救急室開腹術 その9

2012年07月25日 18:19

第4ラウンドは止血。
私は、曲がりペアンを持って、敵の首を一気に捕まえた。
「止まった.
どう、血圧は」
「上がってきました」近藤医師
「2ゼロケンシ(絹糸)」今度は野田頭部長が右手を前に出す。
ナースは、絹糸を45cmに切って、その中央を上から持たせた。
ペアン監視で首を挟まれた動脈に、
きつく太い絹糸を回して縛る。
「動脈を止めたよ。」私はみんなに聞こえるように言った。
しかし、まだ出る。
今度は、鮮紅色でなく、
黒赤い色。
奥から湧き出る。
「門脈か、上腸管膜静脈だ、
この部分は、すぐに開いて止めにいったら負ける。
まずは、上から押さえ込み」私は過去の苦い経験からそれを悟っていた。
surgical trunkとおいう部位、
裂けている部分は縫合止血はむずかしい。
細かい血管が周りにちぎれているから、
ひとつの穴ではないことが多い。
門脈ならまず押さえ込む。
圧迫だ。
タオルで圧迫すると、止血できた。
わたしの右手は、タオルの下の
門脈をしっかり抑えているはず。
この手は離せない。

「河野先生、止血はできている。
ただし、大動脈は閉鎖中。手術室へ移動する段取りよろしく」
「はい、わかっています」
「手術室へ移動して、さらに確実に止血する。
大動脈閉鎖バルーンは、部分閉鎖にしてくれ、
バルーンの水を血圧を見ながら少しずつ抜いて見て」


ミッション完了だ。
わずか、15分の開腹手術で、
男性は一命をつなぐことができた。
だけど、まだ核心部は見ていない。
敵は1人か、複数か。
手術室の明るい照明と強力な吸引装置。
バリ島並みの高い室温で手術の続きを行う。
救急室での手術は、この3つが揃わない。

私は男性の腹のど真ん中に右手を突っ込んだまま、救急室から、手術室へ移動した。
劇的救命チームはほぼ全員付き添った。

エレベーター内は、最も危険な場所。
今からそこに行く。

河野医師の指揮は完璧だった。
スムーズに移動できた。
「オペ室番号は何番?」私は青いユニフォームの手術室ナースに声をかけた
「8番です」
手術室の番号は8番だった。
日本人なら幸運を感じる番号。
うまくゆくような気がする。

8番手術室の室温は32度。
出血性ショックで低体温になると、
止血不能に陥る。
すでに、体温は35度になっていた。
最もすばやい加温方法は、迅速な止血術。
外からの加温はその補助に過ぎない。


(続く)


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