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心尖拍動と心不全 最終

2019年01月25日 18:35

「収容は八戸ERで」私は隊長に話かけた。

患者の意識は酸素開始ともに、落ちるかもしれない。
吸入する酸素濃度を増やすと、血液中の酸素は増えるが
反対に呼吸数が減るので二酸化炭素が増える。
二酸化炭素が増えると意識が低下する。
寝たようになる。
これをナルコーシスと言う。

しかし、心不全で低酸素なら、
酸素は必要量まで投与すべきだ。
低酸素では臓器機能が悪くなる。
すると心臓停止する。
酸素を増やすと、二酸化炭素ナルコーシスになるかもしれない。
そうなったら、気管挿管し人工呼吸器をつなげばいい。

ニトログリセリンスプレーの効果が出る前に、
救急車は八戸ERに着いた。

ERには、放射技師がレントゲンの撮影機械を持ち込んで待機していた。
ERではポータブルレントゲン撮影機械をよく使う。
胸部と骨盤レントゲン撮影は大掛かりな装置でなくても撮影できる。
瞬時に撮れる。
背中に撮影フィルムを入れて、撮影する。
出来上がった胸部レントゲンでは心拡大と左胸水、左無気肺だった。

やはり心不全だったか。

マスクによる人工呼吸治療が始まり、
救命救急センターに入院した。

限られた時間と限られた診療器具、
そして、身体所見。

現場に出る救急医には内科の基本的知識が必要だ。
八戸ではそれを教えている。


心尖拍動と心不全 完

心尖拍動と心不全 その4

2019年01月24日 18:34

下腿を見ると、むくみが強い。
舌は湿っていた。
同時に脈拍を触れる。
橈骨動脈はよく触れた。
脈拍は80回。
酸素飽和度は80%。
私は心不全と右胸水、無気肺を予想した。

ここで、救急隊が到着した。
ルーカスが置いてある現場を見て
「CPAだったんですか」と隊長
「いえ、違います。
CPA想定で現場に入りました。
心不全だと思います」私

患者を救急車へ収容する。
心不全が疑われるなら、
輸液負荷はしないほうがいい。
むしろ、血管拡張薬で、静脈を拡張し、輸液を少なめにする。
わが国の心不全ガイドラインが昨年3月に発表になったばかりだ。

輸液より先にやることがある。
突然発症の心不全なら原因の急性心筋梗塞を考えて。
まず必要なのは、
心電図12誘導検査だ。
直ぐに心電図検査をする。
結果、心筋梗塞に特有なST上昇がなかった。
だが、女性の心筋梗塞では、心電図でST上昇しないことがよくある。
一回の心電図検査で心筋梗塞を否定はできない。

救急車内で血圧測定すると163と高い。
酸素投与しても酸素飽和度は88%だった。
肺エコー検査をする。
すると、心不全によく見えるBラインが5本見えた。
この患者は肺の病気ではない。
やはり心臓疾患だ。
私は、
薬剤バッグから緑色のラベルの血管拡張薬のニトログリセリンスプレーを取り出した。
患者に一回吹き込んだ。
そして、バッグバルブで5回換気した。
(続き)

心尖拍動と心不全 その3

2019年01月23日 18:33

患者は、上体を上げたファーラー位だった。
この姿勢は、
起坐呼吸ともいう。
呼吸不全か循環不全が予想される。
視診で呼吸数、呼吸様式を見る。
呼吸数は早い40回。
現場に心電図モニターはない。
全て目で体を見て判断する。
左胸が上がっていない。
右はよく動く。
呼吸数を時計を見て数える習慣が付けば、
胸郭挙上の異常もすぐに気づくようになる。
さらに腹が膨らんだりへこんだりの複式呼吸だった。
座位なのに頸静脈が腫れている。
座位では普通、頸静脈は腫れていないはず。
静脈の圧が上がる病態、例えば
心不全、肺塞栓、気胸、心タンポナーデ、慢性呼吸不全を疑う。
顔色は白い。
顔色は循環不全と貧血を示す。
循環不全なら手足の色も悪くなる。
貧血なら手のひらの皺が白くなる。

