クラッシュ症候群と出血性ショック その9

2018年02月24日 18:46

いつも使う、離被架リヒカは使わない。
腹から胸、頭まで一つのエリアとする。
手術中に心停止すれば胸骨圧迫を行うからだ。
術野の医師が胸骨を圧迫する。
そのためにはいつも使う麻酔エリアと手術エリアを分ける離被架を省く。
腹から胸、頭まで一つのエリアとした。
「高カリウム7.5でさらに悪化。VFの危険大です」軽米医師のが告げた。
予想外に心停止に対する胸骨圧迫ではない。
心停止は予想される。
高カリウムとアシドーシス、出血性ショック。
心臓は必ず止まる。

明石医師は、ちょうど、右頸静脈にガイドワイヤーに沿わせて透析カテーテルを進めようとしていた。
私はそれを制止した。
「タイムアウト。十歳代男性、出血性ショック、腹腔内出血で緊急開腹手術。
推定出血量1から2リットル、輸血は躊躇なくいれてよい。
クラッシュ症候群による高カリウム7.5で危機的。
術中心停止の危険大。手術時間1時間。おねがいします」私

「メス!」
先ほど手術室に到着したばかりの、看護師は、丸刃のメスを手渡してくれた。
明石医師は、透析カテーテル処置を修了した。
そして透析が始まる。
透析には
1カリウムを下げる
2尿素窒素などの老廃物を捨てる
3アシドーシスを改善する
4余分な水分を捨てる
と、4つの目的がある。
いまは、カリウムを下げるこのために透析を行う。
(続く)

クラッシュ症候群と出血性ショック その8

2018年02月23日 18:45

尿が出てきた。
ワインレッドの尿が。
尿のアルカリ化と輸液負荷が効いてきた。
輸血も始まっている。
「ER入室時、血圧測定不能、しかし、腹部だけに、重症外傷。
予測救命率は、50%以下。
相当がんばらないと助からない。
運も必要。
あと入室まで10分だけ」私

「透析カテーテルをここで入れますか」高田医師
「いや、循環の蘇生が先、先に開腹止血。手術を急ぐ。
手術室で麻酔と同時に透析カテーテルを入れる。
刺す血管はいつもの大腿静脈ではなくて、
麻酔医が操作しやすい、首の内頸静脈だ。
ERでは16G針を入れるだけにして。」私

手術室は温められていた。
麻酔係の軽米医師の配慮だ。
出血性ショックの開腹手術では、
開腹の創から体温が逃げる。
そのため、低体温症にすぐ陥る。
低体温になると
アシドーシス、凝固障害になる。
アシドーシスになると、
内臓の血流が落ちる。
凝固障害になると血が止まらない。
男性は手術前から低体温になっている。
だから、できる限り
室温を上げて
患者の体温低下を防ぐ。

手術が開始された。
透析のために小橋MEはスタンバイ、
手術中に急変することも考え、
胸部から太ももまで茶色いイソジン(アメリカではベタジン)で消毒した。
手術中に心停止すれば胸骨圧迫を行う。
「小橋さん、透析でも加温してね。
現在低体温症で血が止まらない状況のはず」
(続く)

クラッシュ症候群と出血性ショック その7

2018年02月22日 18:44

私は、PHSを手で塞いで
「安部先生、ドクターカー出れる?」私
「どこですか、いいですよ」安部医師は呼吸を弾ませて言う。
「じゃ、電話に代わって出て」私はダイレクトブルーPHSを安部医師に預けた。

麻酔で呼ばれた軽米医師は、すでにドクターカー出動準備を代わりにしてくれていた。
用意された救急バッグを持って、安部医師はERの自動ドアから再び外へ消えていった。
同時に、明石医師が、自動ドアから現れた。
ドクターヘリストレッチャーと整備長と共に。
ドクターヘリで運んできた患者をER5ベッドに誘導した。

「軽米先生、クラッシュ症候群と出血性ショックで、開腹手術。
術中高カリウムによる心停止の危険あり。
手術中に透析を同時にしたいので、小橋MEに連絡を取って」私
「分かりました」軽米
「町田先生、患者の家族はどこ?」私
「アメリカです。家族と連絡つきません」町田医師
男性は米国人!!!。

