ドラマの人食いバクテリア事件 その2

2015年08月27日 13:50

結果的に疑いは正しく,
敗血症性ショックが明らかとなりました.
壊死性筋膜炎として緊急手術に踏み切りましたが,
治療が間に合わずに大森さんは亡くなってしまいました.

あとになって聞き直すと,
熱帯・生シーフードという病気に関わる情報が明らかとなったようです.


さて,以下は解説になります.

◆1.ビブリオと皮膚軟部感染症
大森さんを襲った病気は,
Vibrio vulnificus [ビブリオ・バルニフィカス]
という細菌(バクテリア)による敗血症でした.

このビブリオ菌は,
夏に食中毒を起こすことで有名な腸炎ビブリオという細菌の親類で,
やはり暖かい海水の表面に浮かんだりしています.
生カキなどの新鮮なシーフードを海面から直接引き上げたりすると
表面にくっついて,消化管から感染することが多いようです.
また傷口から入ることもあり,
波打ち際で足を切ったり生ガキの貝殻で手を切って
感染する場合もあります.
だいたい潜伏期間は1~2日です.

普通は下痢をするくらいですが,
肝臓病や免疫低下がある患者さんでは,
敗血症を起こしてしまうことがあります.
これが恐ろしいのです.

ビブリオ・バルニフィカス による敗血症は,
何と死亡率50~70%と高率です.
特徴的な症状として,
皮膚が赤黒くなったりヤケドしたような水ぶくれが出たりします.
もちろん敗血症ですから血圧が下がり意識が悪くなります.

治療は抗生物質投与と,重症の場合は手術です.
ただ,発症時点で細菌は見つかりませんので,
治療開始時点で疑っておかなくてはいけません.
また,肝臓が悪いと血が止まりにくいので,
手術も簡単ではありません.

◆2.壊死性筋膜炎と「人食いバクテリア」
森本先生は壊死性筋膜炎と言いました.
これは,似ていますが違います.
壊死性筋膜炎の多くは,レンサ球菌,ブドウ球菌,嫌気性菌群,
などのありふれた細菌が原因です.

このうち,劇症型A群レンサ球菌と呼ばれるタイプによるものが重症化して
進行も急激です.
これが「人食いバクテリア」と呼ばれるものです.
ただし,A群レンサ球菌自体はありふれた細菌で,
子どもの咽頭炎を起こす溶連菌[ようれんきん]は
A群レンサ球菌そのものです.
いつ,どこで,どうして劇症型壊死性筋膜炎を起こすのか?
これは,まだ良く分かっていません.

壊死性筋膜炎の治療は緊急手術です.
それも,「まさか,ここまでは」と思うような広い範囲を,
手術で切り取る必要があります.
問題は,病変部が皮下なので,
切り開くまで分からないことです.
腐った床の上にカーペットが敷かれているようなイメージでしょうか?
もちろん抗生物質も使いますが,
それだけでは絶対に助かりません.

◆3.診断と治療は正しかったのか?
ハッキリ言って,診断は非常に困難です.
「急速に進行する敗血症で,皮膚に明らかな病変がある」
という状況証拠しかないからです.
これでは上の二つを区別できません.
だから,緊急手術は当然の選択ですし,
実際に病変部が広がっていて片腕を切り取ることになってしまいましたが,
それでも不充分だったのでしょう.
(続く)

・・・・・・
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ドラマの人食いバクテリア事件」その1

2015年08月26日 18:48

今日のテレビでこんな話題
「最近国内で人食いバクテリアが増えてきた」

このブログでの過去の同様記事を再掲載します。

ドラマ コードブルーの症例の解説です。

ドラマに出てくるのは
大森セツさん,52歳の女性.
受診理由は倦怠感,顔面の腫脹・変色.

それではドラマの解説の始まりです。

これまでヒアルロン酸注入,ボツリヌストキシン注入,
脂肪吸引,目の下のたるみ取り,フェイスリフト術,
などを繰り返し行っていたようです.

直前の経緯は不明ですが,
緋山先生が診察を始めたときも座った姿勢のままボーっとした様子でした.
そして問診を始めるなりフラフラと崩れこんでしまうのでした.
顔面は不規則に腫れあがり,
どす黒い変色も混じっています.
緋山先生が殴られたと思うのも無理はありません.


バイタルサインは不明ですが,
診察時は呼吸回数が20回を少し超えているようです.
成人で毎分20回以上は呼吸促迫と考えます.
原因は山ほどあるので検査もせずに判断はできませんが,
敗血症の初期症状に頻呼吸があることは有名です.

だからでしょうか,
入院することになった大森さんの病室に緋山先生が行くと
橘先生が処置をしようとしています.

病室の机に2つ並んだ首の長いガラス瓶は血液培養ボトルです.
つまり,橘先生は血液培養をしようとしていたのです.
それを緋山先生が引き継ぎました.
血液培養を行うタイミングはただ一つ,
菌血症を疑ったときです.
つまり,大森さんは入院の時点で菌血症を疑われていたことが分かります.
非常に鋭い判断だったと思います.

