理想の医師に近づく光

2017年02月28日 18:43


八戸救命卒業生の
木川 英医師の文章が雑誌に載りました。
転載します。
木川英めからうろこ

「理想の医師に近づく光」
川越救急クリニック 副院長 木川 英
Doctors magazin2017年3月号

かつて自分が患者だった頃、
技術を持った心温かい、
優しい医師にかかりたいと思うもかなわず、
それだったら自分がそうなるしかないと夢見ていた少年時代。
その後、医師になって駆け出しの時期、
3日に1回の当直や休日出勤するたびに、
他の人が休んでいる時に何でこんな苦労してまで働いているのだろうか。
自分が心から望んでなれた職業はこんなにつらいものなのか。
などと、弱音を吐くことも多く、
自分を見失っていた時に、
「生きることの最大の障害は期待を持つということであるが、
それは明日に依存して 今日を失うことである」(セネカ)
という古代ローマの偉人の言葉に救われた。
今を懸命に生きることが明日につながることを信じて、
日々を生きてきた。
そして自分の医師という職業に対する熱意を回顧して、
医療の原点である救急の分野に進む決意をした。

現在は、破天荒な夜間救急専門クリニックで診療をしているが、
救急医療の原点を教えてくれたのはかつてこのコラムで
「太平洋漂流溺水心停止」をPCPSで劇的救命した今明秀先生である
(このコラムにちらっと私が登場していた) 。
今でこそ、
八戸救急は一つのブランドになっているが、
最初からそうだったわけではない。
院内、行政、さまざまな壁にぶつかりながら、
その都度突破して、
夢を実現してきたのを目の当たりにしてきた。
一次から三次まで全ての救急患者を診察し、
さまざまな夢を持つ仲間たちと過ごした日々は、
本当に「劇的」な筋書きのないドラマだった。
北国青森県で経験した全ての出来事は今の私の血となり肉となっており、
そのスキルを発揮するためにここにいる。

しかし、この数年ですっかり医療業界の人間になっており、
変な自信が付いてしまい、
体中にウロコが付いてしまったことを自覚していなかった。

その北国で非医療者である妻と結婚し、
子供にも恵まれた。
勤務時間が不規則な上、
帰宅すると睡眠に陥ってしまうので、
会話の中で仕事の愚痴っぽいことを言う機会は少ないのだが、
そのような中で医療者としては常識でも、
一般的には常識でないことがある。

木川「いやー、真夜中にちょっとした発熱くらいで救急車を呼ぶかねー。
そのまま寝かせていればいいのに」
妻「あなたが医者だから、この子は病院に行かずに済んでいるけど、
普通の人なら心配に思うでしょ」
木川「ノドの辺りから変な音がして苦しそうって連れてきたんだけど、
あれは明らかにしゃっくりだから、
わざわざ病院に来る必要はないんじゃなかったかなー」
妻「あなたはしゃっくりってすぐに分かるかも知れないけど、
普通は呼吸がおかしいと思うでしょ」
木川「アナフィラキシーならもちろん緊急事態だけど、
はちにちょこっと刺されたくらいで病院に来るのかなあ。
痛みがひどいとかかゆいならまだ分かるけど」
妻「はちに刺されたら、病院に行くでしょ。
何が起きるか分からないもん」
子「おなかいたい」
木川「どれどれ、パパが診てあげるよ」
圧痛なし、その他の所見も異常なし。
その後、普通に走り回っている。
木川「本当に痛いのかなあ。メンタル的なものか」
妻「あなたはいやなことがあって、
お腹が痛くなったことがないんでしょうけど、
本当に痛いんだよ!適当なこと言わないで!」

かつて自分が一番嫌いだった
なりたくなかったような医師になってしまい、
それに気付かぬままここまで来てしまった。
しかし、そんな自分に対して厳しくも適切なコメントをくれた家族に救われた。
もし妻が医療者であったら、
私の文句に同意してしまっていたかもしれない。
患者さん一人ひとりと真剣に向き合って、
患者さんに優しくありたいという医師を目指した原点を教えてくれた
妻と子の言葉や態度で目からウロコが落ちたのである。

気胸 最終

2017年02月21日 18:00

致死的胸痛の原因はほかにもある。
特発性食道破裂だ。
飲酒後の、嘔吐が誘因となるのが、特発性食道破裂だ。
男性は、嘔吐していないので、
食道破裂ではない。
特発性食道破裂の診断は胸痛発症前の嘔吐のあるなしで決める。

