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トラクターに轢かれて股関節脱臼 その8

2019年04月18日 18:12

気道よし、呼吸改善、循環は骨盤骨折はあると思うが今は安定、意識は一桁。体温は下がっていない。
田中医師はERに電話を入れた。
私は、隊長に
「ヘリコプターへ収容お願いします」
外側から開けられたハッチドアの周りには、
ポンプ隊が待機していた。
バックボードの頭側には秋元隊長が、つく。
ストレッチャーが通常位置より右側にスライドさせていたので、
我々が立っている右側は幅20cmしかなかった。
私の膝にストレッチャーの縁がこすれながら、
ストレッチャーが車外へ引っ張り出された。
「秋元隊長、胸腔ドレーンを入れてからの酸素飽和度はどうでしょうか」私
「98%です。改善しています」
「これなら、ヘリコプターで高度を上げても大丈夫だ」私

患者をヘリコプターに収容する。
ナースはいち早くヘリコプターに乗り、
患者ストレッチャー後部を押す整備長と連携して
患者をヘリコプターに収容する。
収容が終わった後に、
私は救急隊長に近づく。
家族と電話で連絡をとれていること、
家族が自家用車で八戸ERへ向うこと。
患者家族から救急隊が電話で聞き出した
グンバすなわち、
原因、訴え、飯、病歴、アレルギーを聞き出す。
頭文字をとってGUMBAと呼ぶ。
意識障害があって本人から聞き出せないことを家族から聞くのだが、
ドクターヘリの現場活動15分間では、
たいてい聞き出せない。
救急隊はそれをわきまえていて、
現場離陸前に教えてくれる。
緊急処置をしている間は救急隊から聞き出す余裕がこちら側にない。
現場離陸前のシンガリの需要な役目だ。
「クロピドグレルと言う血液サラサラ薬を飲んでいます」隊長は教えてくれた。
クロピドグレルを飲んでいると、出血が止まりにくい。
シンガリのもう一つの役割、
忘れ物チェック。
以前、超音波装置を救急車内に忘れたことがあった。
忘れ物がないことを確認するため、救急車内を見る。
大きなものだと気づく。
この日は、忘れ物がないと思った。
(続く)

トラクターに轢かれて股関節脱臼 その7

2019年04月17日 18:43

白い滅菌紙シーツをかぶせる。
白い紙なので胸壁に塗った茶色のイソジンが透けて見えた。
どこまで消毒済みがよくわかる。
左乳頭が透けて見えた。
乳頭の高さが胸腔ドレーンを安全に入れる高さだ。
これより尾側では、横隔膜、肝臓、脾臓を傷つける。
白い紙シーツの乳頭部分を指で切り抜いた。
そして、目的肋間に左指を置く。
右手で持った10ml入りの局所麻酔注射器をその尾側肋骨に真上の皮膚に一気に入れる麻酔薬で皮膚は盛り上がる。
続いいて、肋骨の上縁を針で滑らせ、
手の感触で肋間筋と胸膜の高さに注射針を止める。
そこで残りの麻酔薬を全部入れる。
胸膜に入れた麻酔薬は皮膚からは変化は見えない。
肋骨の直上で麻酔薬で盛り上がっているところに、
田中医師は11番メスを入れた。
2cmの長さ。
深さは肋骨に達するくらい。
曲がりペアン鉗子に持ち換えて、
先ほど麻酔した胸膜方向に鉗子の先を閉じて突き刺す。
肋間筋、胸膜の抵抗を鉗子の先に感じる。
そして、急に抵抗がなくなればそこは胸腔だ。
麻酔が効いているので痛がらない。
今度はゆっくりと鉗子の先を開く。
肋間筋、胸膜の穴がゆっくりと広がる。
同時に、鉗子の先の間から空気と血液は吹き出す。
吹き出す空気は呼吸のリズムで噴き出す。
陽圧で苦しんだ左胸腔だが、
できればさらに陰圧にしたい。
そのためには、胸腔バッグやハイムリッヒバルブが必要だ。
胸腔ドレーンの皮膚固定はERでは縫合する。
現場では3M粘着ドレープを使う。
皮膚、チューブを一括して固定する。
手術用滅菌手袋を一枚用意した。
それの手首の部分とチューブをくっつける。
絆創膏でまけばいいだけ。
手袋の中指の部分の指先を1cmハサミで切り落とす。
これで一方向弁、ハイムリッヒバルブが完成する。
吸気で出てくる空気が手袋を膨らませる。
膨らんだ手袋の空気は中指先の切開部より外に出る。

ハイムリッヒバルブは英語名フラッターバルブ、ハイムリックバルブ。
米国の胸部外科医ハイムリックが考案したもの。
第二次世界大戦で、気胸の管理が戦地でできなくて死亡する兵士が多かった。
戦地でも使えるコンパクトな気胸治療の道具を考案しベトナム戦争で大いに役立った。
気道異物による窒息に対する胸部突き上げ法のハイムリック法も同じ医師の考案だ。
(続く)

トラクターに轢かれて股関節脱臼 その6

2019年04月16日 18:41

胸部の触診(指で首や、肋骨を触る視察)で、
左胸部に皮下気腫を触れた。
皮下気腫とは、肺から漏れた空気が本来真空に近い胸腔にたまり、
胸腔からさらにその外側の肋間筋肉(焼肉のカルビ)を超え皮下脂肪に空気がたまること。
このことは、肺に穴が開いている気胸を意味する。
漏れる空気が多いことを意味する。
ときに、緊張性気胸と言う血圧低下を伴う気胸に発展することがある。

