今さら解説!? コード・ブルー 2nd season 飛行機事故 その2

2010年04月02日 23:48

遅ればせながらコードブルー 2nd season を解説するシリーズ。

フェローたちが飛行機の墜落現場と現場救護所で遭遇したのは以下の症例でした。
 1.緋山先生 : 横隔膜損傷により呼吸不全に陥った小児    (済)
 2.藤川先生 : 骨盤骨折があり、右足の血流が悪い男性
 3.ガッキー : 骨盤骨折と心損傷でショックになった高齢男性
 4.山P   : 右下腿が挟まれてしまった男の子

本日はNo.2、スペシャル編に続いて藤川先生と黒田先生のコラボが実現した症例について考えてみましょう。

現場救護所で次々に傷病者を治療する藤川先生は、骨盤骨折があるという患者さんの診察を依頼されます。
ふと見ると、右足が蒼白[血の気が少なく白い状態]で、ヒザの裏にある膝窩動脈や、足の甲にある足背動脈が触れません。
[※膝窩動脈が触れなければ、その先にある足背動脈も触れない理屈ですが、膝窩動脈は少し触れにくいので、確認しやすい足背動脈を一緒に触れるのは自然です。]

いったい何が起こっているのでしょう?
そして、今ここで最初に何が必要なのでしょう?

頭の中が疑問と焦りで溢れそうなその時、電話から思いがけない声が流れます。
そう、あの声・・・「黒田だ」

状況を説明するや、すぐに指示が飛んできます。「バイパスしろ」
藤川先生、そのヒントですぐに意図を理解して、すぐに処置を始めます。
連結管で左大腿→右大腿のバイパス、つまりF-F bypass[F は Femoral, 大腿の意味]を応急で作成するのです。
[連結管というのは、少し太めの点滴チューブで両端が針になっているものです。
ふたつの点滴ボトルの口に針を刺して連結すると、針を差し替えずに済みます。]



骨盤骨折を起こす挟圧外傷[きょうあつがいしょう、挟まれて起こるケガ]では、総腸骨動脈の内膜損傷を合併しやすいと言われています。
心臓から出た大動脈は、胸から腹部を抜けて骨盤の高さに達すると両足に向かって二つに分かれます。これが左右の総腸骨動脈です。内膜は血液と接する内壁面です。

総腸骨動脈の内膜が損傷すると、血流が大きく損なわれます。場合によっては完全に塞がってしまうこともあるでしょう。その状態で数時間が過ぎてしまえば、黒田先生の言う通り足を残すことは難しくなるでしょう。

しかし、血液がないことも問題ですが、急に再開通しても恐ろしいことが起こります。

いったん血液の流れが止まると、その先の組織は致命的なダメージを受けます。
細胞が急激に壊れ、細胞の内側に閉じ込められていた成分が、流れの止まった血液中にどんどん溶け出します。それがLDHなどの無数の酵素、カリウムなどのミネラル、筋肉細胞からはミオグロビンという成分、これらが大量に溶け出します。

そんな時、ふさがっていたモノが外れて、血流が戻ったら?
そうです、流れ出した血液からカリウム濃度やミオグロビン濃度が全身に流れ込み、濃度が急激に上昇してしまうのです。
中でもカリウムは、少し濃度があがっただけで心臓を止めてしまいます。だから通常の人体では、非常に狭い範囲にコントロールされているのです。
ちなみに、田所部長の手術中に心臓を止めていましたが、これには高濃度の塩化カリウム液を心臓に流し込んでいます。心臓外科の手術も同様です。

そんなワケで、血流が止まったままでは足がダメになってしまいますが、といって慌ててバイパスを開いてしまっても心停止してしまうのです。

これ、どこかで聞きませんでした?
そうです、まさに同じときに山Pがユウキ君に説明した内容と同じです。
ユウキ君の場合も、足に乗っている障害物を単純に取り除くだけでは同じことを起こしてしまうのですね。もちろん彼の場合、・・・・おっと、これは次回のお楽しみ。

話を戻して、実際に黒田先生が脅かした通り、バイパスを開放すると間もなく致死的な不整脈が発生しました。心室頻拍[VT, Ventricular Tachycardia]です。
急いで蘇生を行い、何とか心拍再開をさせ安堵する師弟コンビでした・・・・