致死的胸痛の肺塞栓は、すべての致死的胸痛が否定されたときに、
まず考える。
なりやすい人は決まっている。
ガン、
下肢、骨盤の大けがの数日後、
安静や臥床することが多いとき、
下肢からの持続輸液、
経口避妊薬。
この男性にはどれもあてはまらない。

肺塞栓になる前には、
多くの患者は、下肢に血栓ができる。
鼠経の静脈のエコー検査をしたが、
鼠径部の静脈に血栓はない。

肺塞栓の原因となる下肢静脈の血栓で下腿に痛みが出る。
下腿を握ったが痛みはなかった。

ということは、
ここまでで
致死的胸痛はない。
胸痛の原因は気胸だ。
しかし、CTで大動脈解離がないことを見る必要がある。
致死的ではないが、
進行する気胸なので、
すぐに胸腔ドレーンを入れた。

CTで大動脈解離はなし。

男性は、胸腔ドレーンを入れて、呼吸器外科に入院となった。
最初は、胸腔ドレーンをからの血液はわずかに出ていた。
ところが
入院後数時間で、胸腔ドレーンからの血液流出が増えた。
自然気胸では時々ある。
出血することが。
1Lを超えた。
止血手術が必要となる。

男性は夕方前に手術室へ移動した。


気胸 完


気胸 その2

2017年02月20日 18:59

屋根から墜落 その2
上空では、酸素飽和度が落ちた。94%に。
高度を上げると酸素飽和度下がった。
健康な人間でも、
高度を上げると酸素が血液に溶ける量が減る。
酸素飽和度げ減ることで気づく。
三浦雄一郎氏がエベレスト登頂に成功したときに、
酸素吸入をしていた。
高度が高いと酸素飽和度が減るからだ。
三浦雄一郎氏は青森高校卒業生。
数年前、日本航空医療学会で特別講演をしたことがある。

はちのへERには、
循環器の医師が集まってきた。

胸痛の場合に、
5つの致死的胸痛をまず考える。
1心筋梗塞
2大動脈解離
3肺塞栓
4緊張性気胸
5特発性食道破裂

私が連れてきた男性に対して、
心電図検査と心エコーが行われた。
決定的な異常な所見はない。
心筋梗塞の可能性は残るが、
2回目の心電図結果まで保留する。
2度目以降の心電図で心筋梗塞の所見が出てくるのが、
11%ある。
それらは一度目の心電図は正常だったという。

であれば次に移る。
血圧はいいし、
胸部、頸部に皮下気腫はない。
頚静脈は腫れていない。
これらは緊張性気胸の所見だ。
緊張性気胸は、
外傷と、人工呼吸中に起こりやすい。
ケガでなく、身体所見も特徴的なものがなければ、
緊張性気胸はないと判断した。

小さな気胸があるかどうかは胸部レントゲンで見ればいい。

次は胸部レントゲン。
上縦郭が拡大する大動脈解離を考えるからだ。
両腕の血圧に左右差(15以上差、20以上という本もある)あると決まりだが、
ないからと言って否定はできない。
背部痛が激烈で、移動すればさらに大動脈解離らしい。
この3つともあれば、100%大動脈解離だ。
しかし、大動脈解離の中に
3項目の一つも当てはまらないものが、7%ある。
やはり侮れない。
この患者の痛みは大動脈痛とは違う。
おそらく大動脈解離ではないが、
確認するためにCT検査が必要だ。
7%の見逃しをふせぐためにCTを検査をする。

胸部レントゲンでは、
気胸が見つかった。
胸痛の原因だ。
小さな気胸だ。


大動脈解離を疑ったらCT検査だ。
CT検査を行うことになった。
ついでに、気胸の大きさもわかる。
ほかの、致死的胸痛(肺塞栓、特発性食道破裂)もわかる。
(続く)

気胸 その1

2017年02月19日 18:57

低気圧と低気圧の間の
晴れの日だった。
昨日までの冬型気圧配置で、
北国は豪雪となっていた。
今日は晴れ。
しかし、気温は低い。
機長は朝のブリーフィングで
「寒気団が上空にあります。
気温が下がります。
充分な防寒対策をとってください。
離着陸時は、
氷で機体が回転する事があります。
注意が必要です」
機体の重みで通常はヘリコプターは着地していると、
地面が氷でも、びくともしない。
しかし、天井のメインローターが回り、
機体が浮き気味になると、
さらに、メインローターの回転の力が加わると、
それまでどっしり氷についていたスキッド(ヘリコプターの二本の足)の、
摩擦係数が減り、
滑りだす。


