2歳出血性ショックER開腹術 その5

2016年03月06日 18:05

私の右手は女児の小さな腹に入れっぱなし。
命綱の大動脈クランプ中。
使えるのは、左手だけ。
吉岡医師は、私に代わって臍から尾側の開腹行ってくれた。
吸引器を腹部に入れる。
右手指に触れる
大動脈の弱い拍動が
すこし、強くなる。
先ほどまでと違って、ようやく洗練した手術になってきた。
私は、吉岡医師に肝円索を切ってもらった。
肝円索がそのままでは、引っ張られて肝臓損傷が大きくなるから。
丸橋医師が入れた動脈ラインがよく効いている。
血圧がデジタルで示される。
「血圧70です」吉村医師
一旦30まで落ちた血圧が徐々に上がる。
血圧30とは、ほぼ心停止のこと。
だけど心停止に近いが、
その治療は遅れなく同時に行っていた。
大動脈閉鎖で。

丸橋医師に右腹壁を外側へ引っ張ってもらう。
私は、フリーになっていた左手を肝臓の右に入れた。
まだ、右手は大動脈を押さえている。
「肝臓右葉砕けている。出血源は肝臓だ。」
私は肝臓の右に左手で圧迫タオルを入れた。
次に吉岡医師が左腹壁を天井側に引っ張り上げる。
脾臓を見た。
損傷は見えない。視野が悪い。
わたしの大きな右手が邪魔している。
盲目的にタオルを脾臓周囲に入れた。
脾臓を圧迫しておく。

両側の結腸外側にタオルを入れた。
これで、腹部4箇所パッキングは終了だ。

「ショック遷延、頭部外傷合併、アシドーシスより
ダメージコントロール手術にします」私は宣言した。
「あと少しだ。
血圧90になったら大動脈クランプをはずす。
直ぐに、肝動脈と門脈を一括閉鎖するプリングルをする。
使うのはサテンスキーカンシ。
それから、損傷部の確認」
会話の間も、
私は右手を動かさない。
命綱の大動脈閉鎖を続ける。
この数分の手術手技選択が
命を決定する。

手術時間が5分経過した。
「血圧90」濱舘医師
たった5分だ。
5分で、見事血圧を上げた。
これが必ず頭部外傷にいい効果をもたらすはず。
みんながそう思った。
その5分で止血するために前倒ししてERで開腹したことがきっと吉と出るはず。
「大動脈開放するよ。直ぐにサテンスキーカンシちょうだい」
大動脈の流れを元通りにして、
すかさず、
肝臓出血に対して、
肝動脈と門脈を閉鎖する手技に移る。
私は、右手を腹部からに抜いた。
その瞬間大動脈は膨れ上がり、
足側に血を通す。
ナースは、赤く染まったわたしの右手のひらに、
サテンスキー動脈カンシを渡してくれた。
ぴたりとカンシは右手のひらに吸い付いた。
上手な介助ナース。
「下がります、血圧。
70です。」
下半身に血流が流れ、
血圧が下がり始める。

私は、小指ほどの胆嚢の背中側を左示指と親指で探った。
肝十二指腸靭帯を探すのだ。
大人と違って靭帯の張りが弱い。
柔らかい。
そこに、サテンスキーカンシを入れた。
「肝十二指腸靭帯をクランプします。
プリングル完了」
「まだ下がります。血圧60です」濱舘医師
「大丈夫、少し待てば上がる。まだ輸血が足りないんだ」
5分間で出来る輸血は限られている。
レベルワン装置は、急速輸血専用装置。
手押しポンピングより早いが、まだ足りていない。
頭側に陣取る
劇的救命チームが踏ん張る。

今度は、右肝臓のタオルを左手で上から押さえた。
損傷肝臓を直接押さえる。
血圧を上げるのが手術の目的。
肝臓破裂部位を直接
圧迫する。
繰り返すが、頭部外傷のためには
低血圧はまずい。
仮に、肝臓の止血ができても、
低血圧が長引けば、
脳の機能が落ちる。
脳後遺症が出る。

プリングル後に血圧は1分で上がった。
循環が回復した。
幸運だ。
次に移る。

我々は、重症外傷でもひるまない。
小児でもひるまない。
(続く)


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