打診(胸壁を指先で優しく叩き、太鼓の音の響きで胸腔の中を推測する。
叩いても響きは左右差なかった。

呼吸数と、経皮酸素飽和度を見る。
呼吸数は32回。
経皮酸素飽和度は酸素投与で92%だ。

そしてエコー検査だ。
私が、丁寧に胸部を見ている間に、田中医師が超音波を扱った。
最初に心臓破裂からの心嚢出血を見る。
つぎは腹腔内出血を。
両方なかった。
そして、超音波装置を3.5MHz内蔵用から7.5MHz皮下組織用に変えて、
肺を見る。
肺と胸壁の間を見るのだ。
右は異状ない。
左はスライディングサイン消失し、気胸が見えた。

「橋本さん、やはり左気胸だ。予定通り胸腔ドレーンを入れるよ。
隊長、気胸の観察よくやった。
これから左ドレーンを入れるので、
救急車ストレッチャーの位置を中央近くまで動かしてちょうだい。
それから、左腕を頭側に引っ張ってください」
2B型救急車は横幅が狭い。
患者の左側は壁に接する。
わずか15cmくらいだが、ストレッチャーを右方向に横スライドさせることができる。
隊長が座る頭側にそのレバーがある。
胸腔ドレーンは清潔操作が必要だ。
簡単な手術ではあるが、
できるだけ清潔な環境を作って行う。
左腕を頭側に軽く引っ張るのは、
肋間を開いてチューブを入れやすくすること。
皮下トンネルを長く取れることだ。
茶色のイソジンとスワブで胸壁をこする。
スワブとは綿棒のこと。
指先の大きさ滅菌綿棒を使う。
(続く)

トラクターに轢かれて股関節脱臼 その5

2019年04月15日 18:39

ドクターヘリが着陸した4分後、
救急車が到着した。
整備長が救急車を誘導する。
田中医師は左側面ドアから車内に入った。
私とナースは後ろハッチドアから入る。
第一印象を見る。
声をかけると、開眼し、返事をした。
意識と気道はよい。
胸壁の動きを見る。
左が上がらない。胸壁の異常な呼吸運動を奇異呼吸という。
右はよく上がるが左がおかしい。
呼吸数は早い。
早いとは、2秒に一回くらい。
つまり1分間に30回以上のこと。
循環は橈骨動脈が触知できた。
冷汗はない。
第一印象は頻呼吸と奇異呼吸でB呼吸が異常だ。
重症だ。
患者の訴えは腰の痛みだ。
外傷診療で失敗する理由は
「訴えに気を取られる」
腰が痛いことは骨盤骨折を意味するが、
重症な胸部外傷を目隠ししてしまう。
訴えとは別に、
身体所見とバイタルサインで本当に重症な外傷を見抜かないといけない。
切られているシャツから丸見えの胸壁をもう一度観察する。
同時に、秋元隊長の意見を聞く。
「左呼吸音減弱です」隊長

胸部の視診(目で見て診察)で、左胸郭の上がりが悪い。
右は早く呼吸数28回。
陥没呼吸はない。

胸部の聴診(聴診器を使う診察)で、肺から聞こえる呼吸の音が左で弱い。
呼吸の左右差を聞き取るには、前胸部ではなく、
腋窩で聴診器で聞く。
わずかな左右差も見抜ける。
(続く)

トラクターに轢かれて股関節脱臼 その4

2019年04月12日 18:24

2回目の左旋回に入ると、
白車が動き始めた。
患者収容と車内観察がおわり、
ランデブーポイントの三本木高校グラウンドへ向かう。
2回目の旋回では、トラクターの変形を見る。
周囲の土の盛り上がりを見る。
いづれもなかった。
おそらく、静かに轢過されたのだろう。
車両の重みとタイヤの轢過だけなら、
エネルギーは少ないはず。
走るトラクターに轢過されたのとは違う。
機長は、
「周囲に着陸できそうな場所がありません。
もしあれば、医師ナースのみ降ろして、ヘリはグラウンド待機と考えましたが、
それは不可能です。
このまま、高校グラウンドへ向かいます」
「了解」私

「十和田救急1より八戸ドクターヘリ11どうぞ。
患者情報です。
血圧120、脈拍110、呼吸数28、意識二けた、SpO2 ルームで、酸素10Lで92%、呼吸音左右あり、骨盤を痛がります。バックボード固定、骨盤サムスリング固定しています。」
「胸部外傷と骨盤外傷ですね。
骨盤固定サムスリングはそのまま使用して下さい。
胸部ドレーンを入れることにン備えてシャツを切っておいてください」私

機長
「あと2分でランデブーポイントへ着陸です。」

「橋本さん、32フレンチ胸腔ドレーンとイソジン、ドレープの用意ね。
意識がいいなら、局所麻酔するよ」
橋本
「はい」

EC135は野球場の緑の芝に着陸した。
県立三本木高校は、救急後期研修医の山端医師、フライトナースの沼宮内、和島の母校。
以前重症熱中症がこのグラウンドで発生し救命したこともある。
校長先生はドクターヘリのよき理解者だ。
野球場の内野の芝にドクターヘリが着陸する。
そして、救急車が芝に乗り入れる。
こんなことを許可してくれる。
(続く)