日経メディカルカデット6位

2017年01月27日 18:01

日経メディカルカデットから転載です。

「心停止発生、現場は医局」
2016/9/27 掲載

 午前8時25分。
朝の通勤時間帯にそれは起きた。
現場は、なんと八戸市立市民病院の医局だ。
多くの医師が医局の前を足早に通り過ぎ、
自分の持ち場へ急ぐ中、
60歳代の男性医師が医局で突然倒れた。
目撃していた内科部長がすぐに呼び掛けたが、
反応がない。
内科部長は、
近くを通りかかった4年目医師に大声で状況を伝えた。

 男性医師は仰向けで意識がない。
口を弱くパクパクする死戦期呼吸の状態だった。
4年目医師が頸動脈を触るが脈はない。
ここは病院の医局。
救急患者がよく発生するパチンコ屋や銭湯ではない。
最も安全な病院、その中でさらに安全と思われる場所だ。
4年目医師は、その場で男性医師の白衣の胸を開き、
胸骨圧迫を開始した。
通りかかる若手や救急担当、婦人科医なども次々に騒ぎを聞きつけ、
ERに電話する者、
AEDを取りに行こうとする者など、
次第に人が集まってきた。
しかも当然ながら、全員が医師だ。

 医局は建物の2階にあり、
50mほど離れた場所に赤と白のAEDボックスがある。
扉を開くと周囲に大音量の電子音が鳴り響く。
1分もしないうちにAEDとバックバルブマスクが医局に届けられ、
大勢のプロが、
交代でCPR(心肺蘇生法)を続けている。
血の気が引いた胸の皮膚にAEDパッドが貼られた。

 「ショックが必要です。
充電します。
離れてください。
オレンジ色のショックボタンを押してください」
という自動音声が流れる中、
医師の1人が強くショックボタンを押した。
心停止から電気ショックまで2分、
男性医師の体は床から3cmほど跳ね上がる。
すぐにCPRが再開され、
電気ショックから10秒後、男性医師は開眼した。

 倒れた男性医師を、
みんなで床から持ち上げてストレッチャーへ乗せた。
これで助かったはずだと、
その場にいたみんなが思っていた。
ところが、
ストレッチャーに横になった男性医師の手足が痙攣を始めた。

 「またVF(心室細動)だ!」。
救急医が頸動脈を触りながら叫ぶと、
向かいの医師がCPRを再開した。
2回目のAEDが作動し、続けて救急医師はアミオダロン(不整脈治療薬)の点滴を始めた。

「大丈夫、治しますから」と私が声を掛けると、
男性医師はしっかりとうなずいた。
30分後、
循環器医により、心臓カテーテル治療が始まった。

 この件が教訓となり、
半年後に医局内にAEDが設置された。
今度はもっと早くAEDが使える。

おっと、そのときに患者になるのは誰だ?

腸壊死にダメージコントロール手術 最終

2016年12月31日 18:56

私と、村田医師、田中医師が助手。
麻酔係は長谷川医師。

手術室では、
救急科の手術が
二つ同時に行われる。

開腹すると、
3mの小腸のうち、2m80cmが黒色に壊死していた。
大腸は、盲腸を含めた右側が壊死していた。

それらをすべて切除する。

麻酔は大変だった。
血圧低下。
酸素化低下。
100%酸素で麻酔をしている。

こんな時は
ダメージコントロール手術だ。
壊死部位を切除し、
腸の吻合はしない。
皮膚のみを素早く閉じて、
1回目の手術を終える。
そしてICUで全身状態を立て直す。
後日、2回目の手術の計画を立てる。

高齢女性に対しては、
ダメージコントロール手術を行った。
メスで開腹してから、
小腸切除280cm+右半結腸切除を
終えて
皮膚を閉じるまで
35分だ。
手術を終えてからは、
素早く救命救急センターに行く。
・・・・・
3日目、人工呼吸中の患者が目を開いた。
4日目、人工呼吸を終了し、
気管挿管チューブを抜いた。
高齢女性は自らの肉声で
「ありがとうございました、先生」と

5日目、腸吻合手術をした。

重症外傷に対するダメージコントロール手術だが、
このように、
病気の手術に対しても応用できる。

体力(予備力)のない
高齢者のショック症例には、
ダメージコントロール手術が救命のカギだ。


腸壊死にダメージコントロール手術 完
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今年もお世話になりました。
来る年もよろしくおねがいします。