ただ残念ながら,2つほどツッコミどころがありました.

まず,本当なら血液培養には4本のボトルが必要ですが,
誤解されて2本だけで済まされている病院があります.
この場面では,橘先生が既に2本分取っていたかも知れませんが…

次に,血液培養は採血のように針を刺して血液を抜きますので,
針先に雑菌が触れないようにマスクや帽子をしないといけません.
2人ともマスクをせず,口を開いてお喋りをしていたのが残念です.
美形の俳優なのでやむを得ないですね。

話を戻して…
菌血症とは,血液の中にバクテリアが混じっている状態です.
普通の人でも,
歯を磨いた直後には口の中のバクテリアが歯茎の傷から血液に入りますが,
ほんの一瞬で追い出され元に戻ります.

これに対して敗血症は,
病気のせいで血中にバクテリアがいるだけでなく,
それが続くほどの重体であることを意味する言葉です.
このとき,
身体全体がガタガタ震えるほどの寒気が出ることもあります.

血中のバクテリアは身体全体に届き,
強い症状を出します.
敗血症は,
あっという間に死亡する可能性もある緊急事態なのです.
(続く)

久しぶりのコードブルー,ガッキー激闘編その2

2010年01月14日 21:00

昨日の記事を書いてから,ふと確認したところ,何と!
昨年の正月特別編を解説したシリーズが未完了のままでした!
ちょうど今週末には災害の実技講習会を主催する縁もあるので,急いで続きを…


列車事故の現場出動でガッキーの担当は,救護所のトリアージでした.

そしてガッキーの許には,予想通りに重症患者さんばかり運び込まれます.
応急処置をしても,次にその中から誰を病院に送り出すかの決断が待っています.
必要な処置が分かっていても手が回らず,次々に新しい重症患者が運ばれてくる…
冷静を装っても,パニック寸前の極限状態に近い状態でしょうか.

本当は,これほどの大災害なら現場の1次トリアージは救命士や非救命医師に任せ,
負荷が高い現場救護所に,限られた救命医を集めるのが良策のように思えますが,
メンバー全員の状況を把握して指示を出す仕組みがなければ,できるものじゃありません.


頭と胸を打った中年男性が運ばれたのは.そんなときです.
呼びかけると目を開けて何か話しますから,確かに意識は2ケタです.
ガッキーは右手で脈を触れながら意識を確認し,ペンライトで瞳孔を確認して赤タグを選択しました.頭部外傷と胸部外傷を合併していますから,確かに緊急搬送の対象と思われます.

ところがこの男性は,ヘリが来る数分の間に全身性のケイレンを起こしました.
急いで診察すると意識レベルは300.つまり昏睡状態です.聞き取りにくい台詞ですが,対光反射がなく除脳硬直もあるようです.

どうやら脳出血が増えて脳幹部を圧迫し,脳ヘルニア状態に至った可能性が高いようです.この状態から搬送して手術しても,ハッキリ言って救命は望み薄です.

それでも普段なら,間違いなく最優先で緊急搬送するでしょう.
しかし今は,先に搬送すれば救命が期待できる患者が他にいるのです.
そして彼女は,搬送中止という重い決断を下しました.

もちろん,家族は猛然と抗議します.
そりゃそうでしょう,さっき最優先と言われたばっかりなのに…
娘は我を忘れて吼え立て,母は茫然自失と崩れ落ちます.

大規模災害という悲惨な事故の,もう一つの被害がこれです.
母娘の2人とも,心に深い傷を受けています.
そして突き刺さるような家族の叫びは,医師にも深い傷を負わせます.

ガッキーに,憎まれ役を引受けようとまで考える余裕はなかったと思います.
冷たく事務的な発言も,耐え難い苦痛を仕事と割り切って自分を守るためでしょう.
感情移入して苦痛を背負っては,とても次の仕事に向かえません.
しかし,自分を守るため家族に寄り添えなかった事実も,重くのしかかります.

昨年の救急医学会東北地方会でも,特別講演して下さった荒木先生が同様の経験を語っておられました.
アドレナリン全開の現場から離れたあとで抑うつ的になり,快復に長い時間を要したそうです.
こうしたことが知られるようになり,近年では災害支援の後にデブリーフィングが必要とされています.

その点で,最後の三井先生は少し冷酷に感じられました.
冷静に聞けば親心を含んでいますが,こんな時はシンプルで暖かい言葉がほしいものです.
人を救うために現場に行って,辛い思いだけが残るのは哀しすぎますよね.



このように,大規模災害への対応は通常の医療とかなり異なったものです.
加えて常に予測外で,現場では消防や警察や自衛隊も現場活動を展開しています.
これらが,それぞれの立場や目的で活動すると必ず衝突が起こりますし,互いに不信感を持ったりします.パニックを起こすのは一般市民だけではありません.