この患者さんは恐らく下腹部を挟まれ、骨盤骨折に右総腸骨動脈の内膜損傷を合併したのでしょう。
総腸骨動脈が損傷すると、人工血管を使って血管を修復する開腹手術が必要になります。が、もちろん現場では不可能なので、搬送して手術が始まるまで多少でも血流を残すために応急でバイパスを作ったわけです。

作戦としては間違いありませんが、問題は方法です。
針付きの連結管を使うのはナイスアイデアでしたが、これ決して簡単な処置ではありません。
血流が良い左側、つまり脱血[血液を抜く方]側は簡単です。拍動する動脈を指で感じながら針を刺します。救急では日常的に行う手技です。

しかし血流がない右側、つまり送血側は大変です。総腸骨動脈は骨盤の骨の中に隠れています。その足側の大腿動脈が皮膚の表面近くに浮き上がってきます。総腸骨動脈は外表から深いところを走っている上に拍動を触れませんので、狙いをつけられません。

そこで普通は大腿動脈をカットダウンという手法を使います。
手術のようにメスで皮膚を切り開き、血管をむき出しになるよう掘り出し、ヒモをかけて持ち上げながら針を刺すのです。

藤川先生の手許をみると、一瞬ですがカットダウンを行っているように見えます。
メスで切り込んだ後に、銀色の金属が串刺しになっているような映像が映ります。ペアンやコッヘルと呼ばれる鉗子[かんし、挟んだり掴んだりする手術道具]を血管の下に通して持ち上げ、そこに針を刺したようです。総腸骨動脈にしては少し浅いように思いますが、何しろ一瞬なので判断できません。この状況で短時間で、照明もなく大腿動脈をカットダウンできる技はそんじょそこらの外科医のレベルを超えます。すごいです。

それよりも疑問なのは、バイパス開放後の蘇生です。
再灌流障害を警戒しているのですから、バイパスを開く前に大量輸液とメイロン投与を行っておくのがセオリーというか鉄則です。開放して不整脈を確認してから投与するのでは、片手落ちと言われても仕方ないように思います。
また、その蘇生も疑問が残ります。胸骨圧迫と「エピ」[エピネフリンのこと、今は発見した高峰譲吉博士に敬意を表してアドレナリンと呼びます]投与は良いとしても、VTでアトロピンは不適切と思いますし、むしろ除細動[いわゆる電気ショック]が必要と思われます。まぁすぐに心拍再開したようなのでケチを付けるのはヤボかも知れませんが、救命医として心肺蘇生は譲れないところです。

今さら解説!? コード・ブルー 2nd season 飛行機事故 その1

2010年03月30日 21:47

とうとう放映が終了してしまったコードブルー 2nd season。
さらに一週間が過ぎてしまいましたが、いまさらながら最終回について少し。

引き続き、飛行機の墜落現場と現場救護所で奮闘するフェローたち。
最終回に登場した症例は、
1.緋山先生 : 横隔膜損傷により呼吸不全に陥った小児
2.藤川先生 : 骨盤骨折があり、右足の血流が悪い男性
3.ガッキー : 骨盤骨折と心損傷でショックになった高齢男性
3.山P   : 右下腿が挟まれてしまった男の子

と、どれも目が離せない展開でした。
今回はまず、順番に1.から解説してみましょう。


最初は第10話でした。苦しがっている男の子を診てくれと、母親が緋山先生を捕まえます。
辛そうに目を閉じた子どもを横にして診察すると、重症感が漂っています。
気胸を疑いますが確信をもてる手がかりはなし、しかし酸素化が急速に悪化します。
右の肩口などに打撲痕があるようですが、全容は分かりません。

急いで気管挿管してみたものの換気抵抗が強くバッグが硬い。
[黒いゴム製のバッグが映っていましたね。あれがチューブを通して肺と繋がっています。
バッグを押せば肺が膨らみ、その時の抵抗を手で感じることができます。
麻酔科医は押す量を精密にコントロールするだけでなく微妙な抵抗をも敏感に察知しますが、慣れれば看護師でも極端な場合は判断できます。
途中が狭くなっていたり、肺が何かに押されると抵抗が強くなり酸素が体に入りません。]


エコーを当てると、見慣れない画像が映し出されています。
[エコーは、超音波を臓器や組織に当てて反射してきた信号を映像にする原理です。
正常の肺なら、超音波を通さない空気が詰まっているので何も見えません。
外傷で血液が溜まれば、水分なので反射がなく真っ黒に透けて見えます。]

