スポンサーサイト

--年--月--日 --:--

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

第1章 こちら救命救急センター 救命救急センターは社会の縮図⑥

2017年07月12日 18:32

【プリベンタブルデス ある救急医の挑戦】

第1章 こちら救命救急センター
救命救急センターは社会の縮図⑥

ある日、二十八歳の男性が五十五階建て高層マンションの四十三階から飛び降りた。普通に 考えれば、即死である。救急隊が現場に駆けつけると、男性の身体は地上三階に張ってあった 防護ネ ット (ステンレス製 ・固定)を 一部破損し、さらに下の鋼入リガラスを破り、指と背部 をアルミフレームに引っかけて止ま っている状態だった。意識はあったが、四肢を動かすことができなかったため、全身を固定して搬送された。男性は骨盤骨折だけで 一命をとりとめた。なぜ、助かったのだろうか。
「通常、ビルの五階から落下した場合、即死あるいは重傷ですが、三階の防護ネットに落ちたときに支えていた鉄柱が折れ、一階部分の強化ガラスが割れた。この一、二、三のショック吸収操作があったから助かったんですね。でも、奇跡としか言いようがありません」
さらに別の日、連鎖するようにまたもや同じビルから飛び降りた男性が搬送されてきたが、 こちらも命に別状はなかった。
「先生、助けてくれてありがとうございます。これからはちゃんと生きていきます」
そういって命を救われた患者たちが退院していく 一方で、自殺未遂の患者の中には、「なんで、 命を助けたんだ。なんで、死なせてくれなかったんだ」と怒る人、重傷を負ったことでますま す生きる気力をなくして嘆き悲しむ人、そして退院後まもなく自殺して、センターに運ばれた ときには絶命していたという人もいる。さすがに、悔しさがこみあげてくるという。
「悔しいですね。せっかく命が助かったのだから、生き抜いてほしい。でも、しょうがないのかなと思います。患者さんの背景にあるものはこちらとしてはどうしてあげることもできないのです」
ホームレスの患者が救命救急センターに搬送されてくることもたびたびある。明秀が青森にいたときにはホームレスを見かけることはほとんどなかったので、川口に来て驚いたという。ホームレスの人たちは基本的に、テントやダンボール、公園のベンチなどをねぐらにしているため、猛暑の夏や厳寒の冬はとてもつらいだろう。風呂に入ることもできないし、着の身着のままどいう人がほとんどだ。身体の調子が悪くても病院にも行けず、当然のことながら健康状態は極めて悪い。
ある日、橋の下に住んでいたホームレスの男性が搬送されてきた。糖尿病の合併症のため目が不自由になり、ガラスを踏んでけがをしても足の状態が把握できず、そのうち歩けなくなってしまった。見るに見かねた友人のホームレスが 一一九番通報してきたのである。
ホームレスが搬送されてくると、まず着ているものを脱がすのがひと苦労。何年も着の身着のまま、風呂にも入っていないのだから、強烈な臭いだけでなく全身がシラミだらけの人もいる。殺虫剤で退治して、脱がせた服にも殺虫剤をまいてビニール袋に入れた後に焼却する。それから風呂に入れる。
患者の左足を診察をすると、骨折していた患部にウジ虫がわき、糖尿病の合併症による壊疸を引き起こしていたため足を切断手術した。それから、明秀は身体障害者と生活保護の申請をした。患者の話を聞けば、明秀と同じ青森の出身だった。
次回に続きます…
スポンサーサイト