「本人、家族の承諾なしに、輸血は大丈夫でしょうか。
アメリカ人なので、宗教上理由で、輸血拒否することもあります」高田医師
「意識障害、輸血謝絶の署名書類無い、緊急事態。よって、輸血は許される」私
エホバの証人など、宗教上の理由で輸血拒否する患者は米国に多い。
彼らは、輸血を拒否する署名入りのカードを持ち歩く。
もし成人でそのカードがあり、
輸血の説得に応じなかったら、輸血はしない。
おそらく死亡する。
しかし、カードがない時は、原則輸血する。
目の前の米国男性に、
輸血を躊躇する理由はない。

「じゃあ、O型準備できています」高田医師
「えっつ、血液型まだでていないの?」私
血液型が判明する前に、危機的出血時は、
どんな血液型の人でも、安全に輸血できるO型輸血を行う。
「いいえ、血液型がO型でした」高田医師

手術応援のために呼んだ野田頭所長がERへ登場した。
「腹腔内出血、ショック、開腹術必要、手術室の準備を手伝ってほしい。
自宅待機の機械出しナースがまだ到着していない。
外回りナースはいる」
「はい、開腹だけですね。」野田頭所長
「胸は開かない」私

(続く)

クラッシュ症候群と出血性ショック その6

2018年02月21日 18:42

「橈骨動脈触れません」町田医師
ERは再び戦闘モードに変わった。
「ヤバイ、手術室だ、クラッシュと、出血性ショック、
さらに頭部外傷、頚髄損傷。
予測救命率は低いよ。
予後は不良!
普通じゃ助からない」私
「麻酔は、吉村、軽米、呼びましょうか」町田医師
「呼んで、それまで私がやる。患者の蘇生をお願い」わたし
「手術室看護師連絡着きました」高田医師
 机の上に置き去りにされたPHSが鳴り始めた。
けたたましい、電子音が鳴る。
ダイレクトブルーPHSだ。

「はい、八戸ER,ダイレクトブルー今です。」私
「八消本部です。ドクターカー要請です」
一瞬言葉に詰まる。このタイミングでさらに現場出動要請だ。
「はい、どこですか」
「○○、」

私は、町田医師を見た。
彼女の目は、私よりさらに絶望感。
「いま、ドクターヘリが別事案に出て行きました。
明石医師と安部医師が乗っています。
ここに残っている3人で救急医師は全部です」町田医師
「それなら、ドクターカー断る」私は強く言った。

「ちょっと待ってください、私がいけるかどうか」小さな声で答える町田医師
「それは無理、これから手術」私は町田医師に向かってさらに強く宣言した。
断らない救急の困難さ・・・・

(ドクターカー出動できません)私はPHS向かって話そうとした。
「ドクターヘリはヘリポートにいま着陸しました」ERナース
「本当?」私
「少しまってください、出動できるかどうか」
私は消防につながっているPHSを握ったまま、ER自動ドアの開くのを待った。
安部医師が、紺色のフライスーツを着て走ってきた。
颯爽と走り込んだ。
希望の安部医師。
町田医師が連絡つけたらしい。
着陸と同時にERに走り込んだ。
(続く)

クラッシュ症候群と出血性ショック その5

2018年02月20日 18:42

輸液を前医から合計3L入れて、血圧は上がってきた、
だが心拍数は早いまま。
出血は腹部が中心。
超音波検査では、腹腔内出血推定1L。
血圧148/85。
CT室へ行く余裕がある。

意識障害と出血性ショック、アシドーシス、血尿。
9時40分。輸血の準備を済ませてCT室へ移動した。
いつでも輸血はできる。

CTでは、脳挫傷がひどい、
脾臓と肝臓がやられていた。
腎臓はOK.
それじゃ、血尿は?

患者はERへ戻る。
わずかに出ていた尿で、薬物検査をした。
問題なし。中毒ではない。

両足に、打撲痕、腹部にも打撲痕、大腿が腫れている。
2回目の血液ガス分析では、アシドーシス改善なし。
カリウムが7と上昇。

「クラッシュ症候群だ。救出時間30分に惑わされた。
それよりかなり前に、事故で挟まれていたんだ。
事故は朝じゃない。おそらく夜!クラッシュ症候群」私
「えっつ、それじゃ、尿のアルカリ化」高田医師
「輸液路3ルートに追加し、
全ルート生食500mlに、メイロン40ml入れて、全開で落として、
同時に、メイロン250mlも落として」私
「腹は手術ですか」高田医師
「これからバイタル狂うよ。
腹部外傷とクラッシュ症候群さらに、頚髄損傷の合わせ技。
これでは、ショックヒッパツ。
輸血を入れよう。」
血管造影TAEか手術か、私は悩んだ。
(続く)

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