普通に考えれば真っ白か真っ黒のハズなのに、白と黒が混じって形もはっきりしない画像
[これをモザイクエコーと表現します]

しかし橘先生の知識と経験が光りました。
無線の向こうで、左横隔膜損傷と一発で診断してきました!
本当はこれ、分からないなりにエコー画像を正確に伝えた緋山先生もエラいと思うのですが…


さて、緋山先生は躊躇しつつ現場手術に挑むのですが、ここから解説を。
横隔膜とは、皆さんご存知の通り胸とお腹を仕切っている膜型の筋肉です。
焼肉ではハラミと呼ばれる部分ですね。
横隔膜が下に向かって動くと、肺が広がって空気を吸い込みます。
ここで、食道は胸で胃袋はお腹です。また心臓から出た大動脈は全身に通じています。
このように、横隔膜にはいくつか穴が空いています。この穴から臓器がハミ出すと横隔膜ヘルニアと呼ばれます。生まれつきの問題があったり、継ぎ目が緩くなって起こることもあります。

横隔膜は分厚い筋肉なので、損傷を受けるようなら多くは重症です。
つまり、他の臓器も無傷では済みません。
右側の横隔膜はすぐ下に大きな肝臓が、左側には脾臓があります。
どちらも大量に出血する臓器ですから、肝損傷や脾損傷を合併した横隔膜損傷は、ハッキリ言って救命困難です。
鈍的外傷[鋭的外傷は刃物が刺さった、銃で撃たれた、など。それ以外は鈍的外傷です]による横隔膜損傷では、半数以上がショックになるとも言われています。

ドラマでも緋山先生が手こずっていたように、横隔膜損傷を現場で正確に診断するのは難しいものです。エコーでも見つからず、病院でレントゲンやCTを撮影して初めて診断される場合も少なくありません。

そして治療です。
書いたばかりですが現場で診断されることは多くないと思いますが、もし診断できたとしても決定的治療は困難です。
ドラマのように破れた横隔膜から内臓が胸の方にはみ出してしまう[つまり、外傷性の横隔膜ヘルニア]と、肺が押されて呼吸停止したり心臓が押されて心停止になったりと致命的です。といって、現場で破れた横隔膜を縫い合わせるのは不可能です。

この場合、手術用などの滅菌したタオルを広げて穴に当て、ヘルニアが再発しないよう防ぐ程度が限度でしょう。
その状態で時間を稼ぎ、病院へ急いで搬送したら緊急手術へ持ち込むことができます。

橘先生はタオルパッキングを指示していましたが、似たような考えと思います。ただし詰め込みすぎても肺が広がりにくくなるので注意が必要ですが。。。

飛行機墜落! 災害現場の医療活動ふたたび

2010年03月19日 21:44

コード・ブルー 2nd season も終盤の大詰めを迎えています.
予告通り,飛行機墜落の大災害発生です.

といっても,災害医療の基本については,昨年1月のスペシャル編の解説でも書きました.

コードブルーで学ぶ 災害医療の基本その1


コードブルーで学ぶ 災害医療の基本その2


読み直すと,どちらも懐かしい記事ですが,今回のドラマにも通じる普遍的な内容です.
ちょっと説明が多くて大変かも知れませんが,ぜひ一度は目を通してください!


今回,第一陣は三井・藤川・冴島でした.藤川先生が先発隊!
そしてピストン搬送での第二陣が橘・藍沢・緋山となりました.

森本先生は,拠点病院の統括役に入ったようですね.
このような大災害の場合,早とちりや誤解も含め,実にたくさんの情報交換が行われます.
そんなときに情報の窓口担当がコロコロ変わると,非常に困るのです.
ですから,留守番も含めて現場に行かないでERを守る役割は絶対に必要になります.CSとも阿吽の呼吸で適任??


さて先発隊は,現場の指揮隊に先導され情報提供を受けながら(走りながらのブリーフィング!),現場救護所となった体育館へ飛び込みました.

中は阿鼻叫喚の地獄絵図です.
救急隊やレスキュー隊はたくさんいますが,広げたブルーシートの上に運び込むのが精一杯の状況にみえます.この状態では,救護所ともいえない状態です.

メンバーが圧倒されるなか,藤川先生が素晴らしい提案をしました.
そうです,治療は後続隊に任せ,まずはトリアージです.魔法の呪文【CSCATTT】のTも,トリアージから始まっていました.
これは非常に冷静で,状況を良く把握したうえでの判断と思います.ピストン搬送で後続チームが来ることを踏まえ,先発隊としてトリアージを担当すると判断できたのです.

