    (管理者にだけ表示を許可する)

    トラックバック

    この記事のトラックバックURL
    http://doctorheli.blog97.fc2.com/tb.php/3023-137b11ab
    この記事へのトラックバック