吉村有矢医師送別会

2016年04月29日 18:28

八戸救命で修業した医師が、
また一人旅立つ。
吉村有矢医長。
東京生まれ
広島大学卒業
八戸研修医5期生

研修医修了後に八戸救命に所属 
救急専門を取得した。

昨日は送別会だった。
90名が参加した。

・・・・・

十和田消防に119番通報が入る。
男性が、作業中に、フォークリフトの荷台と倉庫天井の鉄鋼の間に挟まれて重体。
救出に約3分かかったようだ。
救急車出動だ。

十和田消防の六戸救急隊が出動した。
現場では、昏睡状態JCS300、呼吸弱い、循環はOK.
三次選定、ロードアンドゴーだ。

八戸市立市民病院救命救急センターが第一選択。
しかし、八戸市内は夏のお祭りで大渋滞のはず。
普段なら40分で何とか六戸から救命救急センターまで陸路で来るが・・・

ダイレクトブルーが鳴る。
収容要請とドクターカー出動の打診だ。

「こちらはドクターカー出動OKです」
吉村医師はドクターカー出動準備を始めた。

ラッピッドドクターカーは赤いLEDフラッシュを光らせ、
大音量サイレンで走り出した。
救急車赤色灯と違い、ドクターカーLEDのまぶしい光は周囲の人家の外壁も赤く染める。
青い道路標識も真っ赤に染まる。
黒いアスファルトはオレンジ色に変色して見える。

ドッキングポイントに近付くと、
救急車の赤色灯が見える。
六戸救急隊の車が先着していた。

接触した患者はあまりに状態が悪かった。
まるで死んだように顔の緊張が取れている。
救急隊は、下顎挙上でバッグバルブで人工呼吸を行っていた。
呼吸はすでに、胸の筋肉は使われていない。
首の筋肉のみで呼吸をする動きがあるだけ。
下顎呼吸だ。
頚動脈は触れる。脈拍は80回。

あまりにもsickだ。
銀色の喉頭鏡を喉に入れた、このような切迫した状況で気管ソウカンの失敗は死に直結する。
ソウカン困難を予想して、ガムエラスティクブジーを使う。
喉頭展開、そしてガムエラスチックブジーを入れる。
気管のこつこつ感が手に伝わる。
気管支の細いところで、ブジーが停止する。
そこから2cm引きもどす。
気管チューブをブジーに沿わせて進める。
挿管が成功すれば咳がでる。
しかし、CPAや昏睡状態では咳が出ない。
患者からは咳が出なかった。
昏睡状態だ。

挿管チューブの位置確認は大事だ。
慎重に確認する。
胸の上がり良し。
胃のごぼごぼ音なし。
肺の呼吸音は右上、左上、右腋窩、左腋窩良し、
もう一度胃の音はしない。
経皮酸素飽和度は100%のいい音色に変わった。
良しいいぞ、次は胸部と首の診察をもう一度、
それから、血圧を見て心嚢液の確認と腹腔内出血の確認を超音波で行う手はず。
吉村医師は、輸液ルートを探した。
ゴムを腕に巻いて血管を探す。
血管が浮き出ない。
トウコツ動脈は弱い。早い、冷や汗あり。
その2分後、音色が低音になる。

酸素飽和度の検知器の指の位置を変えてみる。
やはり低酸素状態だ。
人工呼吸のバッグバルブの硬さを確かめてみる。
気のせいか硬い。
硬いのは異常か?
「じゃDOPE」だ。

血管確保は後回し。
挿管後に急変はDOPE .
D気管チューブの位置異常
Oチューブの閉塞
P気胸
E器械の不具合

「胸腔ドレーンの準備します」
吉村医師が準備する。
一つ一つ確かめる。

ドクターカーにナースは乗らない。
八戸救命では足りているのは医師のみ。
ナース、ME,薬剤師、リハビリ技師、すべて不足している。
全国のドクターカーでナースが乗らない、稀なドクターカーシステムが
八戸。
いつかナースが充足すれば
ドクターカーに乗せたい。

酸素化は悪いまま。
気胸の所見がある。
胸の皮膚の下に空気を触れる。皮下気腫。
呼吸音の低下は良く分からない。
胸の上がりは、先ほどより悪い。
胸をたたくとポンポン音がする。j鼓音。
「やはり気胸だ。循環が悪くなる前にドレーンをいれるよ」

