ドクターカー・ジェット機 その3

2017年01月17日 18:13

私は、ERに置いてあるドクターカー2号のカギと車庫のカギを持ちだす。
ERから職員玄関へ向かい、さらに車庫に走る。

すでに、臓器移植ネットワークの職員と
病院事務職員が職員玄関で心配そうに待機していた。
院長から肝臓を運ぶために、
ドクターカーを出すことがスタッフに伝わっていた。
車庫のカギはリモコン。
私は外を走りながら、リモコンの白いスイッチを押す。
走りつく頃に、車庫のシャッターが全開になっているはず。
1時間まえから雪が降り始めた。

車庫のシャッターはほぼ開いていた。
車庫1の入り口から、車庫2のドクターカーV3のアルミホイールと
まだ走っていない汚れがない黒いタイヤが見えた。
白いボディーにドクターカーV3のロゴが際立つ。
その隣がドクターカー2号だ。
車庫1に入る。
ドクターカー2号の右前タイヤに接して置いてある
オレンジ色の車止めを外す。
ドクターカー2号エスクードの右前ドア開ける。
乗り込み、スイッチを右に捻る。
3000ccターボエンジンが回り出す。
ギアをドライブに入れて、ゆっくりと車を出す。
後ろ向きにシャッターの閉まるスイッチを押した。
白い雪が降っていた空は明るい。
大丈夫だ。
三沢空港は北方面だ。
運転席下にある赤色灯スイッチを押した。
車庫を出てから右へ、また右へ、また右へ。
200m位徐行で走る。
職員玄関に車をつけた。
まだ、移植医の姿は見えない。
「よかった、間に合った。
ロスタイムない」
私は、運転席から降りて、時計回りに車の後ろへ回った。
そして、外へ出ていた臓器移植ネットワークの職員と病院事務員、院長の方へ歩く。
すると、自動ドアから移植医の二人が大きなクーラーバッグを持って出てきた。
自動ドアから車まで5m。
彼らはまっすぐに車に向かう。
私は、反時計回りに車の後ろを回り、
運転席に座った。
フロンガラス越しに院長にOKサインを出す。
(続く)

ドクターカー・ジェット機 その2

2017年01月16日 18:11

ドクターカー2号は八戸飛行場に向かった。
約15分で八戸飛行場についた。
すでに、中日本航空の白いサイテーションが駐機していた。
ドクタージェットで使う機体だ。

名古屋空港を朝離陸して、八戸に午前9時頃着陸した。
給油を終えて、エンジンンアイドリング状態だった。
尊い患者の命が別の場所で別の患者にリレーされる。
ドクターカーからジェット機、そして消防ヘリコプターへ。

・・・・・・
肝臓は二つに分けられて二人の肝臓不全患者に移植される。
小さな左部分は大阪大学で10歳未満の子供に、
大きな右部分は名古屋大学で60歳代男性に移植される。

腎臓は二つある。
膵臓と腎臓は東京女子医大で30歳代女性に移植される。
残りの腎臓は八戸市立市民病院で40歳代男性に移植される。
眼球は弘前大学へ運ばれる。

肝臓を二つに分ける手術は難しい。
体から取り出してから二つに分けるので、
血管と胆管の区別がつかない。
細い管を全て糸で結んでから切離する繊細な手術が行われる。
肝臓は三沢空港から午後の定期便で伊丹空港に向かう予定だった。
しかし、二つに分離する手術に手間取った。
予定時間をオーバーしたせいで、三沢発のJALの時間が目前に迫った。

私は、その時間手術室から退室していた。
その問題に気付かなかった。
院長から私に電話がかかってきた。
「肝臓を三沢空港に運ぶための、
余裕時間がない。
タクシー移動だと、間に合わないかもしれない。
ドクターカーを出せるか」
「はい、いいですよ。
三沢空港までですね。
今すぐですか」
「10分以内」
「すぐ用意します」
ドクターカー2号はヘリポート横の車庫に入っている。
午前中に、心臓と東京大学の医師を乗せて
八戸空港に出動したばかり。
日常救急はドクターカー1号で藤田医師が今日の当番だ。
2台あるドクターカーは
医師が救急、緊急と判断すれば
使える。
正確にはドクターカーV3を加えれば3台だが。
(続く)

ドクターカー・ジェット機

2017年01月15日 18:10

朝の冷え込みは今日も強かった。
西日本から北国にきた移植医たちは自身の軽装に後悔していた。
ホテルを出た彼らは身震いしながら、
八戸市立市民病院に向かった。
北日本とはいえ、
日の出は午前7時ちょうど。
まだ真っ暗な外にでた移植医たちは
深呼吸してから今日の重大な手術の成功を天に祈った。