第1章 こちら救命救急センター 救命救急センターは社会の縮図⑤

2017年07月11日 18:31

【プリベンタブルデス ある救急医の挑戦】

第1章 こちら救命救急センター
救命救急センターは社会の縮図⑤

これらの話とは関わりはないのだが、私はふと二十年ほど前に骨折で入院したときのことを思い出した。病室には六人の患者がいて、隣のベッドは椎間板ヘルニアを患っていた茶髪の高校生で、病室内で喫煙、飲酒をするなど病院の規則を守らない自由奔放な少女だった。彼氏が 遊びに来て消灯時間になってもなかなか帰らず、看護師が見回りに来るとベッドの下に潜り込み、ようやく、帰るのは十時も過ぎてから。何年も入院している国の達者な老女が少女の態度を注意すると、「うるさいよ」である。ほかの患者たちは見てみぬふりを決め込んでいたようだ が、新参者の私は入院第 一日目からこの少女が格別こわいとも感じなかった。それより突然の 骨折で足が痛かったことと、自分の仕事は誰が引き継ぐのかなど心配事が山積みだ ったのだ。 逆に少女は 「あんた、昨夜、痛い痛いって寝言いってたよ。大丈夫かい?」と心配してくれたり、車椅子を押してくれたり、朝の洗顔のときにも手伝ってくれた。「煙草を吸うのなら、喫煙室で吸ったら?」と私がいうと「はいはい、わかりました」などといたって素直な少女だったのである。私は同室の人に「あの子とは親しくならないほうがいいよ。あとが怖いから」と忠告されたこともあったが、聞き流していた。
私が入院して十日後、少女に強制退院命令が下った。「え、なぜ?」という感じだった。ちょ うど同室の患者に対する少女の態度が少しずつ柔らかくなり、普通の会話も交わすようになってきていただけに強制退院とは厳しいと思った。少女が母親に付き添われて退院するという日、「あんたが退院したら、連絡してもいい?」と聞いてきたので、私は 「待っているね」と答え、互いの連絡先を教えあった。しかし、退院し ても少女からの連絡はなかったし、彼女から渡されたメモの電話番号に電話してもいつも留守だった。どこかで元気にしてくれていればいいと願った。遠い日の入院生活の思い出である。
自殺者数は年々増加する 一方である。二〇〇五年六月に発表された警察統計資料によると、 二〇〇四年の自殺者は三万三三二五人で、前年の三万四四二七人から二〇〇〇人以上も減少し たとはいえ、七年連続三万人を超えたことになった。職業別では、全体の半数以上が無職、年 齢別では全体の約四〇%が五十歳以上で、男性の自殺者が全体の約七〇%を占めている。白殺 の直接の原因としては、健康問題や経済 ・生活問題、人間関係のトラブルなどが挙げられるが、 最近の自殺者の急増はやはり社会経済的な要因が非常に強いという傾向にあり、完全失業率の上昇が自殺者数の上昇に比例している。また、自殺を引き起こす要因のひとつにうつ病がある。 うつ病とは簡単にいえば、生きる意欲がなくなってしまう病気で、睡眠障害や食欲不振、集中力がなくなり、人に会うのが億劫になり、興味を持っていたことにさえ目を向けなくなる、などの症状が表れてきて、死へと向かう気持ちが強くなっていく。うつ病の原因は失業 ・受験の 失敗、失恋などの挫折、過重労働によるストレスなどさまざまだ。また、最近は集団自殺、特にネット自殺というのが頻発している。そして、日本は欧米先進国と比較すると世界 一の自殺率になっている。
次回に続きます…