ドクターカーの救急バッグには、32F胸腔ドレーンが2本入っている。
救急車内では、右の処置は容易だが、左は難しい。
左は壁側で隙間が少ない。

手術手袋をつける。
隊長に右腕を上げてもらう。右肋間を開くため。
右手でメス持ち、左指で第5肋間を確認する。
目印は乳頭だ。乳頭を外側に真横に線を引いて、中エキカ線で交わればそこが第5肋間だ。
3cm皮膚切開する。
鉗子を使って筋肉を広げて、胸膜を貫く。
プシューと音がして次に血液が出る。
32Fチューブの内側に入っている硬い金属針は捨てる。
硬くて、鋭く、誤って心臓を突き刺す事故が過去に起きている。
だから、内側に入っている槍のような金属棒が捨てる。
ふにゃふにゃのチューブを鉗子で把持して、胸に押し込む。
チューブから音が聞こえる、呼吸の音だ。
シューシューと細いチューブを気流が通る時に
共鳴した音が聞こえる。
うまくいった。

次はむずかしい左側。

これもうまくいった。

「隊長出発を考えて下さい」
「機関員、ゆっくり車を出して」隊長
窓のカーテンから外はどうなっているか分からない。
おそらくドクターカーも後ろをついて来ているはず。
ゆれる車内で、輸液のための針を腕に刺した。
うまくいった。

超音波検査で腹部出血はない。
意識の確認JCS300、瞳孔不同なし。
ダイレクトブルーを鳴らす。
「ドクターカーの患者、A,B,C、D全部異常あり。
GCS4、外傷性窒息、両側フレイル、気胸、
気管ソウカン、両側胸腔ドレーン、輸液全開です」

どれくらいたったろうか。
自分の車ではあっという間の距離だが、
重症患者を乗せた救急車に内では、
外を見る余裕はない。

生かしてERへ届けられるか?
やっていないことはないか?
必要なことはこれだけか?
見逃しはないか?
首から骨盤までを目で見る。
変化を探す。
モニターを眺める。
手で脈を触る。
胸の上がりを見つめる。

『GUMBA聞いてますか』隊長に尋ねる
『聞けていません、家族まだです』隊長
サイレンが止んだ。
八戸市民病院へ入ったらしい。
窓の外を始めてみた。
ブルーのスクラブの救急医がたくさんいる。
みんな玄関前で待っている。
ゴム手袋の中は逆さにすると流れるくらい汗が溜まっていた。
気温の高さのせいだけではないず。

仲間が救急車のハッチを開けたようだ。
患者の両手首に両側から青いスクラブの救急医が吸い付く。
吉村医師は胸を張ってバッグバルブを押した。

ER入室時、ショックなし。人工呼吸を継続した。

冷や汗が患者から消えた。
すぐにレントゲンがとられる。
胸と骨盤だ。
ERにあるモニターですぐにレントゲン結果を見る。

胸部X線で上じゅうかく拡大あり、両側多発肋骨骨折、両側肺挫傷。
胸腔ドレーン位置良好。気管チューブ位置良し
自分の入れたチューブの位置のいいことに安堵する。

病院の外で、チューブを入れる困難さを救急医は知っている。
救急救命士がどんな勇気を持ってチューブを入れるか、救急医は知っている。
だから、外で入れたチューブの位置や結果はものすごく気になる。

血圧がよければCT室へ行く。

CT撮影だ。
『良くやった吉村!』誰ともなく大きな声でたたえる。
肩をたたく。
ところが・・・・
CTで腕頭動脈損傷とじゅうかく血腫がある。
胸骨骨折もあり。
腕頭動脈損傷だ。

患者はCCM入室。人工呼吸、体温コントロールとなった。

腕頭動脈損傷に仮性動脈瘤はない。
今日はこのまま様子見る。
常温コントロールと鎮静を始める。
問題は、肺挫傷だ。低酸素だ。

翌朝まで一晩人工呼吸して、
PEEP10、酸素30%まで改善した。

朝に鎮静を止めると、開眼する。
『えっつ、開眼!、意識が戻った!』
現場から昏睡状態が続いていたが
眼を開く。

CTを再検する。
腕頭動脈損傷の程度に変化はないか。
急速に拡大すれば、
緊急手術をすることになる。

縦隔の拡大増大なし。

弘前大学高度救命センターに電話した。
心臓外科医と話をする。
「外傷性窒息、腕頭動脈損傷、両側フレイルチェスト、既往なし。
60歳代歳男性,昨夜フォークリフトに挟まれた。
ドクターカー接触時、E1V2M1,循環良し、
呼吸30回以上、両側フレイルチェスト、気管ソウカン後、両側緊張性気胸あり両側ドレーン。
結膜溢血点多数。
腕頭動脈再建の手術をおねがいしたい。
予測救命率39%。」
『いいですよ、ヘリ搬送ですか』
『40分後離陸します』
『分かりました』

重症患者乗せた空の救命救急センターの異名を持つドクターヘリは太平洋を見ながら離陸した。

八戸―弘前は空路で20分。
二つの救命救急センターの連携。


「助かれば劇的救命だよ、勝因は、ドクターカーだね」私は吉村医師の肩をたたいた。

・・・・・・
ブルーのスクラブの背中の「SPIRITS OF HACHINOHE」の文字が、似合う男は、
もうすぐ
八戸を卒業する。






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