泥沼からの劇的救命 最終

2018年05月16日 19:12

一体、この男性一人を救命するために、
何人が関わったのだろか。
それに報いるためにも、
高度な蘇生処置と蘇生後治療が続く。

劇的救命を信じて。
・・・・・・
努力は報いられた。
救助、救急、ドクターヘリ、救命救急、救急看護、リハビリ、
総力で挑戦した。

男性は2週間後、廊下を歩いていた。
リハビリを開始できるまで元気になった。
笑顔がある。

「感謝しきれない。
薄れる意識の中で死を覚悟した」と

3週間後に、自宅へ退院。
劇的救命だ。


泥沼からの劇的救命 完

泥沼からの劇的救命 その8

2018年05月15日 19:12

野田頭所長は、お湯と、タオルで鼠径部だけをきれいにするようにナースにお願いした。
PCPSチューブを挿入する皮膚をできるだけきれいにしたい。

PCPSはすぐに回すことができた。
血液温は24度だ。
PCPSで復温を開始する。
すると、手足の動きが出てきた。

脳の虚血の影響を見るため、
頭部CT検査をする。
「脳の被髄境界は保たれている。
いまのところ、脳の虚血は軽い。」田中医師
男性は救命救急センターに入院した。
復温は順調だった。
救命救急センターナースは、
まだ泥まみれの男性を体をタオルで清拭する。
何枚かのタオルを使い泥はすべて拭き取った。

田中医師はPCPSが順調に回り、
赤みも帯びてきた顔に話かけてみた。
大きな声をかけた。
「手を握ってください」
すると、男性は、
弱いが手を握り返した。
呼びかけで手を握る。
激的救命のアプローチは始まったばかり。

翌日、心臓の動きはまだ不十分だった。
心停止後の一時的心臓機能低下か、
心筋梗塞が起きてそれから重機ごと転落したのか。
もし後者の心筋梗塞なら、治療法はある。
田中医師は、心臓カテーテル検査を循環器医師に依頼した。
患者は、PCPSがついている状態で、
一日前のように、
血管造影室へ移動した。
心臓の検査は問題なかった。
さらに3日後、心臓の動きがよくなった。
これならPCPSをはずせる。
朝の回診で決断が下された。
野田頭所長、田中医師、森医師はPCPSを外す手術を午前中に救命救急センターで始めた。
(続く)

泥沼からの劇的救命 その7

2018年05月14日 18:11

「偶発性低体温症、溺水、CPA,
Vf継続、呼吸出てきた。
対光反射あり。
PCPSの準備をお願いします」
「八戸ER了解」
ERでは、予想していたPCPSの準備が進む。

近藤医師は
400m上空でVfに対して電気ショックをかける。
「機長、電気ショックをかけます。
いいでしょうか」近藤医師
「ちょっと待ってください」機長。
機長は、計器を確認する。
電気ショックが飛行計器に影響する場合を想定し、
その体制をとる。
「はい、電気ショックいいですよ」機長
近藤医師は、ナースのCPRを止めさせ、
電気ショックのスイッチを押した。
今度は、近藤医師がCPRを代わった。

窓から黄色のドームが見える。
八戸ER近くの幼稚園の建物だ。
病院は近い。
整備長が室内通話で
「着陸します。
シートベルトを締めてください」
近藤医師は、CPRをナースに頼んだ。
ナースは椅子に座って、
横向きにCPRを続けた。
近藤医師はシートベルトを締めた。
13時32分八戸市立市民病院へ着陸した。
すぐに、近藤医師はシートベルトを外し、
CPRを代わった。
心電図はVf.
男性は直接血管造影室へ移動した。
そこには、
劇的救命チームの
田中、森、野田頭医師たちが青いガウンを着て待ち構えていた。。。
想定外の全身泥だらけ。
血管造影室に、除染装備はない。
ERなら洗えるが・・・
(続く)

