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失神 後編

2018年07月25日 18:15

私は、ERでドクターカーで出た伊沢医師を見送ったあとに、
コードブルーPHSをポケットに入れた。
ERでは、その前に救急車で運ばれてきた、
1ベッドに
転落小児の頭部外傷。
2ベッドには、
昨日発症の構音障害と麻痺の患者を木村医師、佐々木医師、森医師が診ていた。
脳梗塞であったなら、
24時間以内に
血管内治療ができることがある。
そのためには、素早い検査が必要だ。
脳卒中スケールを判定し、
頭部CT検査を行うつもりだ。
3ベッドには、腹痛患者がすでに入っていた。

重症ベッドは満床だ。
これから来る伊沢医師の患者を受けるために、
ベッドを開けなくてはいけない。

候補は脳梗塞の2ベッドだ。
脳梗塞患者をCT室へ移動したタイミングで、
丁度ER入室させればいい。
それしかないと、みんなは考えた。

予想通りに、2分前に開いた2ベッドに、
ドクターカーの伊沢医師と患者、救急隊が入室した。

顔色が悪い。
冷やせはない。
橈骨動脈は左が弱い。

すべてに胸痛患者に5分以内にすることは
心電図12誘導検査、バイタルサイン、酸素カヌラ、輸液、モニター装着
10分以内に胸部X線。

男性は、胸部大動脈解離を疑われていた。
胸部X線では、上縦郭拡大とカルシウムサインがあった。
ますます、大動脈解離らしい。

CT室へ移動する。
結果は大動脈解離だった。

心臓外科医がすぐに応援診察に来てくれた。

失神 完

失神

2018年07月24日 18:12

日曜朝9時、救急要請が入った。
パチンコ屋で男性が卒倒した。
八戸消防は、救急車1台を現場に出動させた。
同時にドクターカーを出動させるために、
ドライバーのPHSと
医師のダイレクトコードブルーPHSを鳴らした。
ドクターカー番は伊沢医師。
赤い災害服を羽織り、ERの前から姿は消えていった。

昨日は、八戸卒業生の吉岡隆文医師が朝からドクターカー番だった。
合計9件の出動要請があったという。
「久しぶりに,八戸救命で働き、
刺激をもらいました」
今日はその吉岡隆文医師がヘリ番だ。
彼はいま、船橋市の病院に勤務している。
船橋と言えば、日本初のドクターカーを軌道に乗せたところ。
年間2000件近い出動がある。
船橋市医師会と、船橋の救急医が当番制でドクターカーに乗り込む。

伊沢医師が載った八戸ドクターカーは病院前の交差点でサイレンを鳴らした。
パチンコ屋はそれほど遠いわけではない。
道路を進む。
救急隊より無線が入った。
「卒倒した男性。現在JCS一桁」

ドクターカーは現場到着した。
男性は救急車内に収容されたばかりだった。
顔色は悪く、手は冷たい。
冷汗はない。
脈拍は50回で徐脈だ。
訴えを聞くと
「背中が痛い」と
伊沢医師は、橈骨動脈の脈拍の強さの左右差を見た。
右が弱い。
失神、脈拍の左右差、背部痛
これは大動脈解離のキーワード。
伊沢医師は現場出発を隊長に上申した。
「八戸ERへ収容します」

血圧計は右120、左87mmHgで20以上の差があった。
心タンポナーデを疑う頸静脈の怒張はない。
急変に備え輸液ルートを確保する。
続いて心電図12誘導、そして心臓超音波検査をする。
12誘導は徐脈、ST上昇はないが、
心筋梗塞の可能性は残る。
心臓超音波では、心嚢液が少量溜まっている。
心臓の動きはいい。
大動脈弁の異常はない。
同じく、失神で発症する肺塞栓を区別したい。
肺塞栓時に多い、下腿の把握痛と下腿の腫れはない。

伊沢医師はERに残したコードブルーPHSに電話を入れた。
(続く)

脳卒中チームフェラーリ 最終

2018年05月27日 18:26

脳梗塞では発症すると
1分間に190万個の神経細胞が壊れると言われている。

研究によると、1000人に血栓溶解薬t-PAを注射した時に、
15分早ければ自力で歩いて退院する者が8人増える。
院内死亡が4人減る。

注射が1分早いと、患者が健康でいられる時間が1.8日増えると言われている。
だから, 血栓溶解薬t-PAの注射をできるだけ早く行いたい。

ただし、夢の注射血栓溶解薬t-PAも万能ではない。
治療後に自立した日常生活を送れるようになるのは、
治療を受けた患者の20-30%前後だ。

それを補う方法が、
血管内治療「血栓回収療法」だ。
この方法では、
治療後に自立した日常生活を送れるようになるのは、
治療を受けた患者の40-60%に跳ね上がる。
この治療も、治療開始が早ければ早いほど結果が期待できる。

我々が目指すのは、社会復帰!