聴診器を当てた。
左肺呼吸音が聞こえない。
右肺呼吸音はいい音。
心臓の音はよく聞こえる。
左胸壁に手のひらを当ててみた。
心尖拍動が触れた。

心尖拍動とは、胸壁に皮膚に当てた手のひらに心臓の鼓動がぴくぴく触れること。
健康な正常人でも痩せていると触れることがある。
心臓拡大した病人では触れることが多い。
胸郭が大きくなり心臓が小さくなる肺気腫では触れない。
目の前で呼吸が苦しがっている患者で、
考えることは、心臓性か呼吸(肺)かの区別である。
心臓なら血管拡張剤、利尿剤。
肺なら、β刺激剤。
治療が正反対だ。
病院ならレントゲンで区別は容易。
しかし、現場で簡単ではない。

目の前で呼吸が苦しがっている患者で、
心尖拍で区別できる。
肺か心臓かを区別することができる。
もしが触れない時は、肺を考える。
触れた時は健康か(心臓でも肺でもないことがある)、心臓か、おそらく肺ではない。

患者には
心尖拍動が触れた。
「肺気腫ではないな。」
(続き)

心尖拍動と心不全 その2

2019年01月22日 18:32

ごめん下さいと言って、
靴を脱いだ。
靴は、あとで患者を持ちあげて玄関を出ることを想定し、
履きやすい場所で、玄関中央を外してそろえておく。
患者の担架が玄関を中央を通過することが多く。
救急隊と医師はその両端に着くことが多い。
だから、靴を左右のどちらかにそろえて置く。
右か左か。
たいてい先着救急隊が玄関に靴を置いているので、
スペースが残っている側に医師の靴を置くことが多い。
だが、最先着となったときは、
私は、靴箱側に置いている。
靴箱でない側はスペースが広いので、
穿頭に位置する救急隊が陣取る。
移動時は医師は救急隊より仕事量が少ないので、
靴を履くのも、最後でいい。
だから、履きやすい場所を救急隊に譲りたい。

玄関を入って最初の左側に患者の寝室があった。
ベッドが置いてある。
そこに女性と家主の男性が立っていた。
ベッドには、患者と思われる女性が寝ていた。
3人とも心停止ではない。
用意したAEDは必要ない。
必ずしも、
寝ている人が患者とは限らない。
だから尋ねる
「患者さんはどなたですか」
男性は、この人ですと指で教えてくれた。
この時点で、
部屋が汚物で汚染されていれば、
靴下にシューズカバーを付ける。

直ぐに診察を開始する。
自分のマスクの位置が鼻にきちんとかけていることを自分で確認する。
顔色が悪い高齢者では常に結核を念頭に入れる。
(続き)

心尖拍動と心不全 その1

2019年01月21日 18:31

高齢者が自宅で反応ない。
119通報が八戸消防に入った。
救急指令課は八戸ドクターカーを出動させる。
ダイレクトコードブルーPHSが私の右胸で鳴った。
「はい、ダイレクトブルー コンです」
「八戸消防です。ドクターカー要請です。
80台女性自宅で意識消失。
呼吸が弱い」

ドクターカーは病院を出て市道を走る。
無線が鳴った。
「消防八戸より八戸ドクターカー1どうぞ、
ドクターカー先着になる予定」
私は、隣に座っている後村後期研修医に言った。
「最先着隊になるよ。
患者住宅の決定、
ごめん下さいと言って入る、
靴を脱ぐか、脱がないでシューズカバーを使うか、
心肺停止か、それ以外か、
酸素を使うか、AEDを使うか、
ルーカスを持ってゆくか、
後続の救急車の駐車スペースはあるか、
そんなことを考えないといけない。」
もし救急隊が先着していれば、
大まかな情報が入るので、
我々の装備は縮小し選択できる。
その前情報がないときは、
装備が大げさになる。
私はドライバーの背中に話しかけた。
「心肺停止想定ではいります。
ルーカスとAEDを持ち込んでください」
現場ではドクターカーの医師二人とドライバーで連携するのだ。

ドクターカーが停車した。
救急車は着いていない。
「後ろの安全よし」私
後方の安全を確認して後ろドアを開ける。
そして、予想した住宅の玄関に向かう。
患者名は消防から聞いている。
後は、表札があれば住宅を確認できる。
ドクターカーが最先着隊で、住宅に表札がなく、
右往左往したこと過去にあった。
また、
まちがいなく患者宅に到着したのはずなのに、
家主から「うちで救急車を呼んでいない」と言われたことがあった。
この時は、二階に寝ていた息子が携帯電話で119通報していたことが後でわかった。
ドクターカーのサイレンを聞いて、
家主が玄関を開けてくれた。
私はほっとした。
これで、家を間違えないで済む。
(続き)