泥沼からの劇的救命 その6

2018年05月13日 18:10

バックバルブで人工呼吸をすると気管チューブから泥水が噴き出た。
沼のほとりで繰り広げられる劇的救命へのアプローチだ。
男性は救急車に収容され、
患者はドクターヘリが待つランデブーポイントへ向かった。
13時9分ようやく救急車内で血管確保ができた。
アドレナリン1mgが注射された。
移動中の車内ではルーカスがつけられた。
13時18分瞳孔は6mmで対光反射があった。
低体温状態では低体温による脳をはじめとする重要臓器の保護作用が期待できるため、
心停止時間がたとえ長くても、
救命できる可能性がある。

ドクターヘリ収容時には、呼吸が出た。
心電図は、心室細動に変わった。

離陸直線に、
近藤医師は、
八戸ERのダイレクトコードブルーPHSに電話する余裕はなかった。
八戸ドクターヘリの収容病院の9割は
八戸市立市民病院救命救急センターだ。
電話連絡なしに、離陸することは、
生命が緊迫して状態を意味することは、
八戸ERスタッフは承知している。

希望のドクターヘリは、
救助現場を
13時21分に離陸した。
離陸したEC135の後部のドクターシートには近藤医師が乗る。
近藤医師の膝の前には気管挿管されている男性が寝かせられている。
近藤医師はペンライトで男性の目に光を入れた。
すると、対光反射あり。
これはいけるぞと、近藤医師は思った。

CPRはナースが行った。
近藤医師は、右足で無線のスイッチを踏んだ。
救急処置中でも、
足のスイッチで無線の会話できるようになっている。
(続く)

泥沼からの劇的救命 その5

2018年05月12日 19:09

偶発性低体温症の心停止確認のための頸動脈の確認時間は、
通常の心停止確認の10秒以内ではなく、
もっと時間をかけて観察することになっている。
高度徐脈では10秒くらいの脈拍確認では心停止か
心臓が動いているけれど徐脈かの判断は困難である。
通常と異なり呼吸や脈の評価は
30~45 秒かけて注意深く行う。
その間に、少ない呼吸を感じたり、
非常に遅い脈拍を触れれば、
それは心停止ではない。
CPRは必要ない。
心停止ではないと判断できても、
低体温状態では心筋の被刺激性が高まるため、
傷病者を粗雑に扱うと容易に心室細動へ移行する。

また低体温を伴う心停止では、
心停止後に体温が低下したのか
体温低下が原因で心停止に至ったのか明確に判定できないことも多い。

30病間の脈拍確認、
それでも頸動脈は触れなかった。
呼吸なし。
心停止だ。

隊長は泥まみれの衣服の裁断を隊員に指示する。
傷病者へは愛護的に接する。
別な隊員は泥まみれの服の上かから胸骨を圧迫する。
服の裁断後に隊員は、タオルで胸を拭いた。
泥水で白いタオルが黒くなる。
新しい乾いたタオルでさらに拭く。
そして乾いた胸の皮膚に隊長はAEDパッドを貼った。
近藤医師は、溺水による心肺停止と考えて、
気管挿管に移る。
左手に銀色のマッキントッシュ喉頭鏡。
右手には気管チューブ。
口の中は泥水でいっぱいだった。
現場挿管で吸引機をつかえることは少ない。
吸引機の到着を待つことなく挿管できないといけない。
近藤医師は、喉頭鏡を口に入れ、
いつもとおりに喉頭展開を試みる。
だが目標の声門は見えない。
声門が見えない理由は、
口の中の泥水だ。
近藤医師は、喉頭鏡を天井方向に強引に持ち上げた。
すると、口の中の泥水の中に沈んでいた声門が、
水平線から顔を出す日の出のように、
泥水の水平綿から顔を出した。
声門さえ見えれば、
大量の水の中であっても、
気管挿管はできる。
近藤医師はウルトラテクニックで喉頭展開をして声門に気管挿管を成功させた。
12時57分気管挿管成功。
(続く)