午前中の要請は、
胸痛男性。
今日のヘリ番は私と佐々木研修医。
ランデブーポイントの下田公園には、5分で到達した。
着陸して、救急車の到着を待った。

数分後に救急車は胸痛男性を乗せてランデブーポイントにやってきた。

救急車内で診察を始めた。
冷や汗はない。
脈拍はよく触れる。
呼吸は早い。
意識はよい。
血圧、心拍数はよし。
血圧左右差はない。
酸素飽和度が、酸素投与にも関わらず95%で低かった。
呼吸音異常はない。
胸痛は4時間続いている。
心電図12誘導は問題ない。
胸痛は、呼吸で増減するという。
痛いところを手で示してもらった。
すると、右手の示指と中指で、指して教えてくれた。
「痛みは呼吸の強さで変わりますか?」
「変わります。大きく吸うと痛い」
指先で示す胸痛に重症は少ないとは言う。
ての平や握りこぶしで示す胸痛は重症という。
しかし、指先で示す胸痛にも重症が
3%存在するという。
100人心筋梗塞がいたら
3人は指先で痛いところを示す。
呼吸で痛みが変動する心筋梗塞も2%くらいる。
見逃してはいけない胸痛を知っていれば、
現場での診察は確率から最大に可能清のある病気を考えて行動する。
今回は頻度から言って、
心筋梗塞ではなく、
呼吸に関した胸痛の可能性が高い。


「胸痛は、肺が原因だ」私は強く思った。
だが、肺エコーをしたが、異常所見は見つけられなかった。
気胸を見つけるエコー検査だ。
酸素投与継続で、ヘリコプターに収容した。
(続く)

屋根から墜落

2017年02月18日 18:53

男性は、屋根に上り作業をしていた。
家族は危ないのでやめろと、
注意をしたが、
頑固な男性は聞く耳を持たない。

作業中に足を滑らす。
ヘルメットはかぶっていなかった。

119通報は三沢消防に入った。
救急車が出動する。
八戸ドクターヘリに出動要請が入った。
ヘリ番は木村医師。

木村医師が患者に接触したのは
救急車の中だった。
男性は骨盤を痛がっていた。
三沢救急隊は、
墜落外傷による骨盤骨折を考えて、
骨盤固定帯サムスリングを使用していた。
聴診器で聞いた呼吸音は左で弱い。
気胸はある。
だが緊急度の高いの緊張性気胸ではない。
血圧は安定していた。
輸液路をとって、麻薬を入れた。
患者の痛みはすこし遠のいた。

木村医師は患者をドクターヘリに収容した。
止血剤のトランサミンを注射する。
向かうは八戸ER.

ドクターヘリは8分で八戸市立市民病院救命救急センターに到着した。
まずERに患者は入った。
骨盤と胸部のレントゲンを撮影した。
骨盤骨折がある。
気胸がある。
胸腔ドレーンを近藤医師が入れた。
気胸の治療だ。
緊張気胸と言って、
血圧低下と低酸素状態の気胸では
現場で胸腔ドレーンを入れる。
そうしないと心臓停止するかもしれない。
しかし、そうでない気胸は、
ERまで運んで胸腔ドレーンを入れることが多い。
現場で入れる胸腔ドレーンは、
感染する危険が高いからだ。
ただし、ヘリコプターで上空の気圧の低い場所を飛ぶと、
軽症気胸も、
低気圧のせいで大きな気胸になる危険もある。
だから、気胸に対しては、
いつでも胸腔ドレーンを入れられるように、ヘリコプター内で観察する。
現場ではレントゲンを撮れないので、
現場では身体所見と症状、経皮酸素飽和度から気胸を診断する。
最近では、それに加えて
肺エコーも普及してきた。

骨盤骨折については
現場救急隊の観察は当たっていた。
骨盤骨折も、現場で
レントゲンは撮れない。
現場では身体所見と症状、受傷機転から骨盤骨折を診断する。
骨盤骨折身体所見とは、
下肢の長さが左右で違う。
骨盤、会陰に血種、
骨盤に圧痛、
大腿の内旋、外旋の変形など。

患者はCT室へ移動した。

胸椎9番目と腰椎1番目が折れていた。
さらに大動脈にも亀裂がある。
骨盤骨折もある。

血圧が安定、貧血なし。

患者は救命救急センターに入院した。

(完)

・・・・・・
明日は、気胸に患者です