突然の強い胸痛 その3

2018年04月23日 18:32

私の心の中では、
先に心電図12誘導検査をして、
心筋梗塞を疑うST上昇があったら、
右室心筋梗塞でないことを見て、
ニトログリセリンを使おう。
と考えていた。
低酸素を伴う心筋梗塞だと重症だ。
肺水腫になっているはず。

ドクターヘリは八戸市内の北の境界を越えた。
「八戸ドクターヘリ11から中部上北救急1どうぞ、
酸素10L投与で経皮酸素飽和度はいくらですか。」
「中部救急1より八戸ドクターヘリ11どうぞ、
経皮酸素飽和度100%に上昇しました」
「それならば、酸素を5Lに下げてください」
心筋梗塞への酸素投与は、
経皮酸素飽和度96%で十分と言われている。
酸素のやりすぎで100%はむしろ良くない。
「さらに続けます、
患者接触後に、
十二誘導心電図検査と心エコーをやりますから、
シャツを切っていてください」
「中部救急1了解」
緑の広い草原が見える。
牧草地だ。
その一角に、
四角く仕切られたサッカー場が見えた。
赤車は、サッカー場に隣接したアスファルト駐車場に止まっていた。
赤車からの無線が、高度400mのドクターヘリに届いた。
「風速5m、西風」
機長は、西に向かって高度を落とした。

赤車の隣に白車がいた。
この中に患者がいるはずだ。
ドクターヘリが着陸し、
我々3名が外に出た。
私とナース、田中医師は救急車の
側面ドアから救急車に入った。
入れ替わりに、
奥さんと思われる女性が救急車のハッチドアから降りた。
男性の乗るストレッチャーは、
前方が起こされている
起坐呼吸状態だった。
男性は正面を向けず、
左側に側臥位に近く、
座っていた。
酸素マスクは5Lだった。
酸素飽和度は96%。
狙いとおりだ。
男性は、胸の真ん中に手のひらを置いて
痛がっていた。
呼吸数は30回で早い。
胸のど真ん中に手のひらを置いているときは、
心筋梗塞の可能性が高い。
男性は手のひらが胸のど真ん中だった。
心筋梗塞の可能性が高い。
ただし、冷や汗がない。
冷や汗が、多くの心筋梗塞で見られる。
目の前の男性にはない。
脈拍はしっかりして触れた。
(続く)

突然の強い胸痛 その2

2018年04月22日 18:31

EC135の操縦席に機長が座り、
エンジンを始動させたばかりだった。
私たちは腰をかがめて
右ドアからヘリコプター室内へ侵入した。
私、森崎ナースの順。
その1分後に田中医師がヘリコプターに乗り込んできた。
そして、機長が室内通話で
「離陸します。
もう一度シートベルトを確認してください」
エンジン音が高くなり、
天井のプロペラの回転が速くなった。
EC135はその自重を感じさせないくらい
スムースに地面のコンクリートを離れた。

風を受けながらの離陸だった。

高度が400mに達したときには、
前方にJR八戸駅が見えた。

EC135の後方室内では、
心筋梗塞の疑いが強いので、
1心電図12誘導検査
2身体所見
3エコー検査
4末梢輸液ルート確保

の手順を確認した。

「上十三消防指令センターから八戸ドクターヘリ11どうぞ
○戸への事案、
40歳代男性。自宅で突然発症の胸痛。
ランデブーポイントは○戸サッカー運動場」上十三消防指令センター
「八戸ドクターヘリ了解。ランデブーポイント到着まで
13分」整備長
「八戸ドクターヘリ11より中部救急1どうぞ、
患者情報をおしえてください」
「中部救急1より八戸ドクターヘリ11、患者情報を送ります。
1時間続く胸痛です。
血圧122、脈拍81、呼吸数30、SpO2 88%,
酸素10Lで開始しています」
「八戸ドクターヘリ11了解、
糖尿病、高血圧の既往、たばこありますか」
糖尿病、高血圧、たばこ喫煙は心筋梗塞の危険因子だ。
「タバコがあります」
(続く)

突然の強い胸痛 その1

2018年04月20日 18:00

朝の救命カンファランスには
参加者が少なかった。
救命救急センターでの患者が少し前に心肺停止になった。
大勢の救急医が応援に行っている。
ERにも3台の救急車が来ていて、
医師が3名対応していた。
カンファランスには
佐々木医師、近藤医師、野田頭所長、
大向医師、と私だけ。
それから自治医大6年生の大江君
弘前大学6年生の菊池君の2名が
実習で参加している。
大向医師は、4月から3年目として
救急後期研修に入ったばかりだった。
昨日は、私と一緒に
ドクターカーで現場出動を2回した。

そして、今日は
ドクターヘリ当番は私と田中医師。

さて、救命カンファランスでは、
昨日の入院患者のプレゼンが行われていた。
その時、
私の右胸ポケットでPHSが鳴り響いた。
ドクターヘリ出動の文字が浮かんでいた。

私は、救命カンファランスを出て、
CSのあるERへ走った。
今日のヘリ番の森崎ナースとエレベーター近くで鉢合わせになった。
「〇戸町で、40歳代男性胸痛。
突然発症」ナース
八戸では、病院建物とヘリポートが近いので、
医師と看護師が、出動要請を受けてからヘリポートに走り込む時間に余裕が出る。
そのため、出動内容情報を仕入れるために、
出動PHSが鳴ったら、
全員CS部屋へ集まる約束だった。
ただし、患者情報を入手次第に、
直ぐにヘリポートへ走り出す。
私は、ナースから情報をもらったので、
その先のCS部屋へは進まず、
元来たヘリポートへつながる廊下を戻った。
(続く)

低血糖 灯台もと暗し 最終

2018年04月16日 18:09

妻は軽い認知症だった。
妻は糖尿病で、内服治療をしている。
薬の内容は
アマリール
ジャヌビア
メトホルミン
だ。
全て血糖を下げる薬だ。
とくに、
アマリールは持続時間が24時間だ。
90歳代男性が誤薬した薬は、
アマリールに違いない。
血糖値の回復時間もぴったりだ。
誤薬の元は、
軽い認知症の妻だ。

とする、
妻と患者は同居している。
退院後は、
同じことがまた起こるかもしれない。

と、佐々木医師の推理。

男性は、佐々木医師の鋭い推理で無事原因が解明された。

老々介護で起こった事件だった。

低血糖 灯台もと暗し 完

低血糖 灯台もと暗し その3

2018年04月15日 18:08

息 子の話では、
意識がなくなりかかりつけのクリニックに数回救急車で運ばれていると。

低血糖の原因は何だろう。
腹部CTでは、膿瘍はない。
血液細菌検査、
重症感染症ではない。

そうすれば、最大頻度の
糖尿病の血糖降下剤か?
本人の内服薬にはないが・・・

結論は、
デイケア―センターでの、
誤薬と推測した。
早速電話で問い合わせた。
すると
「誤薬はしていない。
担当看護師がマンツーマンで薬を飲ませている。
まちがいない」と
どうやら昼に飲ませ薬に誤薬はないようだ。
では、朝はどうか・・・・

家族背景を調査する。
病歴徴取は、別居している息子から。
同居している妻とは会っていない。
妻の状況がわかってきた。
驚きの真実。
(続く)