工場で墜落事故 その2

2017年02月10日 18:00


藤田医師が患者に接触する。
声は出ない。
呼吸は、胸がよく上がる。
橈骨動脈は弱い。
手は握る。

救急隊の処置がよかったのか
意識は
改善している。

藤田医師は、
呼吸音を聞いた。
問題ない。
救急隊長に出発を進言した。
「八戸ERです。
出発おねがいします」

ピーポーサイレンを鳴らし、
救急車が出発した。

最近の欧米の論文によると、
外傷患者で、
現場で処置をしてもしなくても
救命率はかわらない。
さらに、意識が昏睡状態の頭部外傷では、
現場で気管挿管するのとバッグバルブで換気しながら病院へ向かうのでは、
気管挿管するほうが救命率が低い。

八戸では、
ドクターカーの現場の滞在時間は平均2分だ。
論文で協調している、
現場滞在時間を長くして処置することはしていない。
ドクターヘリの現場滞在時間は14分だ。
こちらも早い。
八戸のドクターカーでは
現場で処置に費やす時間を短くして
救命率を上げる。
入りながらできる処置は走りながら。
だから、
時には、
気管挿管を走りながらおこない、
チューブ固定が終わった瞬間に、
病院正門到着したということもよくある。
(続く)

工場で墜落事故

2017年02月09日 18:59

年末も工場は動いている。
八戸港沿いには、高い煙突が病院から見える。
煙突からたなびく白い煙が風向きを教えてくれる。
今日は北風だ。
重化学工業の工場が八戸にある。
年末でも工場は動いている。


事故は工場で起きた。
午後2時ころ、
119通報。
「男性作業員が、倒れている。
高いところから落ちたかもしれない。
意識なし」

八戸消防は救急車を1台出動させた。

ダイレクトブルーが鳴った。
ドクターカー番は藤田医師。
今日のヘリ番は木村医師。
渋滞がなければ
ドクターカーの方が早い。

ダイレクトブルー
要請から2分でドクターカー1号は出動した。
海岸道路を北上しているとき、
消防無線が入った。
「意識JCS200.ショック状態」
昏睡状態とういうことだ。

ドクターカーが工場の正門を入った。
目の前に救急車が停車していた。
ハッチドアが閉まっていた。
患者は救急車内に収容されたばかりだった。
オレンジ色のバックボードに固定されている。

顔には、茶色のすすがついている。
靴下は濡れていた。
(続く)

ドクターカー・ジェット機 最終

2017年01月21日 18:18

手術ガウンは村田医師と阿部研修医が着る。
大動脈遮断カテーテルを入れる体制だ。
頭側には貫和医師が入る。
ショックなら気管挿管が必要だ。
挿管チューブと薬剤の用意をする。
麻薬のケタラールと筋弛緩剤を用意する。
ナースは、急速加温輸液装置レベルワンを持て来た。
天井の赤外線加温器にスイッチが入る。
放射線技師が呼ばれた。
床には、出血に備えて、白い紙シーツが張り巡らされた。
長谷川医師は手術室に電話を入れた。
「腹部外傷の手術準備おねがいします」
濱舘医師は、輸血の在庫を調べた。
そして、O型血を取り寄せた。
山崎医師と野田頭副所長は、
開腹、開胸手術道具を揃えた。
荒川研修医は貫和医師のそばに着く

ERに電話が入った。
みんなが注目する。
「あと5分で到着、
手術の準備はできているか」
「はい、できています」

私は、ER自動ドアの外に出て、
救急車を待った。
臓器搬送時に降っていた雪は晴れていあた。

来た。
救急車がバックでER玄関に入る。
助手席から山本救急救命士が下りた。
「この救急車は労災外傷ですか?」私
「いえ、パークホテル卒倒です」山本救急救命士
もう一台が病院敷地内に入ったのが見えた。
あれだ。
「申し訳ない、向こうが重症なので、
向こうを優先させて」
「はい」
 2台目の救急車がバックでER玄関に入る。
ハッチドアが開けられた。
藤田医師と黒木研修医、吉田救急救命士が下りた。

患者は20分間の初期診療のあと、
手術室へ向かった。

勝負はtheatreで。
外傷学で、手術室をtheatreと呼ぶ。
劇場だ。
劇的救命は劇場theatreで。

ドクターカー・ジェット機 完

ドクターカー・ジェット機 その6

2017年01月20日 18:17

若い二人の医師は階段を一つ飛ばしに駆け上がった。
早い。
今日の救急隊長は、昔スピードスケートインターハイ出場経験がある
吉田救急救命士だ。
二人の医師は、元スピードスターを追いかける。
4階に着いたのは、ほぼ同着だった。
やはり年齢の違いだ。

すさまじい外傷の男性は、顔色が真っ白だった。
呼吸数は早い。

だが、二人の医師の呼吸数も早かった。

「ショックだ」
藤田医師は宣言した。
輸液を始めた。
隊長はバックボード固定する。
酸素投与。
本来、バックボードは搬送器具ではない。
米国では、バックボードを搬送器具に使わない。
患者の体重でバックボードが折れたことがあるから。
でも、日本では、搬送器具に使えると思う。
米国人に比べて、
日本人の体重は軽い。

救急車に収容するまでが大変だった。
急な狭い階段を人力で、4階下に降ろす。

腹部から血が滴り落ちる。
藤田医師はERに置いてきたダイレクトブルーPHSに電話を入れた。
「腹部外傷、ショック、輸血と手術が必要です」藤田医師
「はい、用意します」濱舘医師

濱舘医師に今月ついているのは、
自治医大5年生の小川さん。
島根県出身だ。
救急の勉強をしたくて、
全国の施設から八戸を選び、
一か月合宿する。
(続く)

ドクターカー・ジェット機 その5

2017年01月19日 18:15

藤田医師と黒木研修医は工業地帯へ
ドクターカ―1号で向かっていた。
工場で労災事故。
国道45号線を北上し、
海岸線道路に入る。
海岸線に立ちならぶ黒い工場。
高い煙突からは白い煙がもうもうと出ている。
海岸線道路は片側2車線。
そこを走りぬけると一段と大きな工場が右に見えた。
工場の門に右折する。
敷地内に入るドクターカー1号。
前方に救急車が見えた。
そのすぐ後ろにドクターカー1号は停車した。
後部席から反射板付の赤い災害服に
ヘルメットをかぶった二人の医師が降りた。
工場の案内人が小走りに近づいてきた。
少ない説明のあと、
案内人は走り出した。
その後ろに二人は続く。

何だこりゃ!
工場の金属質の堅そうな階段が上に向かっていた。
二人がいる地上から遥か上に階段が伸びる。
空気は埃ぽい。
案内人は
「患者は4階です」
「えっつ」
黒木研修医は赤い救急バッグをリュックスタイルにして
後ろに担いだ。
これを登る。
足は安全靴を履いている。
救急隊が黄色い防寒具を着て2階か3階を駆け上がっているのが階段越しに下から見えた。
先着救急隊はまだ、患者に接触していなかった。
クレーンや突起物がいたるところから飛び出ていた。
二人の医師は、いつも通りにヘルメットの顎紐をきつく締めて、
階段に足を掛けた。
手すりを使医ながら、
間違っても転落しないように気を使った。

はるか上に見える4階のてっぺんの狭い場所が目的地。
そこに患者はいるらしい。
(続く)