外の外気温度とは違って、
院内は快適な室温だった。

2時間のミーティングの後、

移植医たちは、
手術室へ移動した。

八戸市立市民病院からの〇回目となる
脳死下臓器提供手術がもうすぐ始まる。

患者は午前8時に手術室へ移動する。
・・・・・

患者から手術で頂いた
心臓は柔らかくて、健康だった。
煙草を吸わない男性の心臓は丈夫だった。
きっと、このきれいな心臓なら
移植はうまく行く。

心臓はドクターカー2号とジェット機、
東京消防庁のヘリコプターを乗り継いでで東京大学へ向かう予定。

ドクターカーのドライバーは野田頭副所長、
安全確認で助手席には私。
後部席には東京大学の移植医2名と、
30分前まで患者の体で鼓動を打っていた心臓。
心臓はショックアブソーバー用に、三重に生食とビニール袋を使い、
優しく扱う。
それをクラ―ボックスに入れる。
(続く)

移動緊急手術室ドクターカーV3出動おいらせ消防編 最終

2017年01月14日 18:28

ドクターカーV3に無線が入った。
ドクターカー1号で先行していた
藤田医師からだった。
「意識障害あり、昏睡状態、
循環はよし。
心臓破裂ない。
腹腔内出血ない。
大量血胸ない。」
近藤医師が答えた。
「ショックでなければ手術室の必要はないですね」
「そう思います」
「輸血はどうしますか」
「輸血はもらいたい」

近藤医師の情報は全員に伝えられた。
3分でほぼ出来上がった手術室であったが、
幸運にも、
使う必要はなくなった。

5分後に、
十和田救急車がおいらせ消防に到着した。
救急車のスライドドアが開く。
「今センター長、乗ってください。
万が一、手術が必要なら
ERについてからです。
輸血は載せます。」
藤田医師が指示した。
私は、輸血を持って救急車に乗り込んだ。
すぐに、
救急車は八戸ERに向かった。

30分後、十和田救急車は八戸ERに着いた。
CT検査では、頭部外傷だった。
今野部長が頭部外傷の手術を開始した。

出血性ショックに対するドクターカーV3の出動決定は難しい。
確実性を求めると、出動まで時間を要する。
素早い出動だと、今回のように
空振りする(オーバートリアージ)こともある。

遠隔地から搬送される出血性ショックには、
オーバートリアージが容認されると思うが、
今後の経験を積んで、
ドクターカーV3の出動決断基準を決めたい。

移動緊急手術室ドクターカーV3出動 完

移動緊急手術室ドクターカーV3出動おいらせ消防編 その2

2017年01月13日 18:27

病院正面を出たところで、
サイレンスイッチをオンにした。

国道45線を北上した。
目指すは、十和田市方面。
ただし、先行している
ドクターカー1号がどこで救急車とドッキングするかで、
ドクターカーV3のランデブーポイントも決まる。

最遠で、十和田市の南東の六戸町、
最短で、六戸町の南のおいらせ町、
このどちらかであろうと予測した。

まもなく、
八戸消防より無線が入る。
「ドクターカーV3はおいらせ消防署をランデブーポイントとする。」
「八戸ドクターカーV3了解」
上十三(かみとうさん)消防指令センターと八戸消防が相談した結果だろう。

イオンモールを過ぎて少し北に向かうと、
道路沿いにおいらせ消防がある。

ドクターカーV3はおいらせ消防にウィンカーを挙げて
速度を落とした。

おいらせ消防署では車庫の一部分を開けてくれていた。
シャッターの向こうはまぶしい光があった。
そこに、ドクターカーV3は車の頭を先頭に進んだ。

十和田救急隊とドクターカー1号がドッキングしたとういう無線が入った。

おいらせ消防では辻井指導救命士が指揮していた。
消防隊と救急隊総出で、
ドクターカーV3の尾部に、
手術室を作る。

消防隊員は、
スチール製の柱を2本、
車両の後方2mに立てた。
別な消防隊員は
柱と車両のハッチドアをつなぐ天井部分の骨組みを組み立てる。
別な消防隊は床に防水シートを敷く。
別な消防隊員は、排気管を外へ誘導する延長ホースを接続した。
救急隊員は
車両の両側に脚立を立てて、
屋根の収納箱を開ける。
中にグレーのテントが入っている。
それを引き出す。
濱舘医師は、手術器具を並べる机を組み立てた。

冬の零下の気温だったが、
消防署のシャッターが閉まっているせいか、
寒さは感じなかった。
(続く)