劇的救命。

脳卒中チームフェラーリ 完

脳卒中チームフェラーリ その7

2018年05月26日 18:24

23時38分女性はCT室から血管造影台に寝かせられた。
女性を台に固定し、
消毒やドレープの処置が藤田医師らにより進められた。
その頃、鈴木脳血管外科部長は造影CTをしっかり見終わり
血管造影室に現れた。
23時50分(病院到着25分)鼠径部の動脈を穿刺して
血管内治療が開始された。

北の地方都市八戸では一人の脳梗塞患者にチームで挑む。
それは、夜でも雪がふっても変わらない。
すさまじいスピードでチームフェラーリが
F1レースのタイヤ交換をするように。
八戸脳卒中チームフェラーリは、
患者の自宅から診療をはじめ、
加速し、根本治療につなげる。
病院到着からt-PA注射まで10分。
血栓回収術開始まで25分。
0時35分、麻痺がすっかり治った女性は
救命救急センターに入院した。
構音障害も回復した女性は
「本当にありがとうございました」と言いいながら、
先ほどまで動かなった手を胸の前で合わせた。
後期研修医たちの着ていた
脳卒中チームフェラーリのスクラブは汗でびしょ濡れだった。
彼らは夕食の馬肉料理は完食できなかったが、
跳ね馬マークが付くスクラブを着る達成感を完食できた。
F1レースでは、1分間に6000m走ると言われている。
F1チームフェラーリは、この1分を節約することで、
他のチームより6000m先をレーシングカーに走らせることができる。
(続く)

脳卒中チームフェラーリ その6

2018年05月25日 18:23

その間に、PTINRが1.0であることが判明する。
ほぼ同じ時刻の23時33分、
森医師のPHSが鳴った。
CT室の藤田医師から「t-PA適応です」と。
ERの森医師は隣にいた看護師に伝える。
「t-PA溶解してください」
看護師は佐々木医師が書いた大きな文字グルトパ28mlのメモを復唱し
薬剤を注射器に詰めた。
そのうち2.8mlだけを別な小さなシリンジに抜き取る。
総量28mlのうち10%を1から2分で静注するのが基本治療法。
残りは点滴投与する。
2.8mlのグルトパが入ったシリンジを持って、
森医師はCT室へ走る。
ER周辺の廊下には、フライトドクターが走ることを想定して
カーブミラーがつけられている。
森医師はカーブミラーに映る右折先の廊下に誰もいないことを目視して
大股で走る。
患者は造影CTが終わるところだった。
23時35分(病院到着10分)森医師は
「グルドパ2.8ml投与します」と言って薬剤の入っているシリンジを
点滴ラインにつなげ、ピストンを押した。
夢の薬剤は女性の右ひじの20G留置針から体に吸い込まれていった。
鈴木脳血管外科部長は造影CTで脳血管の走行と閉塞部位を見極める。
藤田医師と伊沢、清水医師はt-PA投与中に血管造影室へ走った。
心房細動による血栓が中大脳動脈の太い場所で詰まらせていたことは、
造影CTと症状からわかった。
後遺症をなくするには、
t-PA投与に加えて血管内治療で
経皮的脳血栓回収術をする必要がある。
3人の医師は放射線技師と一緒に血管造影室の準備をする。
鈴木脳血管外科部長と森医師、
佐々木医師はCT室に残る。
女性の造影CTが終わり、
CT室のディスプレーには精密な脳血管が映し出された。

森、佐々木医師に加えて、
次のドクターカー出動準備を終えた近藤、小山医師は
女性をCT台からストレッチャーに乗せる。
CT室入室時は救急車のストレッチャーだったが、
今度はERのストレッチャーを使う。
近藤医師は救急隊長に「脳梗塞だったよ。キット間に合う」
救急隊長は満足げにCT室から消えた。
女性はCT室から血管造影室へ移動を始めた。
そのころ、鈴木脳血管外科部長はマウスを回転させて
ディスプレー上で何度もピンク色に染まる脳血管を見る。
そして、一人頷きみんなより2分遅れで血管造影室へ入った。
(続く)