手術室以外で緊急開胸手術 その3

2016年02月15日 18:54

まず、右胸郭にメスを3cm入れた。
すると開放された右胸郭から
たまりかねたように、空にが出てきた。
「ボスーー」と脱気音がした。
右緊張性気胸だった。
左も同様にメスを入れた。
こちらには脱気音がしなかった。

続けて右示指ほどの太さの胸腔ドレナージチューブを留置した。

アドレナリン投与した淡路Nsが、その報告を隊長に伝える、
現在時刻とともに、「アドレナリン1mg静注」と。
続けて、止血薬のトランサミンを注射する。
外傷性ショックの95%は出血だから。
いま、この状態で起きていることは、
大出血にちがいない。
救命するには止血処置が必要だ。
トランサミンはそれを補助する。
日本で開発された世界に通用する薬剤だ。
開発者はノーベル賞の候補になった。
開発者は、故人だが、
奥様はご健在。
開発から50年経て、
世界に通用する薬になったことを、
「当然だ」と奥様は強調していた。
値段は据え置きで、
一本120円。

脱気音の後の胸骨圧迫とアドレナリン投与で心臓が動くかと思ったが、
心電図波形は心静止のままだった。
「左開胸します」
私の言葉に、淡路ナースは速やかに反応し介助 につく。
オレンジ色の外傷バッグから、
開胸手術セットを取り出す。
「救急隊はいったんCPRを止めて手を放して」と声をかけた。
右手に持った、丸い刃のメスで一気12cmの皮膚切開をする。
左前側方開胸だ。
救急室緊急開胸手術でよく使う手技。
皮膚、大胸筋、肋間筋、胸膜と切り込む。
左開胸は成功した。
肋骨と肋骨が3cm位開大した。
その間に、開胸器を入れる。
歯車を時計回りに回すと、
開胸器の幅が少しずつ開く。
5cm開いた時点で、
私は、右手を胸に入れた。
男性医師より小さな手のひらはこんな時役立つ。
わずかに開いた隙間に、手がはいる。
そして、患者の肺をよけて
心臓をつかんだ。
心臓は温かく、内腔のvolumeも十分だった。
「これはいけるよ、戻ってこい!」と
20回ほど心臓を直接圧迫したところで、心臓は動き始めた。
願いが通じた。
狭い救急車内で、左側にスペースは取れず。
なんとか大動脈遮断を行い、ヘリ収容の準備を開始した。
(続く)


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