第二陣の山Pも,後発隊として充分なリーダーシップを発揮します.
無秩序に運び込まれる傷病者を整理して効率的な治療を展開するため,現場救護所の立ち上げを宣言したのです.
多くの傷病者が一度はトリアージを受けて緊急度の判断が付いていますから,トリアージタグの色別に傷病者を集めるよう指示を出していました.そして,もっとも緊急治療を要する赤タグのエリアに医療資機材を集める指示もしていました.

このことによって,無秩序だった体育館の中に現場救護所が立ち上がり,診療効率が飛躍的に改善するのです.また,黒タグが付けられた傷病者も周囲を囲ったエリアに集めることで,人目から守られます(その意味では,遺体安置所という看板はいただけませんが…)

実際に画面では,これ以降カーテンの仕切りや診察ベッドなどが映るようになりますし,赤タグが付いた傷病者の治療に医師が専念できるようになります.
このような現場救護所の立ち上げは,決まったルールなどありません.すべて現場の状況次第ですから,すばやい決断力と実行力が必要なのです.
さらに山Pは,救急隊や警察との情報交換を開始するなど現場の状況把握も抜かりありません.橘先生も任せっきりにするワケです.


・・・続きは次回に.

緋山先生の切創事故

2010年03月17日 20:56

昨日の記事で書いたプロスキーヤーの事故,今回は別の視点から.

立木に衝突したとの通報で、橘先生と緋山先生が出動しました。
ドクターヘリでスキー場に向かい、パトロール隊のスノーモービルでゲレンデハウスの患者さんへ。本論とは無関係ですが、なかなかカッコ良かったですね!

床に寝かされた患者さんにはネックカラーが装着されていて、意識はあるものの具合は悪そうです。外傷診療の第一印象はsick[具合が悪い]。
primary survey[外傷患者さんの呼吸と循環を素早くチェックする手順]で、両側に呼吸音減弱があったようです。循環を評価するシーンは確認できませんでしたが、両側の胸郭に圧痛があり[両手で押すと痛そうにしていました]、もしかすると皮下気腫による握雪音[雪を踏んだようなギュッという音]を確認したのかも知れません。橘先生は両側気胸と判断して、胸腔ドレーンを両側に挿入すると宣言しました。

イソジン消毒に続いて局所麻酔を皮下に注射し、緋山先生も続けて同じ処置を開始します。ところが、ここで緋山先生が誤って自分の手を傷つけてしまうのでした。ディスポ手袋の破れ目に血液が滲むさまを、呆然と見つめる緋山先生・・・


これは、いわゆる医療関連事故ということになります。
もちろん、被害者も加害者も、患者さんではなく医師本人です。
映像では、緋山先生が思わず手を引っ込めたためメスが手をかすめたように見えます。
局所麻酔が足りなかったか、偶然のタイミングで痛がったのか、メスを入れた瞬間に患者さんが動いたので、ついひるんだのでしょう。
切ってしまった場所は、左人差し指の親指側の付け根でした。これは、左の親指と人差し指で皮膚を押さえながら右手のメスで切り込むとき、メス刃の進行方向が左手と交差していたのでしょう。本来なら、左手から離れる方向に切り込むべきでした。これは、メスの取扱いで基本中の基本です。

しかし、謹慎?から明けたばかりの現場出動は、落ち着いて処置できる方が不思議です。
経験が少ないうちは、ERでの緊急処置も上級医がサポートしないと、自分でも考えられないようなミスをします。ましてや現場では… 聴診器を持つ手が震えるのも、無理ありません。

さて、患者さんが実はB型肝炎陽性キャリアで、緋山が劇症肝炎に・・・というのは一昔前のドラマ。コードブルーに陳腐な展開は似合いません。
そもそも、今どき医療従事者ならB型肝炎のワクチンを受けている筈です。
HCV[C型肝炎ウイルス]やHIV[エイズウイルス]にワクチンはありませんが、このような場合は緊急で患者さんの血液を調べさせていただきます。もしHIV陽性だった場合、すぐに予防内服を開始することが推奨されています(初回投与は受傷2時間以内)。

ところで、簡単に破けてしまうような手袋は意味がない!と思うかも知れません。
でも、メスで切ってしまう事故は割と少数です。多いのは、いわゆる針刺し事故です。この場合は薄いゴムでも、突き抜けるときに血液が拭い取られて、感染率が下がるようです。
手袋の役目はこれだけではなく、患者さんや医療者の体についているバクテリアが相手に移るのを防ぐいう役割があります。
ですから医療現場では、一処置一手袋を徹底して指導されるのです。もったいない、と言ってはいけません。

コードブルーのフライトスタッフも、良く見るとしょっちゅう手袋を交換していますよ!

