岩手県北へ その8

2015年06月28日 18:42



救急救命士法が改正になり、
心停止患者だけでなく、
出血性ショック患者にも、輸液ができるようになったのだ。

吉村医師は、患者の右手と左手の脈を同時に触れた。
冷汗はない。しかし、両側とも橈骨動脈の拍動は触知できない。
大量の汗を滴らせて、救急救命士が叫ぶ。
「血圧は60台です!意識レベルが徐々に落ちてきています。」
吉村医師は
「両側橈骨動脈触れない、
この場合は血圧計を宛てにしてはいけない。
高く見積もって血圧60.
実際はもっと低いかもしれない。
そう考えて対応するのが現場の鉄則。
心停止に備える」

吉村医師は患者に呼びかける
「わかりますか。八戸ドクターヘリです」
「大丈夫だ、大丈夫だ」
と患者は朦朧としながら応えた。
握り返す手は冷たい。
麻痺はない。
ショックの原因の3番目の神経原性ショック、
脊髄損傷による、血圧低下ではない。

「救急隊は、全身を脱衣してください」
救急隊員と和島看護師が大きなハサミで患者の衣服をすばやく切る。
脱衣して観察すると、骨盤から右大腿は激しく変形していた。
右下肢は変形して左下肢より短い。
両下肢の脚長差は約5cmはある。
骨盤骨折あるいは大腿骨骨折は明らかであった。
大量出血をするのは骨盤骨折。
受傷機転は軽トラック挟まれ事故。
エンジンルームが男性の大腿骨を直撃し
骨盤を折る。
容易に予想が付く。
「骨盤骨折のショックとして対応しよう。
サムスリング用意して」
吉村医師は口で看護師に指示をしながら、
手のひらは男性の胸に当てていた。
続けて患者に問う。
「痛いところはありますか?」
「ない。大丈夫だ」
患者は、骨折の痛みを感じていないのか。
それとも意識がおかしいのか。
意識障害はやはりショックによるものか。
そんなことを考えた。
携帯超音波によるFASTでは、心嚢液、胸腔内、腹腔内出血はない。
(続く)


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