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ドクターヘリ開胸手術 現場編(その10)

2019年11月11日 18:35

患者の腰の位置に橋本ナース、
胸の高さに私は位置した。
第一印象を取る。
顔色不良、呼吸浅く早い。
胸の上がりは、左が大きく陥没呼吸(奇異呼吸)で、右の上がりも十分ではない。
呼びかけに反応しない。閉眼している。
手首の脈拍は弱く早い。冷たい。
BCD,呼吸循環意識がおかしい。
つまり重症だ。
救急車のモニターをみると、血圧60の表示がある。
脈拍数は140回。
ショックだ。
出血性ショックだ。
重症だ。
続けて詳細なABCD評価を始めた。
痛み刺激で声は出た。
ただし、言葉にならなない。
気道は開通しているが、この先ショックが進むと、
舌根沈下するだろう。
さらに意識障害が進むと窒息するだろう。
後で気管挿管が必要になるだろう。
酸素投与を継続し、私はBの観察をする。
呼吸音を聴診器で聴いた。
左は弱い。
右も弱い。
聴診し終わって私は救急隊長に告げた。
「車を出発させてもいいですよ。収容はランデブーポイントのドクターヘリです。」
サイレンを鳴らしながら救急車は奥入瀬渓流を下った。
救急車内での診察で走行しながら不可能なのは聴診だけ。
後はほとんどできる。ピーポーサイレンを鳴らし、
十和田湖救急1は奥入瀬渓流を下った。
Bの観察の続きだ。
胸郭の挙上の左右差を見る。
左が弱い。
右の弱いがまだまし。
左が奇異呼吸で、吸気に乳房周辺の肋骨が陥没する。
右も陥没呼吸だ。
肋骨が片方で連続して3本以上骨折し、しかも1本で2か所の骨折があるときに、
吸気で胸が上がるのではなく、
逆にへこむ。
これを奇異呼吸という。
この病態をフレイルチェストと呼ぶ。
多発肋骨骨折が起こっているときは、
その裏にある肺が大けがしている。
肺挫傷になっていることが多い。
肺挫傷は低酸素の原因となる。
また、多発肋骨骨折では出血しやすい。
大量に胸に出血することを血胸という。
(続く)

ドクターヘリ開胸手術 現場編(その9)

2019年11月10日 18:28

ランデブーポイントの小学校の近くには、
人家はあったが、
道を進むにつれ、
周りは畑だけになった。
赤車で前進奥入瀬渓流へ

さらに進むと、
信号のある交差点を右折した。
そこから奥入瀬渓流だ。
急に道路の両脇がブナ林になる。
時々右側に渓流の流れが見えた。
けたたましく鳴り響きサイレンのせいで、
清流の音は全く聞こえない。
代わって岩の崖からこだまする。
午前8時半過ぎだが、
ブナ林が日光を遮るせいか、
車道はすこし暗かった。

走り始めた10分後の8時47分、
前方から降りてくる救急車の赤灯がブナ林の巨木の隙間から見え隠れしいしが
眼の前20mくらいで、ピーポーサイレン音も聞こえた。
まず赤車が停車した。
2秒後に白車が赤車の前方すぐの対抗車線に停車した。
消防士はすぐに車を降りて、
救急車の後ろについてきた観光バスを制止した。
私たちは、赤車の後方から車が来ないことを目で確認して、
それぞれのドアを開けた。
私は腕時計を見た。
ランデブーポイントを出発して10分経過している。
ここからドクターヘリの着陸しているランデブーポイントまで戻るまで、
約10分かかることになる。
ここに停車時間は3分。
救急車は揺れを防ぎながら走行するので、
登ってきた赤車より速度は控えめにする。したがって、
ランデブーポイントまで合計15分以上と予測した。
「我々がここを出発してからでいいので
9時5分頃ランデブーポイント到着と機長に伝えて下さい。」
私は運転してきた消防士にお願いした。
そして、車道のセンターラインを横切り、
救急車の後方に着いた。
救急車から隊員は降りてこなかった。
患者処置で余裕がない証拠だ。
私は、救急車のハッチドアを3回ノックしてから跳ね上げた。
救急車のなかには、
隊員3名が乗っていた。
重症に対して1名追加したのだろう。
(続く)

ドクターヘリ開胸手術 現場編(その8)