中心性頸髄損傷

2010年03月16日 22:48

いよいよ飛行機の墜落事故でクライマックスを迎えた本編ドラマですが,今回は先週の放送から,練習中に立木に激突したプロスキーヤーのケガについて.

現場での外傷診療や緋山先生の事故は別の機会にして,今回はその後のことです.
病院で全身の詳細な診察を行い,ひとまず骨折はナシとされたものの,右手のシビレを訴え出しました.
MRIで撮影した頸髄を見たガッキーと緋山先生は,中心性頸髄損傷と診断しました.ガッキーは結果を患者さんに伝え,競技スキーは危険だと告げるのでした.…

全身の組織や内臓には,脳からの神経がつながっています.これらの神経の多くは,脳細胞から出て脊髄となって全身の目的地へと配線されています.
つまり脊髄は,神経の束なのです.神経には筋肉を動かす運動神経や,痛みや熱を感じる感覚神経などの種類がありますが,脊髄では神経の種類ごとに束ねられる場所が決まっています.触覚は体の前側,運動神経は中心部から外側にかけて,などといった具合です.図がないと分かりにくいでしょうが・・・

この神経の束は,背骨[せぼね]の中にある脊柱管という場所にあります.
背骨は脊椎[せきつい]と言い,椎骨[ついこつ]という骨が積み重なって出来ています.椎骨は,ダルマ落としのような椎体[ついたい]に,半分に切ったリングが付いた形をしています.このリングを椎弓[ついきゅう]と言い,これが重なって出来た縦穴が脊柱管です.そして,椎体と椎体の間に挟まっているクッションが椎間板です.
クッションである椎間板が潰れて,脊柱管の中に飛び出したのが椎間板ヘルニアです.

このように立派な骨に守られている脊髄ですが,もちろん脊椎にダメージがあれば道連れに損傷を受けるわけです.
ここで,脊椎にヒビやズレがないのに脊髄のダメージが出ることがあります.レントゲンでは骨しか映らないので,レントゲンを撮影しても異常が見つかりません.これをSCIWORA [Spinal Cord Injury WithOut Radiographic Abnormalities, レントゲン異常を伴わない脊髄損傷]と呼びます.【サイウォーラ】と発音するので,講習会では笑ったサイの絵を見せたりします.

このSCIWORAでは,多くが中心性脊髄損傷です.脊髄を輪切りにした真ん中辺り,つまり芯の部分にダメージが出るから中心性と呼びます.
これによって,運動障害と感覚障害の両方が出ます.足より手の症状が強い特徴があり,患者さんが歩けるので見逃されたりします.

SCIWORAは,脊柱管が狭いと起こりやすいようです.日本ではもともと脊柱管が狭い人が多いためか,成人や高齢者にも多く起こります.


今回の患者さんも,もともと脊柱管が狭い人だったようです.
そのため,事故のインパクトで頸が不自然に曲がって中心性頸髄損傷を起こしたのでしょう.もっとも,MRI画像では狭窄があるものの脊髄に異常信号はなかったようですが,,,

中心性脊髄損傷は治らないのでしょうか?
治ります.手術などは必要なく,時間をかけて安静を保てば徐々に麻痺は消えます.

では,どうしてガッキーは患者さんにスキーを諦めさせたのでしょう??
ハッキリとは分かりません.
頚部の脊柱管狭窄が振動などで悪化する可能性や,競技を続けることで再び頸髄損傷を起こす危険性があることなどを考えたのかも知れません.ただ,アルペンスキーの競技や練習自体が,頸髄そのものに影響を与える可能性は低いと思います.

でも,こうしたことに正解はありません.
今回も,結果的に患者さんは新しい人生へ踏み出すことに納得されました.もし競技を続けて第二の人生に移るタイミングが遅れたら,奥さんが耐え切れなくなるなど,彼と家族に何か不利益が起きたかも知れません.
病気やケガのときは,完全に平等な条件で進路を決められることなど殆どなありませんから,自分の頭で考え決断できただけでも,良しとするべきかも知れません.