そこで,多くの関係機関と災害対応を一緒に勉強しよう!と実技講習会を開発しています.
MCLS,Mass Casualty Life Supportと呼んでいます(川崎病ではありません).
全国に先駆けて,今週末に八戸市民病院で開催されます.
まだ開発中で完成したものではありませんが,数年後には全国展開しているかも?

久しぶりのコードブルー,ガッキー激闘編

2009年10月17日 23:59

読者の方からリクエストを頂きましたので、
かなり放ったらかしになっていた「コードブルー」の解説を久々に書いてみます。
※久々にビデオを見直しましたが,やはり良く出来たドラマですね~


今回の主役は、列車事故現場の現場指揮所でトリアージを命じられたガッキーです。

彼女は現場へ向かうヘリの中で,三井先生から「救護所の搬送トリアージ担当」を指示されます.
現場に飛び込んで被災者に接する他のフェローとは違うようです.
いったい,何をするのでしょう?どうして彼女は指示に戸惑ったのでしょう? 詳しくみてみましょう.


災害現場が起こると,歩ける被災者は現場を離れますが歩けない負傷者の多くが取り残されます.
この動けない被災者をレスキュー隊などが捜して見つけ出したあとで,トリアージが施されます.
現場で行われる最初のトリアージなので,1次トリアージと呼びます.

このトリアージで重症と判断されれば,優先的に現場から現場救護所に運ばれる訳です.
逆に言えば,現場救護所には重症な順に運ばれることになります.

この運び込まれた重症患者の中で,誰を先に病院へ搬送するのか?
応急処置をしながら,その優先順位を決める作業を搬送トリアージと呼びます.
患者さんに2度目に行なわれるので,2次トリアージとも言います.

2次トリアージは,極めて高度で困難な作業です.
まずは運ばれてきた患者を迅速に診断し,必要最低限の応急処置を開始します.
もちろん重症ですから,決定的な治療のためには後方病院への転送が必要です.

問題は,ここからです.
モノもヒトも情報も,あまりに多くが不足しています.

ほかに怪我や持病があるか?長時間の搬送が可能な状態か?家族や関係者は?
まだ現場に残っている患者は何人くらいか?救護所の支援はあるのか?
搬送に必要な救急車やヘリは来るのか?それはいつ?そして何台?
専門治療に対応できる病院があるか?そこは近いか?機能しているか?

こうしたが情報すべて,優先順位決定に影響します.
一方で状況はどんどん変わり,ためらうヒマもありません.

もちろん,必要な情報がすべて救護所に届くとは限りません.たいていは,矛盾する情報に混乱させられ振り回されたりします.
また,仮に情報が完璧でベストな判断をしても,すべての患者さんを救える保証などありません.重傷が多く,治療する手が少なければ,救える命は減ってしまいます.
しかし現場では,決断が正しかったかすら分からないままです.

これは相当に辛いことです.


長くなったので,続きは次回に.

症例その3-4:現場活動 ふじかわ編

2009年06月05日 20:31

だんだん月イチ企画になりつつありますね.
コードブルー解説、列車事故の続きです。

今回は藤川センセイの活躍をみることにしましょう.
彼は緋山先生と現場に到着,先着した指揮官(ガッキ-)の指示で安全が確認された2輌目へ.
そこからは消防の指示に従い,列車内に取り残された患者さんを診察に向かいます.
消防やレスキュー隊が一度はトリアージして,歩ける方は脱出済みです.
つまり,残っているのは重傷者だけというわけです.

示されたのは若い男性,下腿(スネ)の開放骨折でした.
開放骨折とは,骨が体の外側へむき出しになってしまった骨折のことです.
ばい菌が骨に感染して骨髄炎になれば命に関わるため,骨の折れ方が同じでも格段に重症です.
また,骨折部分からの出血量が多いため,血圧が下がっているようです.
これを出血性ショックと呼びます.もちろん緊急事態です.

オクダさんは会話もできますが,出血が続けば脳へ酸素が届かず意識が悪くなります.
だから酸素マスクを使い,少しでも脳への酸素が途切れないようにしました.
しかし,やはり出血を止めるか輸血で補うかしないと助けることはできません.

藤川先生は出血を止めるため,手で出血点を直接押さえようとしますが,
出血点をうまく押さえられないため,止血も難しい状態のようです.
膝窩動脈は膝の裏側を通る動脈で,恐らく筋肉の中に潜って出血点が分からないのでしょう.

余震のために緊急搬送も難しくなった状況下,黒田先生が現れます.
普段どんなにキツい上司であっても,こんなときは神様に見えるに違いありません.
そしてこの神様は,外科的止血を指示しました.
つまり,手術で足の付け根にある太い動脈を探り当て,根元を押さえて止血しろと言うのです.

ガレキのすき間から術野もロクに見ず的確な指示を出す黒田先生のもと,
ビビリまくっている救急隊を奮い立たせて処置を進め,何とか成功!
あとは,止血して血液が届かなくなった足がダメになる前に膝窩動脈をつなぐ手術です.

その後どうやって列車内から救出できたのかは不明ですが,
幸い手術も時間内に始められ,何とか足を守ることができたようです.