2019年11月09日 18:45

校庭は2日前の雨で適度に湿った土だった。
そのせいか、ヘリコプターが着陸するとき砂塵が上がらなかった。
私は、半長靴の安全靴の靴底の足跡をくっきり残して、
何年も小学生が走っていない校庭を小走りに赤車に近づいた。
消防服の男が近寄ってきた。
私は彼に、救急バッグを預けた。
重いから若い消防士に荷物を持ってもらうのではない。
赤車に乗るとき、
救急バッグを座席に置くのか、
荷台に置くのかを私は判断できない。
その車の特徴で決まる。
例えば、消防タンク車だと、荷台はおろか、自分たちの座る場所の確保だけでも大変だ。
太いロープが床にあり、
座席には消火道具がある。
例えば、ランドクルーザーなら、
後部席が広いので、
座席に救急バッグを置ける。
救急バッグは3つ。
青い救急基本バッグ、赤い外傷バッグ、赤い超音波と心電図計が入っているバッグ。
消防士は、私から救急バッグを受け取り、
ハッチバックの荷室ドアを跳ね上げた。
私は自分で赤車後ろドアを開ける。
前席には、運転手と安全確認の消防士が乗ることが多い。
だから、われわれは後部席と決まっている。
橋本ナースが乗り込んだ。
しばらくそのままだったので、
橋本ナースに私は頼んだ。
「自分でドアを閉めてちょうだい」
消防士は携帯無線で現場にいると思われる、消防隊長と会話していた。
ドクターとナースを乗せて現場に向かうか、
この場にとどまり奥入瀬渓流を下りてくる救急車を待ち構えるか。
最終決定を待った。
二人の消防士は前席に座った。
直ぐに出発した。
消防車両は軽自動車だった。
天井の鉄板が薄いせいか、
天井で鳴り響くウーウーサイレンが高音量のせいか、
室内の会話はほぼできなかった。
消防無線が入った。
救急隊現場出発。
8時43分
十和田湖救急1は重症女性を1名乗せて、奥入瀬渓流阿修羅の流れを出発した。
バックボード固定、酸素100%マスク投与で。
軽自動車のバックミラーの上についている無線機の光が点灯する。
「十和田湖救急1より十和田広報1どうぞ、
出血性ショックに対する輸液の特定行為の指示を下さい」
私は
「いいですよ」。
後部席から前席の消防士に向かった大声で言った。
それを受けて
「十和田広報1より十和田湖救急1どうぞ、
輸液特定行為してくださいということです。」
消防士は無線で伝えた。
(続く)

ドクターヘリ開胸手術 現場編(その7)

2019年11月08日 18:30

橋本ナースは、気管挿管チューブに、スタイレットを入れ、潤滑剤を塗る。
胸腔ドレーンの収納を確認する。

EC135のエンジン音が低くなる。
下には、赤車が道路をこちらに向かってくるのが見えた。
高度200mの機体の中にはサイレンは聞こえない。
機体の前方には、深いブナ林の橙の森が大きく広がっていた。

機長が室内通話で言う。
「着陸します。シートベルトを確認して下さい」
整備長が言う。
「赤車は機体前方です」
旧奥入瀬小学校は廃校になった小さな学校。
平日午前8時半に、小学生の姿ない。
8時37分
ランデブーポイント旧奥入瀬小学校校庭着陸した。
左ドアを整備長が外から開けた。
医療スタッフが着陸してから外へ出るには、
整備長がドアを開けるのを待つ。
自分で開けてはだめ。
ランデブーポイントは仮の飛行場だ。
飛行機から降りる時に、
客室乗務員と、地上係員が飛行機のドアを開けることを待つのに似ている。
また離陸時にドアを閉める時も同様で、整備長が安全を確認してドアを閉めてロックする。
私、橋本ナースの順で降りた。

これから始まる重症外傷処置に、
医師とナースの2名だけで戦う事になる。
いつもは医師2名体制だが、
今日は大向医師が事情により乗っていない。
いつもは、同乗の若い医師にやってもらう緊急処置だが、
今日は私自身が自分で行う。
いつもは、私の処置の技術を若い医師に見せて教育しているが、
今日は見せる、教える相手の医師がいない。
こんなことはしばらくなかった。
久しぶりの五匹おかみだ。
なにか、壮大ことが起こる予感がした。
最重症から劇的救命する予感がした。
眼の前のナースは待ち構えられている状況に緊張していた。
(続く)

ドクターカー八戸物語予告

2019年11月07日 18:02

劇的救命ドクターヘリ開胸手術の連載中ですが
お知らせです。

2009年3月青森県ドクターヘリ開始
2010年3月八戸ドクターカー開始
ドクターカーを開始して10年たちました。
青森県の太平洋側をカバーしています。
岩手県北をカバーしています。
八戸ドクターカーは10年間で11294件の出動要請がありました。
ドクターカー10年11294件

都道府県別「ドクターヘリ+ドクターカー」(人口1万人当たりの3か月の診療数)
日本病院前救急診療医学会 平成30年度ドクターカー実態調査委員会による調査結果です。
病院前救急学会ドクターカー

11月16日14時から八戸市内でイベントを開催します。
「ドクターカー八戸物語」
中学生高校生を対象にしています。
かっこいいシールと
目立つ缶バッジが景品です。
場所:まちにわ
無料