腸壊死にダメージコントロール手術 その2

2016年12月30日 18:54

ワーファリンという血栓ができることを予防する薬を飲んでいる。
心房細動では血栓が心臓にできやすく。
この血栓が脳に飛ぶと、
脳梗塞になる。
ほかの内臓に飛ぶこともある。
ほかの内臓が梗塞(壊死)になることもある。

今野部長が診察する。
身体所見からは、
腹部に明らかな異常がある。
しかし、自発痛はない。

CT検査を行った。
腸の血流が落ちていた。

心配した、腸間膜動脈に血栓が飛んだのだろうか。

先ほどまでERにいた野田頭副所長の姿がない。
野田頭副所長が診察すれば、
いつも一発で手術適応を決めている。
野田頭副所長は、重症熱傷の手術を始めたばかりだった。

代わりに私が呼ばれた。

そして診察する。
「はい、
この患者は、
開腹手術ですね。
それも急ぐ」
「腸壊死ですか」今野
「そう、壊死の長さはわからないが、
上腸間膜動脈閉塞症を一番に考える」
私は、女性に話しかけた。
手術の説明をする。
大量輸液で血圧が戻っている。
意識はよくなっている。
「お願いします」としっかりした返事。

手術は40分後に始まった。
(続く)

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年末のERは大混雑。
いつもより診察する医師を増員して
ERに対応する体制を敷いている。
診察室も3か所増やした。


腸壊死にダメージコントロール手術

2016年12月29日 18:52

高齢女性 
90歳台。
下痢と嘔吐が二日前より、
救急車で搬送された。
八戸ERに冬のノロウィルス症が流行し始めたころ。
ただし、腹痛はないという。

家族に聞くと、
腹は痛いとは言っていないと。

診察をした。
血圧が低い。
高齢者なのに、
血圧は70しかない。
脈は速い。
呼吸が早い。
ショックだ。
下痢による脱水だろうか。
それとも、
感染症による敗血症だろうか。

血液は酸性(アシドーシス)になっていた。
輸液を開始する。
輸液に反応して、
脈拍が戻る。
遅れて血圧が戻る。
腹部を押すと痛がる。

ショックの原因は腹部の病気だろうか。
高齢者の病気は二つ一度に来ることがある。
例えば、心筋梗塞と感染症など。
腹部を強く押すと、
腹筋が張る。
腹部は膨れていた。
脈拍は不整脈だった。

心電図検査では、心房細動だ。
(続く)

サンダーバー作戦 県境 その7

2016年09月15日 18:40

10秒後、ドクターカーから医師がドクターヘリに乗り込んできた。
期待通りにい後ろの開いているドアから。
「血糖良し、E1V1M4,循環良し。ルーと確保をお願い。」
『原先生、外傷はないけれど、超音波見て』
『西川さん、次は心電図12誘導』
「隊長、血圧上肢左右差見てね」
『家族から病歴聞いて、
意識障害の鑑別で、前に進めないでいるから』
「機長、ヘリ搬送するよ、収容先は八戸救命」
「隊長、ヘリへはどうやって移すか指示を頂戴」
「まず、外へ出して、救急車ストレッチャーで移動します。
道路路肩と、緑地帯の境界の高さ50cmの杭を挟んで、
ヘリストレッチャーに平行移動させます。」
「OK」
「ワーファリン飲んでいます。小松内科かかりつけです。」医師
「心電図12誘導は幅が狭いQRS、RR間隔絶対不整、心拍数遅い、P並み不明。やっぱり心房細動だ」医師
「それじゃ、血栓が飛んだ?」医師
「脳塞栓?そうか、心臓発作じゃなかったんだ」私
「原先生と私はドクターヘリ、光銭医師は,ドクターカー。家族を一人乗せて病院へ帰って。途中で詳細な病歴を取ってね」
10時10分青森県ドクターヘリ現場離陸。
上空で調べた鼓膜体温は35.5度だ。低い。
太平洋の水温は16から18度くらいのはず。
ウェットスーツで作業していたとしても、
体温は下がって不思議はない。

EC135の室内温度は、曲面ガラスに太陽の光を浴びて、偶然高めだった。
八戸ラッピドドクターカー現場出発
10時14分八戸市立市民病院へリポート着陸
ERへ移った。
頭部CT撮影は問題なし。
心エコーは大きな異常なし。
少してドクターカーが到着した。
(続く)