第1章 こちら救命救急センター 救命救急センターは社会の縮図④

2017年07月10日 18:29

【プリベンタブルデス ある救急医の挑戦】

第1章 こちら救命救急センター
救命救急センターは社会の縮図④

もう 一つ、暴力団がらみのエピソードがある。
ある夜、暴力団の組員同士の喧嘩で、兄貴分が弟分の胸を刺すという事件が起きた。救命救急センターに運ばれてきた患者が胸に負った傷回は大きく、血がビュービュー吹き出している 状態で、その傷口を上血しようと手で押さえていた救急隊員の全身が血に染まり、処置室もみるみるうちに血の海となった。
明秀と土佐医師とで救急処置をして手術室 へ移動。病院のまわりには黒塗りの外車が何台も 止まっている。暴力団の傷害事件ということで、手術は警察官が警備する厳戒体制のもとで行われた。しかし、患者は大量の輸血をしても追いつかないほどの出血多量で死亡。血液センターの血がなくなるぐらいの出血だった。 待機していた暴力団組員たちは仲間が死亡したと聞かされて、
「なんでえ、だらしのねえやつだ。一発刺されたぐらいで死ぬんじゃねえ」などと言い合いながら帰っていった。物々しい空気に包まれていた深夜の院内に静けさが戻り、スタッフたちはほっと肩をなでお
ろすのだった。
それから 一週間後、今度は小指を噛みきったという暴力団組員がちぎれた指を大事そうに持ち、警察官に付き添われて救命救急センターにやつてきた。明秀が警察官に事情を聞くと、留置されていたその組員は警察官の前で小指を噛みきったという。さらに聞けば、組員は最初にわざと小指を噛んで出血したので、警察官が近くの病院に連れていった。そこで麻酔をして何針か縫って処置されるのだが、なんと組員はその治療した ばかりの小指を噛みきって本格的な指つめに成功したという。麻酔が効いているため痛みは感じなかった。
明秀はその組員の小指の処置をしてから、警察官に尋ねた。
「ところで、この人は何をしたんですか?」
「殺人ですよ。今先生も知っているでしょう。ほら、先週、組員が胸を刺されてここに運ばれてきたでしょう。手術したけれど、出血多量で死亡した組員。この男がやったんですよ」
「えー!びっくりだなあ。ずいぶんと救急の仕事をしているけれど、殺された人間とそれを殺した人間の手術をしたのなんて初めてですよ」
同じ組員を殺したということで、出所すれば組の厳しい懲罰が待 っている。それが怖くて痛くない方法を考えついて自分で指をつめたのだ。事実は小説より奇なりとはこのことである。
次回に続きます…

第1章 こちら救命救急センター 救命救急センターは社会の縮図③

2017年07月09日 18:28

【プリベンタブルデス ある救急医の挑戦】

第1章 こちら救命救急センター
救命救急センターは社会の縮図③

その筋の乱暴者が搬送されてくると、医師も看護師もつい身構える。入院となると、同室の 患者たちは戦々恐々で、当たらずさわらずの態度を決め込むしかない。
ある日、暴力団組員が駐車中の白い車を盗んで走らせた。東京の荒川大橋を越えたところで、後部座席で寝ていた男性が異変に気づき、車内で取っ組み合いとなった。実はその男性、車の持ち主で、いっしょにゴルフに行く友人を迎えにいったが、早く着きすぎてしまい後部座席で 寝ていたのだ。
持ち主はなんとか車を止めさせようとし、二人は前と後ろで激しく争 っているうちに、車は荒川大橋の欄干に衝突したのである。車の持ち主は軽傷ですみ、暴力団組員は足の骨折で入院した。ところが、この患者は医師や看護師の言うことなどまったく聞かず、同室の人にも迷惑をかけた。車椅子で病院を自由に歩き回って所かまわず煙草を吸い、売店の係員に因縁をつけた揚げ句にガラス戸を蹴って割るな
どの傍若無人ぶりだった。 乱暴な患者の骨折した足の回復は徐々に進み、リハビリテーションという段になって、センターでは彼の入院態度が悪いこともあり、ほかの患者にも迷惑がかかるというので 「ハビリは自宅近くの病院でするように」と勧めた。本人はしぶしぶ了解した。ところが、この患者の 親分というのが病院に乗り込んできて、
「おい 、なんでうちの舎弟を退院させるのだ? まだギブスもとれ ていないし、車椅子だし、これで生活ができると思っているのか。追いだすつもりか」
「追いだすわけではないのです。足はよくなってきていますから」
整形外科医が対応するが、相手を成嚇するような親分の態度にひるな、明秀に助けを求めてきた。明秀も少しこわいと思ったが、ここは親分と渡り合うチャンスとばかりに、
「患者さんに言いましたとおり、あとはリハビリです」
「リハビリ? やっぱり、追いだす魂胆じゃないか。 おい、うちの舎弟の足はどのくらい治っているのか、ちゃんと説明しろ」
「骨折しているほうの足で売店のガラス戸を蹴って割りました。そのくらい骨はくっついていますので安心してください」
「え?」
血相を変える親分に明秀は落ち着き払って、
「ところで売店の壊れたガラスはどうやって弁償してもらえるのでしょうか。それともこちらは泣き寝入りですか?」
「うう、こいつに払わせる」そう言うなり親分は舎弟に向かって、
「おい、おまえはなんでガラス戸を蹴ったんだ。この先生の言うとおりに蹴ったのか?」
「い、いえ、そんなことありません」
おろおろするばかりの舎弟。勢いこんで病院にやってきたはずの親分は目の前の医師に威風堂々と切り替えされたので、怒りの矛先は舎弟に向かい、その頭を撲ったり、足を蹴ったりしてから連れ帰った。帰り際、親分は医師たちにあやまったが、明秀はきっぱりこう言った。
「患者さんにあやまってもらいたいですね」
それから一週間後のことである。病院のコインロッカーから拳銃が見つかったが、入院していた舎弟と関係があったかどうかはわかっていない。
次回に続きます…

