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brave heart 海猿 その6

2014年10月10日 18:09

<沈む太陽>
午後4時10分。
私と吉村は一刻も早く処置をと患者に取り付いたが、陽は低くなっている。
基地まで2時間半以上を要すること、接触時は呼吸や循環が保たれていたことから、隊全体の判断で『離水』を優先と決まった。

『離水』
もう二度と耳にする事が無いかも知れない、奇妙な日本語だ。
『りすい』と聞いて『離水』と理解するまで数秒を要した。

波に大きく揺られながらも再び動き出す US-1。
いくらか加速した所で水を滑る音が一瞬鳴り止む。
着水と同様、何回か水面を跳ねるようにしながら加速していく。
窓の外は水飛沫しか見えない。

3回くらい跳ねただろうか。
ついにその大きな機体は水面を離れた。
すでに紅より紫に染まった空へ、吸い込まれていくように浮き上がる。

20100927_10.png

すぐに隊員が動き出し、同時に私と吉村も患者の処置に取りかかる。
機内での診察、処置は吉村が主体になった。そのつもりで準備も万端だ。
しかし、陽も落ちてきて暗い。私は彼の手元をライトで照らした。
看護師も手際よく介助してくれる。
この環境に慣れているのだろう。当然ながら、私たちより数段冷静だ。

再度全身を簡単に診察した後、点滴のため血管確保を行った。
暗いうえ揺れがひどく、日焼けした皮膚も血管を分かりにくくしている。
狭い救急車中での処置もやり難いが、それに輪をかけて難しい。

針を刺しても血液が逆流しないほどの脱水に、点滴ルートを確保した。
二人がかりの作業で、病院内では考えられない効率の悪さ。
血糖は69と低め。50%ブドウ糖40mL を静注する。

点滴を落としながら、吉村が患者に話しかけている。
船上よりは目に力が戻りつつあり、話も出来そうだ。
日本語は通じるのだろうか?。。。。。どうやら大丈夫そうだ。

機内は耳当てなしでは頭が痛くなりそうな轟音。
患者の耳元まで近寄り、そのうえ、大声で吉村が話しかける。
腹が痛いと言っているらしいが、数メートル先の私にその声は届かない。
吉村は腹部の診察と、エコー検査を始めた。

ここまでの診断は脱水、低血糖、そして腹痛。
腹痛も緊急性はなく、現段階では命の危険はなさそうだ。
吉村と目が合うと、吉村にも安堵の表情が見て取れる。

もう一度、外に目をやると、既に完全な暗闇だ。
隣室の隊員に患者の病状を伝え、市民病院に患者情報を伝えてもらった。
大声でないと会話にならないので、私も吉村も必要以上に会話をしない。
すでにその気力が無い。可能な限り身振り、手振りで済ませる。
お互い一人の世界でわずかばかり身を休める。

しばらくすると小さな窓の向こうに街灯りが見え始めた。
帰ってきた。

なぜか着水とは比べ物にならないほど静かに着陸し、ハッチが開いた。
すぐに救急隊が、あっという間に機外へ患者を運び出してしまう。

大急ぎで機外へ出ると、沢山の自衛隊員、海保の隊員が待っていた。
その一人に病状を報告、命に別状なさそうと告げると安心した様子だった。

そんな短い隙に患者は既に救急車に収容されていた。
私たちが救急車に乗り込むと、車中は昼間のように明るく感じた。
走り出す救急車。いつもの感じ。
携帯電話で病院へ患者の容態を手短に伝え、病院を目指す。

(続く)


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