第1章 こちら救命救急センター 救命救急センターは社会の縮図②

2017年07月08日 18:24

【プリベンタブルデス ある救急医の挑戦】

第1章 こちら救命救急センター
救命救急センターは社会の縮図②

重症患者の輸血拒否が教えてくれるものがある。郵便配達のアルバイトをしている十九歳の 男性がバイク走行中に乗用車と接触して転倒し、左側腹部に受傷。超音波検査の画像に腹腔内出血が認められ、緊急に牌臓止血手術の必要があった。ところが患者本人と母親がエホバの証 人の信者だった。このキリスト教の教派では、〈血の教え〉なるものに従い、輸血ならびに血液 製剤による医学治療を避けているため、輸血拒否を主張したのである。
「輸血をしないでくれ」
患者と母親が輸血を拒否する 一方、未信者の父親は、「死んだら困るから、輸血をしてくれ」息子を説得しにかかるが、頑としてきかない。輸血をするか否かを巡ってもめたので、明秀はスタッフと緊急会議を開いた。輸血拒否の患者に輸血をすれば、たとえ命が助かったとして も裁判で訴えられる可能性がある。また、患者が希望するように輸血しないで手術して患者が 死亡する場合も考えられる、そして最悪なのは輸血して患者が死亡することだった。むずかしい選択だが、最初から結論ははっきりしており、それが最善の決断ということになる。
「よし、輸血しないで患者を助けょう」
果たして、無輸血の手術が行われた。すでに腹腔内出血をしていて、さらに開腹手術による 出血も予想されるので、当然、出血しないような手術ということになる。輸血なしでどこまで 我慢できるかが問題。手術後は急速に血流を増すために、点滴と流動食で高栄養素を与えた。 栄養を摂取すれば、血液は増えるというのだ。術後、患者は元気になって二週間後に退院した。
エホバの証人たちは 「輸血によつて純潔さが失われ、汚れた人間になつてしまつては生きて はいけない」という。この考え方は、ある面で納得できるというのも、いまでこそ肝炎やエイ ズは輸血によって感染することがわかつているが、少し前まではわからなかったのである。B 型肝炎だけチ エックしていた血液でC型肝炎にな ってしまうケースも出てきたからだ。しかも、B型肝炎になったばかりの患者が献血すると、すぐには反応がでないが、すでにB型肝炎のウイルスは血液中にあって、反応がない血液を輸血してしまうと、明らかに発病する。
二十年近く前のエイズ検査もそうだつた。エイズになったかもしれないと思った人たちが保健所に行って検査や献血をした。当時、献血をすると無料でエイズの検査をしてくれるという のがあ ったが、実際はかなり早い段階で検査に来るから反応がでてこない。しかし、血液は感染している場合がある。自分がエイズかどうかを調べる目的で献血をした人は大勢いたが、それがまずかったのだ。
いまに至って、二日から輸血を拒否していたエホバの証人たちの言い分が認められたりもする。しかも、数年前までは輸血のガイドラインの存在すら知らない医者がいた。つまり、大学では 習っていないという事実があったのだ。昔の医師たちは誰も何も教えてくれなかつた。そしてたいした出血でもない患者に平気で輸血してしまうから、いろいろな弊害が起きたのだ。肝炎やエイズは輸血によつて感染したことから、輸血しないで手術する方法が研究されたのである。
次回に続きます…



上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。